小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


「俺はな、ここでバイクの修理したり、捨ててある壊れたバイク拾ってきて直して売ってんだよ」

すごくおいしそうに煙草に火をつけるとヒロキさんは言った
サラリーマン以外の肉体労働をしている人を間近で見るのは初めてだったのですごくドキドキした
工場に散らばる工具や、直しかけのバイクもなんだか格好良かった

缶コーヒーのプルトップを開けて一口飲みながら聞かれた

「お前、名前はなんていうんだよ?」
「ヒカル…です」
「んん?本名か、それ?まあどうでもいいか」

「ヒカル、学校おもしろいか?」
僕は首を横に振りました

「そうかー。でもあれだぞ。面白くないのは、誰のせいでもないんだぞ?」
「???」
「面白くするも、つまらなくするのもヒカル、結局お前自身っていうことだよ」

ヒロキさんの言うことはさっぱりわからなかったし
僕自身がおもしろくする?意味が分かんなかった

「まだヒカルには分かんないか。まあ、そのうちわかるさ」

飲み終わったコーヒーの缶を工場のクズ篭にシュートすると
僕の反応を伺いもせずに、またヒロキさんは仕事に戻った

コーヒーを飲み終わるともうすることのなくなった僕は
うろうろと興味深々で、工場内の探索を始めた
メカニカルな機械類はすごく魅力的に見えた

「機械にはさわるなよーー!!」

機械の音に負けないよう大声でヒロキさんが叫んでいたので、僕は両手で○を作って了解の意志を示した
仕事の邪魔をしてはいけないと思い、ヒロユキさんちの自宅周りを散策してみた

2階にあがる外階段のもとにポストがあって

○○弘樹
  里美
  弘幸
  裕子

かすれかかったマジックペンの文字でそう書いてあった
そうか、ヒロユキママは里見さんっていうのか

裕子?妹さんかな?でも見たこともないなあとおもいつつ
2Fに上がってヒロユキさんの部屋に戻った
やっぱり全身筋肉痛のの僕は急にまたしんどくなって、ボケーっとしながら
(ん??剣道か?…)
昨夜のヒロユキさんとの話を思い出していた

ふと壁を見るとヒロユキさんの空手の表彰状が飾ってあった
笑ってメダルを誇らしげに手にしている写真も。

ヒロユキさんって強いんだ??
感心しながら部屋中をみまわすと、写真立てに家族写真があったので
勝手に触っちゃ悪いかなあと思いつつも好奇心に負けて
どれどれっとてにして見てみると若い夫婦の間に小学生らしきヒロユキさんと
身長のそれほど変わらない女の子が映っていた

あーこの子が裕子ちゃんか。ひとしきり納得して写真立てを元の所に戻した
暇だな?と思ってゴロンと横になって、窓から見える青空を見てまたボケーっとしていた


コンコンッとノックする音でふと我に返った
やっぱり昨日の痛みと全身疲労でいつの間にやら眠っていたみたいだった

「はいー」
「あ、ヒロユキのお母さんです。入っていいかしら?」

自分の家なのに断る必要ないだろうに、とおもいつつ
起き上がると居住まいを正して、まだ覚醒してない頭で
「どうぞー」と応えた

里美さんは僕の前にきちんと正座をして一呼吸おいて
昨日とは打って変わって真剣な表情で口を開いた

-13-
Copyright ©月読 灰音 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える