小説『リリカルなのはの世界へ飛び込んだ少年の物語』
作者:ryo()

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 次の日、案の定と言うべきか高町なのはに声を掛けられた。驚くべきことだが俺の席の前に座っていた。挨拶をしようと何度も声を掛けたそうだが俺は起きなかったらしい。
「昨日のこと、教えてほしいの!何であそこに居たの?」
「ここで話せることではないんじゃないのか?頭がおかしい奴認定されるぞ」
 ここは学校だ。こんなところで魔法だの結界だの言ってみろ。何言ってんだこいつら、的な視線を向けられるに決まっている。そんなことはごめんだ。
「そうだね、じゃあ放課後に話そうか。じゃあ、一緒にお弁当食べようよ!」
 何を言ってるんだ?まだ学校に来てそんなに時間は経ってな・・・いこともないのか。そういえば俺は寝ていた筈だ。思っていたより時間が経っているだけの話か。
「別に構わんが、どこで食べるんだ?」
「なのは、早くしなさいよ!」
「なのはちゃん、突然走ってどうしたの?」
 美少女三人組がそろっていた。(そう言われているらしい。俺は興味が無い)そこに露菜がやってきた。
「なのは、わたしも一緒に食べてもいいかしら?って、なんで結弦がここに居るのよ」
「俺も訳が分からないままに高町に連れてこられたんだよ。ほら、手を掴まれて逃げられないようにされてるだろ?」
「一瞬で抜けられるくせして何言ってんのよ。まあ、弁当持ってきたからちょうどよかったんだけどね。わたしはパン買ってるけど結弦は何も食べてないって言ったらリニスが作ってくれたのよ。私1人じゃ食べられないから起こしに行こうと思ってたから。」
 でもよくよく考えたら男は俺だけじゃないか。こういう場所は嫌なんだが。
「初めましてだけど時間が無くなっても問題だから早く食べましょ」
 そうして食事を開始したのは良かったのだが、
「この弁当にはなぜ魚介類しか入っていないんだ!肉は要らんがせめて野菜入れてほしかった。ご飯まで鯛めしってのはどうかしてると思うんだが・・・。まあ、猫なら仕方ないのか?いや、それにしても。帰ったらバランスを考えろというか。露菜の身体に悪い」
「九条君って実は優しいんだね。怖そうな顔してたから不安だったんだ」
 結構失礼なことを言うな、月村すずか。
「そうなの!九条君は昨日もわたしを助けてくれたの!すごく強かったんだよ。自己紹介の時の気を足で蹴り倒すっていうのも嘘じゃないかもしれないくらい強いの!」
 木どころかコンクリートだって蹴り壊せることは言わない方がいいかもしれない。
「そんなに強いの?意外ね、細身な体なのに」
 結構なことを言ってくるお嬢様タイプ、アリサ・バニングス。といっても全員今覚えたばかりだ。それにしても、一緒に話をしてるだけで殺意を向けられるとは驚いた。
「結弦、あんた昨日何してたのよ?リニスに聞いても分からないの一点張りだし」
 うん、それは本当に分かってないな。おそらく、あの場で起きたことを理解できなかったということだろう。普通の子供が化物蹴り飛ばしてる光景なんて納得して観ていられる奴が居たなら、そいつはもはや普通ではない。今回は俺が普通ではなかったわけだがな。
「早く食べきらないと昼休みが終わるぜ?随分話し込んでたみたいだからな」
 そうして、昼休みは終わり、次は体育の授業だった。俺たちが転校してからは初めての体育だ。ドッジボールをするのだという。子供かと言いそうになったが、今現在実際に子供だったことを思い出して頭を抱えそうになった。なぜ俺がこんなことを・・・。

