小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


相も変わらずモデルルームみたいな家
父が皮肉な笑顔を浮かべて

「どうだ、他人様の家は楽しかったか」
と聞いてきた
この人の中では僕は夏休み前の従順な人形でしかなかった僕のまま

「さあ、どうだろね?」

冷笑を返しました。僕にだってそのくらいの芸当はできました
恋路を邪魔された第二次反抗期の少年をなめてもらっちゃあ困る
一触即発ムード
父の顔色がどんどんと赤くなっていくのが分かりました
息子に煽られたぐらいで動揺するなよ
なさけない父親
精神レベルは僕と同じかもっと下だろう
奪われた人形を取り返したかったに過ぎなかった様でした

「まあまあ、二人とも落ち着いて。このパンフレット見て」

事なかれ主義の母がその場をとりなすように
転校さすといった学校のパンフレットを広げました

【全寮制・24時間セキュリティー万全でお子様の安全を守ります・有名大学への進学率どんどんと上昇中】

そういった文字が躍っていました
要は24時間閉じ込めて詰め込み教育して社会に売り出す養豚場だろうと思いました

「で、ここ私立でしょ?どうやって学費だすわけ?」

父に皮肉たっぷりに言ってやっりました

「特待生っていうのになれ、そしたら学費は免除だそうだ。なれないのか?」

カウンターブロー一発

編入試験を白紙で出して不合格を狙ってた僕は
父の最後の「なれないのか?」という挑発にのってしまったのです

操りやすい人形

小学校のクラス名簿から一番優秀だったやつを見つけて電話しました

「ヒカルだけど」
「うん、どうした」
「一週間で秀才にしてくれない?」
「はぁ?」
「いや一週間で中一の1学期の勉強、総ざらいさせてほしい。あと参考書とノートも」
「ああ、それだったらできるわ。おまえんちでやる?」
「うん、たのむよ」
「いつから?」
「今日の夜から」

電話の向こうのため息が聞こえたようでした
なにせ奴は県内で一番の学力を誇る有名私立中学校に進学した男
僕も親の詰め込み教育でそこそこはできる自信はありました
勉強が嫌でドロップアウトしてるわけじゃない

受験は2週間後、余裕だろうとおもいました
秀才野郎、正樹は電話から30分でボストンバッグいっぱいの資料を抱えてやってきました

「ごめんよー」
「うん」
「んじゃ早速始めてもらえる?正樹んちの親にはうちの親から電話しておいてもらうから大丈夫と思う」
「助かるな」

手短に転校するいきさつや、学校名を教えました
何かの本を見て正樹は学校名と偏差値なんかを見ていました
そして一枚のプリントを出すとそれを解いてみろといいました
模試かなんかの写しらしい
僕は持っている知識をフル動員させて解いていきました
そのあいだも正樹は参考書の目次をみては索引を見て該当するページにポストイットを貼っていきました
さすが秀才。やることにロスがありません

「できたよ」

必死で解いたプリントを渡すと正樹は次のプリントを渡しました

「英・数・国・理・社、全部やってもらうからな」

インテリ家庭教師はクールに言い放ちました
僕が問題を解いている間に、正樹が採点し、その部分の参考書と問題集にポストイットを貼っていきました
その作業がようやく終わったのはもう朝日が昇るころでした
ぼくはもうへとへと。こんなに頭脳細胞を使うのはいつぶりのことだろう

最後の採点を終わった正樹はこう言いました

「ヒカルなら勉強しなくてもいきなり合格できるよ」
「えぇ?」
「いや、この学校、開校したばっかりで偏差値自体は低いんだわ」
「でも特待生にならなきゃ意味ないんだよ?」
「ああ、それなら俺が参考書と問題集にポストイット貼ってあるから、それやっとけよ。間違いなくトップ入学できるぜ」

クールな優等生はニヤッと笑いました

「またあさってくるから、全部やっといて」

そういうとさっさと「バイ」と言って家を出て行ってしまいました

僕は早速課題に取り組んだ
あの父親の鼻を明かしてやる
その一心でした
怒りのエネルギーって勉強へのエネルギーにも変換できるんですね

今振り返ってもあの1週間ほど勉強をした日はなかったと思います

-26-
Copyright ©月読 灰音 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える