小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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ヒロユキさんのバイクは道場の前に停めてありました

「なんかオッサンみたいなバイクやね」
思わずそう言ってしまいました

ぎろっと僕をにらむとヒロユキさんは
「まだこの渋さがわからんうちはガキってことよや」

ふん、一個しか歳違わないのに。弘樹さんの真似か!

HONDAのCB350
僕はまだこのバイクの素晴らしさを全く知りませんでした
ヒロユキさんはシートにまたがるとキック一発でエンジンを始動しました
とたんに脈拍みたいなすごいエンジン音

「後ろ乗れよ」
「うんうん!」
でもなんかズリこけそう…
「ちゃんと俺の腰に腕まわしてつかまっとけよ!」

エンジン音がうるさいので声も自然と大きくなります
しっかりとヒロユキさんの腰にしがみつきました

え?

なんか腰回りとかおっきい。一個違いなのに全然僕と違う

ガチャっというギアを踏む音がしてバイクは走り出しました
すごい!!小学校の時パクッた原チャリとは比べ物にならない加速と疾走感

「ヒロユキさん!すごいねこれ!!」
「おう!そうだろ!!もっと飛ばすぞ!!」
「うんうん!!」

わざとヒロユキさんの背中から顔を出して風を真正面に受けました
景色はあっというまにすぎさっていきます

これがバイクか

僕のドキドキはとまりません
もちろん2人とも免許なんか持ってないしヘルメットもかぶっていません
その「悪いことしてる」っていうドキドキ感もあって
僕の心臓は破裂しそうなほど踊っていました

僕より一回り以上大きな背中が風から僕を守ってくれます
何故だかもうヒロユキさんが大好きという感情にあふれてしまい
「ヒロユキ…」
と、ぼくは初めてヒロユキさんには聞こえないように呼び捨てにしました

そして今までは腰にしか触れていなかった体を
ほっぺたと上半身も全部くっつけて思いっきりギュッと抱きしめました
ヒロユキさんのからだが一瞬ビクッとなりましたが
なにもいわずそのままバイクを海沿いへとつながる道へと進めました
僕の鼓動はもっともっとドキドキして体中が熱くなりました

どんつきの堤防まで来るとバイクは止まりました

「どうよ?すごかっただろ?」
「…うん…。」
「どうした?怖かったか?」

ううん、と僕は首を横に振りました
だってバイクのエンジンが止まって堤防にもたれても
胸のドキドキがとまらないのに困っていたのです
ヒロユキさんの大きな背中にぴったりくっついてた感触が
まだ残ってて、もっとずっと抱きしめていたかったのです

これって…恋?
いやいやいやいや、ヒロユキさんも僕も男やし…ホモ?
えぇえええ?僕ってホモなの!?
もうわかんない。まだ未熟な性知識では頭がこんがらがって余計に熱っぽくなりました

「ほい」
ピトっと僕の額に冷たいジュースの缶が当てられました
ヒロユキさんが新しいジュースを買ってきてくれたのでした
二人でバイクが見える芝生の影を見つけて移動して足を延ばして座りました
さっきまで何にも感じなかったのに、隣にヒロユキさんがいるだけで
胸がドキドキします

「うーん、こっから見てもあのバイクは渋い。渋すぎる」
「うん。渋い。恰好いいね。」

海からの風がジリジリと焦げ付きそうな暑さの中、心地よく吹き抜けます
ヒロユキさんはセブンスターを加えてジッポで火をつけると
そのまま大の字になって寝転びました
ヒロユキさんがタバコを吸うのを始めてみました
「タバコは二十歳にならないと駄目なんだよー?」
「へへへ」
「へへへ」
「ヒカルも吸うか?」
「うん」
セブンスターを一本とジッポを渡してくれました
そのとき手が触れた瞬間またビクッとなってしまいました
僕は顔が真っ赤になってないか不安でたまりませんでした
生まれて初めての煙草をくわえて、ジッポを見よう見まねで火をつけました
???
いくらタバコの先に火をもっていってもタバコに火が付きません

「吸い込むんだよ」

なるほど。軽く吸い込むと炎がタバコのほうに寄ってきて火が付きました

「はじめは軽く口の中に煙をため込むように吸って、それを浅い深呼吸するみたいに吸ってみろよ」

ふむふむ
漫画のようにゲホゲホとなることもなく
軽い抵抗の後、スーっと肺の中に入っていきました
「お、うまいうまい」
くわえ煙草でヒロユキさんが手を叩いて笑っていました

一本吸い終わると、急に世界がぐるぐる回り始めて気分が悪くなりました
「気持ちわるい??、世界がまわる??」
そのままヒロユキさんの横に大の字に倒れこみました
しばらくすると気持ち悪さはとれて、フワフワして世界が回るだけになりました

言うなら今しかないな、と思って思い切ってヒロユキさんの方に顔を向けました

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