小説『緋弾のアリア―氷ノ狼―』
作者:まさみや()

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6弾 私の乗っていたバスがジャックされました



「はぁ………雨かぁ…」



神崎と契約し、何も起こらないまま―――私には。どうやらキンジには災難続きだったらしい)―――数日が過ぎた。そういえば、私が先日の事件(銀行強盗)の事後処理や報告書提出でいない間、キンジが強襲科(アサルト)に戻って来たらしい。
まぁ、私には関係ないので特に気にはしていないけど。


あいにく、今日の天気は雨で乗ったバスはすし詰め状態。湿気と熱気で最悪だ。もう一つ前の時間のバスに乗れば良かった、とバスが第三男子寮の前で止まっている間に後悔していた。




「のっ!乗せてくれ武藤!」


「そうしたいとこだがムリだ!満員!お前チャリで来いよっ」




あ、キンジだ。
災難だなぁ、キンジは。私はバスの後方の座席に座っているのだが、武藤―――確か、同じクラスで車輌科(ロジ)の男―――に頼んでいるが無理だろうな。これ以上は入れないだろう。



「俺のチャリはぶっ壊れちまったんだよっ。これに乗れないと遅刻するんだ!」


「ムリなもんはムリだ!キンジ、男は思い切りが大事だぜ?」



女にも思い切りは大事だと思う。



「1時間目フケちゃえよ!というわけで2時間目にまた会おう!」




と武藤がいうとバスのドアが閉まり、動き出した。キンジが私に気がついて、何か言いたげな顔をしたが、私は笑顔で声に出さず口だけを動かし



『が・ん・ば・れ・よ』



と伝えた。
























人間万事歳奥が馬、っていうヤツなのかなぁ…?
違うのかな?私国語苦手だし、こんな状況で考えてる場合じゃないな。


『このバスには 爆弾がしかけてありやがります』



携帯から告げられる脅迫。



『速度を落とすと 爆弾しやがります』




「朝からついてないなー…」



携帯を取り出し、電話をかけると三コール目で



『何だよ、朝っぱらから。こっちは昨日の事後処理で忙しくて寝てねぇんだよ』


「おはよう、先輩。バスジャックされました。充分な装備で救けにきてください」


『俺は寝る』


「えぇー!?可愛い後輩が救けを求めてるんですよ?救けに来ましょうよ!」


『俺は寝る』


「………最低だなぁ」


『じゃあな』


「あ、ミヤちーいる?」



ブチッ。
切られた。最低だなぁ、神風先輩は。あ、先輩は上司でもあるけど上司っぽくないから先輩って呼ぶことが多いんだよねぇ…




『“氷狼(ひょうろう)”は動くな でやがります』


「――――――凍らしていい?」


笑顔で携帯に言った。返事はないし、携帯を凍らしても気晴らしにもならない。条件反射っぽく、私の体から冷気が発せられる。

ざわざわ。

あ…!……あーあ…バレたよ。私が“氷狼”だってこと。





「ろ、狼月さんが氷狼…!?」


「チッ。
最低最悪な朝だ。しかも、私を封じにかかるとは」





氷狼、とは私の凄く…凄く凄く凄ぉーく嫌いな二つ名なのだ。
二つ名の理由?
人には知られたくないから、隠しているんだが、知ってる人は………裏の人間くらいかな?
でも、最近は世間でも知られる様になったな。去年、神奈川武偵高の体育館を全壊させたからな。いや、四分の三くらいなんだけど半壊って言っておこう。四分の一は壊してないし。




「もしかして、神奈川武偵高の体育館、全壊させたのって……」


「ええ!?」


「でも、噂じゃあ………」


『乗客は大人しく しやがれです』


「はぁ…。私がバスごと凍らせればラクなんだがなぁ……」



まあ、爆弾がどこにあるかわからない現状では無理というよりは無謀だな。



「どーするかなー?」



ブブブッ!……ブブブッ!

