小説『緋弾のアリア―氷ノ狼―』
作者:まさみや()

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13弾  対 武偵殺し








「さて、そろそろ行ったかな?」



キンジの足音が聞こえなくなったのを確認し、行動を起こすことにした。
私と峰の二人っきりのバーで私は目を閉じる。そして、口を開く。



「――――――“狼活性・弐(ウルフ・セカンド・チェンジ)”!」



ばさぁ…!

狼月家特有の銀の髪が伸びた。肩から腰あたりまで。



「なん、だ…!?」


「弐番目の狼活性。狼月の純血をひく者のみが使える術だ」



うーん……まぁ、説明しても大丈夫だよな。
うん!大丈夫なことにしておこう。――――――のちのち、厄介なことになりそうだけど。


「髪が伸びるのは副作用の一種。
 狼活性・弐の力は――――――――――――身をもって体験してくれ!」



金属同士がぶつかる音が、バーに響く。


「っ!?」


「重いだろ?……一撃が」


笑う。
戦闘時に笑っちゃうのって狼月の(さが)だよねー…。

笑う私と驚愕の表情に染まる峰。まぁ、それが可笑しくもあるのは確かだ。


「なにをした…!?」


「別に、何もしてないよ」


「ウルフ・セカンド・チェンジ……」


「まぁ、そうだよ。
 今回だけ、無料で教えてやる」



次回は有料だけどねー。



(セカンド)の能力は嗅覚・聴覚を狼活性の2倍。筋力を3倍にする」



まぁ、嗅覚・聴覚は獣並って所だな。筋力は……キンジよりか強いかな。キンジの筋力知らないけど。
何にせよ…今の私と近接戦は危険だ。



「この状態で、私と一戦交えてもらうよ!」





時間稼ぎの始まりだ。












































































剣劇の音と発砲音。その中心でナイフを受け、銃弾を上手く叩き落としたり避ける私に攻撃してくる峰。



「ねえねえ、刹那。イ・ウーに来ない?」


「勘弁してくれ。武偵局の奴らに殺される」


「そんなことないと思うなー」


「……………」




会話の途中でも、ナイフと日本刀、ワルサーP99を二丁とジェリコ941を一丁で斬り結んだり撃ち合ったりしていた。
峰は余裕たっぷり、と笑みさえこぼしていたがこちらは案外きつかった。




「だって、刹那、スッゴく強いのに。どうして隠してるの?」


「お前、どこまで知ってるんだ?」


「くふふっ」




ガギンッ!


私と峰が同時に弾切れを起こし、ナイフと日本刀とのつばぜり合いになる。
何がきついかというと、むこうの武器が4つということだ。2つの武器で4つの武器を捌くのは難しい。やってるけどね…。



「実はね、今の刹那のお兄さんからの伝言なんだよー」


「っ!私に、兄なんていない!」




どうやら、私はキンジにこれからは言えないな。
私もとある人物の事になると、苛立ってしまう。それでも、まだ冷静でいられるのは、年期が違うからだろう。




「えぇー?
それ聞いたら、お兄さん、傷ついちゃうよー」


「微塵も傷つかないから大丈夫だ」


詩歌(しいか)、かわいそー」



ナイフ2本を、一刀の日本刀で受けきるのは正直キツい。向こうは銃弾を再装填(リロード)する時間があるし。




「ねえ、刹那ってさ………何で、詩歌を追ってるの?」


「私用だ。――――――【貫け】、【氷剣(ひょうけん)】!」




距離を取って、“言霊”で遠距離攻撃を仕掛ける。

詩歌、とは義理の兄だ。まぁ、色々あって追っている。人に教えたくないので、追っている理由は誰にも言っていない。


「違うよね?」




峰は軽々しく避けて、反撃に出ようとする。




「いや。完全に私用だって。
―――――――【堅牢】なる【氷】の【守り】、【氷壁(ひょうへき)】!」




一メートル程度の厚さの壁を作り、ジェリコの再装填(をする。




「あー!
これって、アリアにもやったヤツだ」


「あぁ。頑張って壊してくれ」




神崎に言ったのと同じ言葉を言って、再装填を終える。

そろそろ、キンジが神崎に復活薬(ラッツォ)を打ったかな?まぁ、そろそろ撤退しますか。




「【凍てつけ】【水】よ!
【我が姿】を【隠す】ため、【霧】となり【顕現】せよ!」




撤退専用の“氷霧(ひょうむ)”――――――濃い霧を発生させて、足音を消してキンジと神崎の個室に走り出す。




「あれれー?
刹那、どこ行くのー?」




何処でもいいだろう?
金にならないなら、教える必要はないだろう。

と、心の中で考えながら走っていた。







































































トン、トントン、トトトン…。

峰が使った和文モールスをノックでやってから、キンジと神崎の個室に入る。
ちなみに、今の和文モールスは「刹那。入る」だ。



「セツか。無事で何よりだ」


「うお…!?
なってるキンジ、久々に見るな………」



なる、とはキンジの能力(というか、遺伝した能力)、Histeria・Savant・Syndrome(ヒステリア・サヴァン・シンドローム) …………キンジ曰く『ヒステリアモード』になることだ。
ヒステリアモードとは、一定量以上の恋愛時脳内物質βエンドルフィンが分泌されると、それが常人の約30倍もの量の神経伝達物質を媒介し、大脳・小脳・脊髄と言った中枢神経系の活動を劇的に更進させる。その結果、ヒステリアモード時では論理的思考力、判断力、反射神経までもが飛躍的に向上し、うんたらかんたら(キンジの理解が追い付いてないので、この先は知らない)で、簡単に言ったら、性的に興奮すると、一時的に人が変わったようなスーパーモードになるのだ。


このせいで、キンジは中学時代ひどい目にあっていたな。そのせいで、最後の方…………卒業近くは、ヒステリアモードになるのを嫌がっていたな。キンジのヒステリアモードを利用して、復讐やら制裁やらに使ったのだ。で、その女子どもは私がキッチリ制裁してやったからなー。



「何でかな?
その状態で、セツを見ると恐怖しか感じないのだけれど」


「気のせいだろう。
今回は、殴らないから……安心して」



まぁ、ヒステリアモードで女子に利用されていたキンジを殴り飛ばして止めた記憶がある。しかも、数回。



「刹那、よね…?」



部屋の奥の方にいた神崎が驚いた顔で私を見る。



「あ、うん。狼月刹那だよ」



そうだった。今、私の髪は腰くらいの長さがあるんだった。“狼活性・弐”は髪を長くする副作用があるからな。



「で、多少は時間は稼いだが、あまり時間はないだろうから、作戦の説明よろしく」




最早、決まり切っているだろう作戦をキンジに尋ねた。











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