小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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「ねね、ヒロユキさん?」
「んん?どうした?」
「ヒロユキって呼び捨てにしたいんだけどいい?」

一息に早口で聞いてみました

「…」
「あ、やっぱりだめかな?」
「い、いや、いいけど学校では『さん』つけろよ」
「やった!!」

「じゃあ、もう一個聞いていい?」
「まだあるのか…なんだよ?」
「僕、女の子の服着て女として学校とかいってるじゃん?」
「うん」
「一緒に居て、恥ずかしかったり…しない?」
「あ??。別に何ともおもわんよ。ヒカルはだって女の子やろう?」
「こころ?」
「そうそう、恰好よりこころ」

その返事を聞けただけで、僕の心臓はバクバクしていました

「じゃあ言うけど、僕、ヒロユキのこと好きかも」
「…」
「いや、ホモとかじゃなくて女の子としてヒロユキの事すきになったみたい」
「…」
「聞こえてる?」
「…うん」
「じゃあなんかいってよ…」

「ヒカルは、裕子の事聞いただろ?親から」
「うん」
「俺とは一個違いでいっつも俺についてきて、すごくなついてたんだよ」
「うん、聞いてる」
「最初は俺も、ヒカルと裕子ダブらせて見てたんだよな」
「そうかぁ」

(妹扱いだったから優しくしてくれたのかぁ)
上半身を起こすと芝生に煙草を押し付け消すとヒロユキさんはこっちを向きました

「最初だけだった、それは。」
「え?じゃあ今は?」
「今は、ヒカルの言葉聴いて…大事にしたいって思ってるよ。前からヒカルの事好きやったし」
「そ、そうだったんだ?…僕の一方通行じゃなかったんだね…」

幸せでいっぱいになりました
なんとなく少しお互い照れて気まずい空気が流れました
その空気をヒロユキさんの一言が破りました

「俺と付き合ってくれるか?ホモとかじゃなくってさ、俺の女になってくれたらなって思ってる。なってくれるか?」

ヒロユキさんは、一息にそれだけ言うと初めて見る真っ赤に照れた顔でうつむいていました
ちょっといくらなんでもそれは早すぎやしないか?いきなりの直球に驚きました
でも、僕の返事はとっくに決まっていました

「うん…じゃなくて、はい。。。」

そう言ったとたんヒロユキさんはガバっと僕に覆いかぶさると
抗う暇もなく優しいキスをしてくれました
両手でようやく届く大きさのヒロユキさんの背中をぎゅっと抱きしめました
永遠のようにも感じましたし、一瞬にも感じました
やがてどちらからともなく離れました

残ったのは名残惜しさと、唇の感触
そっと触れ合った唇だけのキスでしたが僕にとっての初キスは
そのあとしたどんなキスよりも感動的で官能的でした

「そろそろ帰るか?」
しばらくの沈黙の後、ヒロユキさんは立ち上がって服についた芝生を払いました

「うん」

8月の太陽はまだうんざりするぐらい僕たちを照らしていたけど
今度は遠慮なく全身ぺったりヒロユキさんにくっつけて乗るバイクの
乗り心地に比べたら、全然大したものではありませんでした

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