マナーモードにしていた携帯が振動する。すぐに電話に出ると



『刹那、あんた今どこにいるの?緊急であんたに頼みたいことがあるの!』


「いやぁ、乗っ取(ジャック)られたバスの中だよ?」


『わかったわ』



それだけ言って、神崎は電話を切ってしまった。なんか、私って一方的に電話が切られることが多いなー。悲しいことに。



「さて、救けを待つとしますか」



多分、神崎とキンジが来るだろう。
今の電話と、最近の噂『キンジと神崎ができている』ってヤツで予想はつくし、私のカンはそう告げているし。
私のカンって、自分で言うのもなんだけどよく当たるんだよねー























転た寝半分で目を閉じていた私は、静かに目を開け、呟いた。



「来た、か」


下手に動くと何をされるかわからない以上、私は座席を動く事が出来ない。
でも、救けが来たようだ。バスの上から、着地した様な足音とキンジと神崎の声。
はぁ…。私が救けに来られれば、報酬に高っい金額要求するのに。………無理か。



コツコツ


音がした方向を見ると、C装備のキンジがいた。
うん、私のカンって凄いね!



「みんな無事か!」


「キンジ!」



あ、武藤だ。
このバスに乗ったのが運のツキ。かわいそうに…。きっと、友達を見捨てたのが原因だろう。…私も同罪だけど。



「武藤――――2限はまだだが、また会っちまったな」


「あ、ああ。ちくしょう……!なんでオレはこんなバスに乗っちまったんだ?」


「友達を見捨てたからバチが当たったんじゃねーの」



何か、ずっと会話しそうな感じがしたので



「おい、キンジ」


「セツ…」


「アレ。運転席の近くにいる子」



席を立たず、指差すだけ。
用心し過ぎだが、用心に越したことはないだろう。金にはならないけど。



「と、ととと遠山先輩!助けてっ」


「どうした、何があった」


「い、いい、いつの間にか私の携帯がすり替わってたんですっ。そ、それが喋り出して」



『速度を落とすと 爆発しやがります』



狙った様に喋る携帯。



『“氷狼”は術を使うな でやがります』


「殺す…!事件に偽装させて殺してやる!
金がかからない様に、私が凍らしてから自殺っぽく隠蔽工作してやるよ!」



武偵法9条?
偽装するから大丈夫。隠蔽工作は得意分野だから!バレたこと無いし!




「…?
セツ、“氷狼”って何だ?」


「そうだな…。お前の全財産、くれるんだったら教えてあげる」


「そこまで教えるのイヤなのか…?」


「え?
遺書に、『俺、遠山キンジの財産(カネ)は全部、狼月刹那に譲ります』って書くのもありだよ」


「笑顔で言うな。聞きたくなくなった」



キンジはため息をつきつつ、神崎(多分)に状況報告をする。



「お前の言った通りだったよ、このバスは遠隔操作されてる。そっちはどうなんだ」


「――――爆弾らしいものがあるわ!」




神崎の声が後ろの方から聞こえた。それに気付いたキンジが背伸びして、バスの後方を見る。



「カジンスキーβ型のプラスチック爆弾、『武偵殺し』の十八番よ。
見えるだけでも―――――炸薬の容量は、3500立法センチはあるわ!」




神崎が告げることは、気が遠くなりそうだった。
私の防御術……氷壁でも防げるかわからない。爆発すれば、バスでなくても電車でも吹っ飛ぶよ…



「潜り込んで解体を試み――――あっ!」


バスが、揺れた。
立ち上がってバスの後ろを見ることが出来ない私は、“狼活性(ウルフ・チェンジ)”を使って周辺を知覚する。



「大丈夫かアリア!」



「キン―――――」



『“氷狼”は動くな でやがります』



何回目かの、私に対する脅迫。
神崎がやられたのは―――――




ウォン!




