勝負はあっという間に決まった
柔道かなんかの技で地べたに叩きつけられて
馬乗りに乗っかられた
何発が殴られた後、なんとか自由になった手を伸ばした僕はそいつの両耳たぶを、思いっきりあさっての方向にひっぱった
ミチミチという音とともにそいつの耳たぶは裂けて
やった僕がびっくりするほどの血が出た
ボタボタと垂れてくる血に「やりすぎた」とパニックになってるうちに
自分の血が僕の制服や顔に染みを作るのを見て
逆上したそいつは思いっきり殴り返してきた
何発殴られたか知らないうちに気が遠のいていた
「おい…おい…」
「ヒカル」
聞き覚えのある声に全身打撲と筋肉痛の僕がようやく目を開けると
恭子さんとヒロユキさんがいた
帰りに恭子さんとヒロユキさんちに行く約束をしていたのすっかり忘れていた
僕のクラスに迎えに来た2人が、クラスメートに僕が連れられて出て行ったのを聞いて、探していたらしかった
2人が見つけたときには僕だけが転がって、他のやつは誰もいなかったそうだ
立とうと思ったけど足腰に力が入らず、全然立てなかった
どこかを動かすたびに、体中がビキビキ悲鳴を上げていた
アドレナリンはとっくにきれていた
やれやれといった表情を浮かべると
「よっこらせ」と言いながら、ヒロユキさんがおんぶをしてくれた
恥ずかしいやら情けないやら嬉しいやらで、感情がごちゃ混ぜになって、こらえていた涙がぽろぽろこぼれた
散乱していた荷物をナップサックに入れてくれて恭子さんが持つと
そのままヒロユキさんの家までつれていってくれた
道すがら、おんぶされてるのがとても恥ずかしくなって、何度も「下して」と言いたくなったけど
なんだかおんぶも気持ちよかったし、怖い思いをした後の安心感もあった
それに下してもらっても、絶対一人では歩けそうにもなかったので、おとなしくおんぶされたまま、またこぼれそうになった涙をしゃくりあげながら我慢してた
ヒロユキさんの家は1Fが町工場っぽい所でで2Fが自宅だった
6畳くらいの畳の部屋におんぶした僕をねかすと
「オカン、救急箱」とヒロユキさんが奥の部屋のほうに声をかけた
ヒロユキさんの一声でお母さんが「あらあら」とかなんとか言いながら、救急箱を持ってきてくれた
オキシドールがやけに染みたのを覚えてる
「眼は病院行っておいたほうがいいかもな」
その言葉にドキっとしながら壁に立てかけてあった鏡を見て、自分ながら吹き出してしまった
顔面はジャガイモみたいにでこぼこになって痣が黄色、緑、黒と絶妙のグラデーション
左目の白目のところは血管が切れたのか全部赤
あんまりの変わりようにおかしくなって
ゲラゲラわらっていると心配そうにヒロユキさんが
「頭もブン殴られたのか?」
と、聞いてくる始末
それを聞いて僕はまた笑い転げてしまった
呆れ顔で見つめる恭子さんとヒロユキさん
いくらなんでもその顔で帰るのはまずいだろうということになり
ヒロユキさんのお父さんに電話してもらうと
僕は生まれて初めての外泊許可を親からもらった