?はじまりの噺?
何処の町あるのやら、そこは不思議なよろず屋花菱(はなびし)。
巷で噂の何でも屋。
どんな依頼も承ります。
探し物ならどんと来い、口に出せない願いもどうぞ。
無理だと思うな、言ってみな。
望むのならば叶えましょ。
恋に勉学
地位に金
恨み辛みと何でも御座れ。
如何なる願いも叶えましょ。
ただし、大事な御願一つ。
店主の花菱、噺好き。
御一人聞き手をご用意下せえ。
願いを叶える噺をしましょ。
貴方が聞いても意味は無し。
聞き手は聞き手、演者は演者。
叶えるのは語り手花菱。
花菱語りゃモノノケ顔出す。
それは少しの御愛嬌。
怯えなさるな
願うのならば。
彼奴等は演者。
貴方と同じ。
「花菱さん。売り文句はこんなモンでどうでしょ」
「長い。やり直し」
「勘弁して下さい花菱さん……何度書き直せば許してくれるんです?」
「無論泣く迄」
「畜生め!」
扇子を一振りパチンと開く。それは御噺始まりの合図。
「百聞は一見に如かず。いや、この場合は百見は一聞に如かずと言うべきか。まずは体験。早速語ろう噺を一つ」
「語りたいだけでしょうに」
「減給決定」
「御勘弁を」
御客は居ずとも花菱語る。
是は単なる独り言。
聞くのも勝手聞かぬも勝手。
よろず屋花菱御構い無し。
「是はとある男の依頼」
「プライバシーは無いのですか?」
「いえいえ、是は架空の御噺。ナウい言葉で所謂フィクション」
「ナウいの表現が今はナウくないです花菱さん」
「……兎に角、是は架空の御噺。実在の人物には何ら関係御座いませぬ」
「語る噺は『恨み節』。其れは哀しき恋物語」
それでは始まり
よろず屋花菱よろずの御噺その一つ
?壱の噺? 『恨み節』