小説『緋弾のアリア―氷ノ狼―』
作者:まさみや()

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15弾 さぁ、どうしましょうか?







「【爆ぜ――――」


「ち、ちょっと!
こんなところで爆発起こす気!?」


今、私と神崎は操縦室にいた。
遠隔操縦のために仕掛けていたらしいカラクリを、外すのが面倒くさ………手間がかかるので爆発させようとしたら神崎に止められた。



「駄目か…。(セカンド)でも……叩き壊すには2分はいる……」


「銃で撃って外す方が速い!」



その選択肢があったか…。


ガン!ガンッ!


ガバメントを発砲して、カラクリを外す。



「神崎、操縦うわあっ!?」




ドドオオオオオオンッッッ!!



私の言葉の最後が乱れたのは、一番激しい振動がANA600便を襲ったからだ。



「この臭い……ガソリン!?」



狼活性・弐をしていたら、周囲の匂いは知覚することができるから、ガソリンの匂いが微かにわかる。微かになのは、雨と風で匂いが流されているからだ。



「ミサイルでも撃たれたか!?」


「刹那、あんた操縦経験は!?」


「あったら今頃、車輌科(ロジ)にいるよ!」



叫びつつ、窓に近づく。
見えない……。キンジが来たら確認するか…。



「神崎、お前はあるのか?操縦経験」


「ないわ。セスナなら、あるんだけど」



セスナ飛ばしたことあるんだ…。まぁ、私は一応強襲専門武偵だ。あんまり(?)必要ない知識だろう。




「お…!
キンジが来たみたいだな」



しばらくすると足音と臭いなれた臭いがした、と思ったらキンジが操縦室に駆け込んで来た。




「――――遅い!」




神崎が犬歯をむいてキンジに叫んだ。




「キンジ、多分だか燃料漏れしているかもしれない。ミサイルでも撃たれたか?それとも、設置されていた爆弾でも爆発したか?」


「前者だ」




神崎がスポッとその小さな体を操縦席に収める。



「アリア――――飛行機、操縦できるのか」


「セスナならね。ジェット機なんて飛ばしたことない」



神崎が、ハンドル状の操縦捍を握って、大胆に操縦捍をひく。
それに呼応して、ANA600便は目を覚ましたように機首を上げた。



「上下左右に飛ばすくらいは、できるけど」


「着陸は?」


「できないわ」


「――――そうか」



機体が水平になった。
うわー…。結構、低いところ飛んでたんだなー…。

てか、この飛行機…燃料、漏れてるよね?



「キンジ、お前が操縦席(に座れ」


「セツ、お前は?」


「ちょっと、ね」



キンジが操縦席に座り、無線機を装着する。インカムから、スピーカーに切り替えたのか、無線機から声が聞こえてきた。



『―――31―――で応答を。繰り返す―――こちら羽田コントロール。ANA600便、緊急通信周波数127・631で応答せよ。繰り返す、127・631だ。応答せよ――――』



キンジが計器盤に付けられたスイッチをONにする。



「―――こちら600便だ。当機は先ほどハイジャックされたが、今はコントロールを取り戻している。機長と副操縦士が負傷した。現在は乗客の武偵2名が操縦している。俺は遠山キンジ。もう一人は、神崎・H・アリア。他にもう一人、乗り合わせた武偵、狼月刹那がいる」



操縦してないね、私。まぁ、これから出来ないからだろうからね。目を、閉じる。



「【凝固】せよ!【氷結】せよ!【凍れ】!
【凍結】せよ!【昇華】せよ!【結氷】しろ!」



言葉を紡ぐ。



「【全て】を【凍てつかす】【氷】の【結晶】よ!
【我が】【意思】に【従い】、【命じる】【もの】を【氷結】させよ!」



一気に言った後に、ふぅー、と息を吐く。



「セツ…?」


「何してるの?」



衛生電話をコールし始めたキンジと、今現在操縦している神崎が不思議そうに尋ねてくる。



「まぁ、ちょっとね」



「……?
キンジは、誰に電話してるの」



神崎がキンジに聞いたとき、丁度、新たな声が聞こえた。



『もしもし?』


「俺だよ武藤。ヘンな番号からですまない」


『キ、キンジか!?いまどこにいる!?お前のカノジョたちが大変だぞ!』


「カノジョじゃないが、アリアは隣に、セツは後ろにいるよ」



どうやら、キンジは車輌科(ロジ)の優等生、武藤剛気と電話しているようだ。



『ちょ……お前!何やってんだよ……!』


「か……かの、かの!?」


「カノジョじゃない。――――元、パートナーだ」



ここは、否定させてもらう。ヘンな誤解は後々厄介な事になるからな。
と、冷静に否定する私とは対照的に神崎はぼばぼばぼ、と赤面癖を発揮させていた。何か言いそうなのを、キンジに人差し指を当てられて止められていたが。



「……っ!」



多分、真っ赤になっているのだろう。私は目を閉じたままなので、視認することはできない。



「――――武藤。ハイジャックの事、よく知ってたな。報道されてるのか」


『とっくに大ニュースだぜ。客の誰かが機内電話で通報でもしたんだろ』



……私、先輩に「武偵殺し出ましたー」って言ったような………気のせいか。気にしたら負けだ狼月刹那。



『乗客名簿はすぐに通信科(コネクト)が周知してな。アリアと狼月さんの名前があったってんで、今みんなで教室に集まってたとこだよ』



その後、キンジが羽田コントロールと武藤剛気に手短に現状を伝えた。機がハイジャックされ、犯人は逃亡。ミサイルをぶちこまれてエンジン2基破壊。
ヤバくないかな、この状況。



『……ANA600便、まずは安心しろ。そのB737−350は最新技術の結晶だ。残りのエンジンが2基でも問題なく飛べるし、どんな天候でもその長所は変わらない』



神崎が少しホッとしたように息をつく。
でも、安心はできない。何しろ、エンジンが2基破壊されているんだから、な。



『それよりキンジ。破壊されたのは内側の2基だって言ったな。燃料計の数字を教えろ。
EICAS(アイキャス)――――中央から少し上についてる四角い画面で、二行四列に並んだ丸いメーターの下に、Fuel(フュエル)と書かれた3つのメモリがある。その真ん中、Total(トータル)ってヤツの数値だ』



……意味不明だな。目を開けていても理解は出来ないだろう。まあ、理解する気がないのだから。



「数字は――――今、537になった。どうも少しずつ減ってるようだ。今、530」



武藤剛気の舌打ちが聞こえた。



『くそったれ………盛大に漏れてるぞ』


「【私】が【言ったこと】、【当たった】ねー」


「燃料漏れ……!?と、止める方法を教えなさいよ!」



神崎がヒステリックな声をあげると、しばらくの間無言が続いた。



『方法は無い。分かりやすく言うと、B737−350の機体側のエンジンは燃料系の門も兼ねてるんだ。そこを壊されると、どこを閉じても漏出を止められない』


「あ、あとどのくらいもつの」


『残量はともかく、漏出のペースが早い。言いたかないが………10分ってとこだ』


「さすがは先端技術の結晶だな」


「キンジ、神崎」




意を決して、話しかける。



「プラス5分はもたせてやる」


「セツ…!?」


「ど、どうやるのよ!
燃料漏れを止める方法は無いのよ!」



「無いなら、作ればいいだけだ」



私は不敵に笑った。











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