〜 序 〜
「常に正直者であれ」
それが、俺に古武術を教えてくれた曽祖父の遺言だった。
俺は、その遺言を忠実に守り生きてきた。
少なくとも、幼少期に身体の弱かった俺にとって、武術家だった曽祖父はとても強くて、絶対的な存在に思えていたからだ。
そして、曽祖父が亡くなって数年の間、俺は正直者であろうと心がけてきた。
身長人並み、成績は中の下くらい。
古武術をやっている以外には、特に秀でたところも、変わった主義主張もなかった俺だったが、正直に生きるには……この世の中は世知辛すぎた。
少し正直に話すだけで、周囲からは嫌な目で見られることが多いのだ。
ドラマの俳優の殺陣シーンが下手過ぎて話にならないだとか、体格が時代にそぐっていないとか、腕だけで刀が振るえる訳がないとか。
加えて言えば……中学生の頃、好きになった女の子に正直に告白したところ……いや、あれを思い出すのは止そう。月光蝶で消し去りたいくらいの黒歴史だ。
まぁ、そういうことがあって、正直に生きると何故か相手が怒り出し、殴りかかってきた相手を古武術で制圧するという日々を繰り返した結果。
中学生の終わりの頃には、孤高を極め過ぎる結果となり、友人が一人もいないという灰色の学生生活を送る羽目になってしまったのだ。
その状況に至ってようやく、内心は秘めた方が得策だと俺は気付いたのだが……
──名誉を挽回しようにも、友人を新たに作ろうにも、時はすでに遅かった。
だからこそ、高校受験を控えた俺はちょっとばかり遠くて難しい学校をも視野に入れ始めていたのだ。
それでも、やっぱり俺は正直に生きたいと思っていたし、正直でありたいと思っていた。
……そう、思っていたのに。
俺は常に嘘を吐き続けることを強いられることになってしまう。
全ての原因は高校受験を控え、そろそろ進学先を選ぼうという矢先に流れた、その学校のCMを見てしまったことだった。
『夢の島高等学校』
その学校はそんな、まるでゴミを埋め立てて造られたような名前の学校だった。