小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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通い始めた剣道教室は面白いものでした

日にちを追うごとに上達していくのが分かってきて、手にはまめができて、足の裏には水ぶくれができて
痛くて仕方なかったけど模型の人形に面や篭手がパシンと決まると、すごく気持ちよく感じられました

最初はフラフラとした軌道でポコっとしかあたらなかったものが、まっすぐな軌道を描いてピシッと目標を捉えるようになるのに、そんなに時間はかかりませんでした

そのうち単独練習ではなくて、皆に交じって練習するようになりました
肉の入った目標に打ち込むのはもっと快感でした
もちろん相手にも打たすから篭手とか打たれると青あざができるくらい痛かったけど、その痛みもまた快感でした

大丈夫だと言っているのに、教室が終わるころにはヒロユキさんが道場の入口で待っていて、一緒に帰るようになっていました
竹刀だって持っているから一人でも大丈夫だといっても必ず迎えに来てくれるのでした

僕はヒロユキさんに汗臭いのを匂われるのが嫌なのと、どうしても人の家のお風呂になじめなかったので、いつもヒロユキさんを待たせて道場のシャワーで本格的に体を洗いシャンプーまでして帰っていました

いつのまにか道場の電気を消すのは、一番最後に道場を出る僕の役目になっていました

ヒロユキさんも僕を裕子ちゃんと重ねて見ていて、きっと心配なんだろうなあと思い、最初に2回ぐらい文句を言った後はもう何も言いませんでした

シャワーで濡れた髪を乾かしながら、二人で夜風に吹かれながら帰るのも気持ちよかったし。



季節は6月を過ぎ、7月目前。もうすぐ夏休みを迎えようとしていました

学校の教科書は、漫画やバイク関係以外の雑誌を置いてないヒロユキさんの部屋で退屈しのぎにほとんど全部読んでいました

小さい頃から弘樹さんのバイク修理を手伝ってたからか、ヒロユキさんは不良の癖に(?)妙に理数系が得意だったので、わからないところがあれば聞けばほとんど教えてくれてたので期末試験の対策はばっちりでした

僕もその頃になると、バイクの写真を見て川崎とかヤマハとかぐらいはわかるようになっていました

並べて敷いた布団の真ん中でバイク雑誌を拡げてはあれやこれやとキャイキャイやってると、決まって里見さんが入ってきて「あんたたち本当の兄妹みたいねえ」と言って「早く寝なさい」とでていくのでした

その途端ヒロユキさんは雑誌を片隅に追いやり布団をかぶって寝た真似をするので、部屋の電気を消すのはいつも僕でした

いつの間にかヒロユキさんに腕枕をされて胸に顔をうずめて寝るのが普通になっていました

やっぱり安心感はあったけど、段々と本当にゆっくりと、もやもやとした「好きかも…」という感情に僕の中で変わっていきました

男の人と女の人が好き同士になることが「普通」なのであって、男と男が好きになることは「ホモ」って言うんだってことは中1の性知識でもわかってました


なんで僕、男に生まれちゃったんだろう。


学ラン着てるときだって違和感たっぷりだし、女の子の服を着て里見さんや弘樹さんに女の子として扱ってもらってる時はすごく幸せなのに…

それでもヒロユキさんへの想いは募っていくばかりでした



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