小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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校長先生の退屈な訓話が終わって大掃除をおえると、夏休みの始まりでした

「働かざる者食うべからず」

との弘樹さんの言葉で僕とヒロユキさんは午前中は弘樹さんの工場を手伝いました

ヒロユキさんはもう慣れたものでテキパキと仕事をしていたけど
僕はドライバーやレンチを使うのも初めてだったので、ボルトの角やネジの山をなめてしまい、怒られっぱなしでした
ヒロユキさんは自分のバイクを組み立ててるようでした
弘樹さんとエンジンをいじってる姿がすごく様になって恰好よくて
なぜかボーっとヒロユキさんを見ている時間が長くなりました

結局僕の仕事は工場の掃除、整理整頓、使いっ走りになってしまいました
あとは里美さんを手伝って2Fの掃除とか洗濯物をして、余った時間はヒロユキさんの観察をしていました
目が合うと照れくさくなって視線を外すのですが、やっぱり気になってまた見てしまうのでした


午後からは好きにしていいと言われたけど、ヒロユキさんはバイク作りに熱中してるし
恭子さんは、中学卒業したら愛媛の全寮制の美容学校に行くらしくって、勉強に忙しいらしくて取り合ってくれませんでした
ヒロユキさんと恭子さんは付き合っていると思ってたけど、どうも違うみたいでした

しょうがないのでブラブラと剣道場に行って、看板の裏にある合鍵で中に入ると
昼間の誰もまだ来てない道場を雑巾がけして、木刀で飽きるまで素振りしてまた雑巾がけするのが日課になりました
道場から実家までは目と鼻の先だったけど、帰る気は全く起きませんでした

そんな生活が続き、あっという間に7月は終わり8月も中旬になっていました

その日もいつものように午前の日課をこなしてから道場に行き雑巾がけをしていると、人の気配がしました
まだ生徒さんの来る時間じゃないのにな、と思い視線を向けるとヒロユキさんが缶ジュースを持って立っていました
僕は雑巾をバケツに戻すと手を洗ってヒロユキさんと道場の片隅に座りました
なんか普段でも隣同士で布団を敷いて寝てるのに
誰もいない道場で二人きりになったことはなかったしドキドキしました

「ヒカル、お前一人でいっつもこんなことしてんの?」
「だってヒロユキさん遊んでくれないでしょ」
「…おう。俺さ、卒業したら親父の工場手伝うつもりだしな」
「あ、そうなんだ。それで今は修行中なかんじ?」
「まあな。ヒカルは卒業したらどうすんだよ?」

そんなこと中一の僕に聞かれてもわかるわけない
「わかんない。親は多分、高校行けっていうと思う」
「そうか…」
「うん…」

突然何か思い出したかのようにヒロユキさんは立ち上がって言いました
「この間から作ってたバイク、ようやくできたぞ」
「え?ほんとに?」
「おう。乗ってみるか?」
「乗る!!!絶対乗る!!」

速攻で道場の片づけをしてサッサと歩いていくヒロユキさんをおっかけました

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