 そんなこんなで結局始まってしまったドッジボールだが、異常なほどにすずかが強かった。1人また1人とものすごい勢いで人数が減っていく。全弾避けている俺が言うのもどうかとは思うがな。そして、結局俺と露菜以外は全員アウトになってしまった。
「あんた達、明らかに手を抜いてたでしょ!何で2人だけになった途端にこっちのメンバーがほとんどやられてるのよ!」
 そう、こちらが2人になった時に向こうは13人残っていた。だが今は、3人だ。高町なのは、月村すずか、アリサ・バニングスを残し全滅だ。
「しかしな、お前ら弱すぎるだろう。どうしてこんなに弱いんだ?」
「あんたが強いだけよ!あんたが『始めようか』とか言った時に『雑魚が何を言っている』って言った奴が凄い勢いで飛んで行ったのあんたの仕業でしょ!」
 うざい奴に本気で投げたボールをぶつけただけだ。その時顔面に当たり、『メキッ』と言った後、体育館の壁に突き刺さろうが知ったことではない。
「そうだったの?じゃあボールはどこに行ったの?」
 ボールはゴム製だったから空気の摩擦で溶けたんじゃないかな?たぶん得体の知れない明らかに液体だったであろう固形物がそこら辺にあるはずだ。言わないけど。
「さあ?どこに行ったんだろうね、ボール。そんなことより早く始めよう」
「じゃあ行くよ、九条君!」
 すずかは俺に向かってボールを投げる。結構な速度で飛んでくるが所詮は子供だ。取れないことは無い。とりあえず片手でキャッチする。そしてそのまま投げ返す。
「え、取れ・・・ない!」
 すずかはそのボールを取ることが出来ずに上に弾いてしまった。ドッジボールでは負けたことが無かったのかもしれない。驚愕の表情でこちらを見ていた。しかしそのまま何事もなかったようにフィールドから去って行った。
「負けちゃった。がんばってね、アリサちゃん!」
「いや、無理よ!絶対勝てないわよ、あいつには」
 誰も勝てなんて言ってないじゃないか。そんなこんなで俺たちの勝利だった。

「じゃあね、すずかちゃん、アリサちゃん」
 これからが本番だ。高町なのはに昨日のことを聞かれるのだろう。本当に面倒だ。
「ねえ、九条君。なんで昨日あの場所に居たの?」
「醤油を買いに出かけてただけだ。露菜の奴が買い忘れてきやがったんだ」
 本当に唯それだけだった。なのにあんな面倒事に巻き込みやがって。
「でもね、あの結界の中には魔力を持った人しか入れないんだって。何で入れたの?」
「それは簡単だろ?俺も魔力を持っているってことだよ」
「でも、化物を倒した時には魔力反応が無かったってユーノ君は言ってたよ」
「それも単純なことだ。俺は唯単に殴り付けただけだ。魔力など使うまでもない」
 あの程度の相手なら魔力を使わずとも余裕で勝てる。そのためデバイスは持ち歩いていない。魔力を使わないならばその制御装置は唯の荷物になり替わる。
「大体分かったの。また化物が出てきたら助けてくれる?」
「場合によるとだけ言っておこうか。いつも高町と一緒に居るわけじゃないからな」
「わたしの名前はなのはだよ。なのはって呼んでほしいな。わたしも結弦君って呼ぶから」
「分かった、名前を呼ぶくらいならいいだろう。じゃあ、俺はそろそろ帰るとするか」
「うん!また明日たくさんお話ししようね!」
 無邪気な顔でそう言い走り去っていった。俺にもあんなに無邪気に笑えるときはあっただろうか。だが、過ぎた時間は戻らない。それならば俺は前に進み続けるだけだ。
「明日からは面白いことが起きそうだ。さて、そろそろ帰ろうか。待たせたか?先に帰っててもよかったんだぜ、露菜」
「何の話か気になって聞いてたんだけど、ばれてたのね?それにしても随分と仲がいいじゃない、なのはと。」
「別にそうでもないさ。早く帰るぞ、リニスが一人さびしく待ってるかもしれないからな」
 そう言い走り出した。慣れてみれば意外と楽しい小学校生活だ。周りが面白いだけなのかもしれないがそんなことはどうでもいい。今楽しければそれでいいと思う。
 間違いなく何かの厄介ごとに巻き込まれた感が否めないがな。

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