―――車。
今バスの窓から一瞬見えたが真っ赤なオープンカー、ルノー・スポール・スパイダー―――確か、武偵局の部署が違う同期がこういうヤツが好きでよく見せてくるから知っていた―――だ。




「―――みんな伏せろッ!」



私、伏せれないよ!
術……氷壁使っちゃ駄目だし!どうすればいいんだよ!イジメか!かがむけど!



バリバリバリバリッ!!



「うわっ……」




割られた窓の破片と銃弾が私の頭の上を通過する。
身体を起こせない以上、辺りの様子を見ることが出来ない。音と匂いならわかるのだが、誰が負傷したのかはわからない。



「!?」



バスがぐらっと揺れた。

微かに、血の臭いがする。誰かが被弾したか?
武偵高の生徒は全員防弾制服着てるから、…………バスの運転手かな?
かな?、じゃないだろ私!




『有明コロシアムの 角を 右折しやがれです』



おいおい…。
どうするんだ、キンジよ。この状況、凄くヤバいぞ。



「む、武藤!運転を代われ!減速させるな!」


「い、いいけどよ!
オレ、こないだ改造車がバレて、あと一点しか違反出来ないんだぞ!」


「そもそもこのバスは通行帯違反だ。よかったな武藤。晴れて免停だぞ」


「落ちやがれ!轢いてやる!」




のんきに話してる場合じゃないだろ!もうレインボーブリッジが近いんだぞ!

と、一人で冷や汗をかく。
多分、先輩が仕事したなら、レインボーブリッジには車がいないハズ。
と、割れた窓から周りを確認すると、レインボーブリッジ前の急カーブにさしかかる直前だった。






「ってか、こんな爆発物都心に入れる気!?」







もう、“言霊”使ってバスごと凍らせてしまおうか…?
神崎のおかげで爆弾がどこにあるかわかったし、あとは早さの問題だ。
私が凍らせるのが早いか、爆弾が爆発するのが早いか。



「都心に入れるくらいなら……!」



やってやる!
ここに人がいなかったらアレを使うつもりだが、ここには六十人もいる。“氷狼”っていうことがバレてるし、アレまでバラしたら手の内全部明かしたことになる。




「【全て】を【凍てつかす】【氷】よ!
【我が】【意志】に【従い】、【我が】【命じ】し【時に】【我が】【命じ】し【もの】を【氷結】せよ!」







小言で言ったのが幸いしたのか、喋る携帯は反応しない。いや、気がついてあえて無視している可能性がある。



「【氷結―――――――」



せよ、とは言えなかった。
何故か?
被弾した音がしたからだ。続いて血の臭いとキンジの声。



『アリア――――アリアああっ!』


「キンジ、何があった!?」



バスの天井に向かって叫ぶ。返答はない。
神崎がやられたか!?あいつはSランクだぞ!



―――――パァン!パァン!



返事の代わりに聞こえたのは破裂音。
だが、私には聞き慣れた、銃での発砲したときの音だとわかった。

そして、うるさいヘリの音。
狼活性を解除(キャンセル)する。血の臭いとヘリの音で知覚するどころか、逆に嗅覚と聴覚が使えなくなる。
まぁ、私が二つに“狼活性”してるのが悪いか。全体的にすれば、まだマシだろうけど。




―――――ギンッ!ギギンッ!




着弾の音と着弾のしるしとして衝撃が伝わってくる。
ヘリには狙撃手(スナイパー)がいたらしい。それも、天才的な。
ヘリの音で聞こえなかったが、神崎をやったルノーもやっていたらしい。後ろを見ると、何が炎上している。




「うわぁ………。この事後処理って私担当かなぁ?いやだなぁ……」




考えただけで、頭痛がした。
面倒くさいなー。金にならないなー。




―――――ギンッ!




ん?爆弾でもとれたか?
と、のんきに窓の外を見ると




―――――ドウウウウッ!!!




水柱が、盛大に上がっていた―――――――









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