小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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もっちゃんさんは引っ越して自分のTATOOとピアシングのショップを開いていた

その後を引き継いだヒロユキはもっちゃんの部屋の内装をガラリとかえていた
というのも、もっちゃんの隣の部屋も借りて壁をぶち抜いてドアをつけて3Fを丸ごと一部屋に変えていたから。

不動産屋といってもうちのチームの「親会社」の本職さんの持ちビルだったので、そんな自由ができたんだと思う
10畳の部屋と隣の8畳の部屋が合わさって18畳の1LDKになっていた
そんな広い部屋見たことなかったのでびっくりした

あの黒革張りのでっかいソファーベッドと14インチのモニターは健在だった
サボテンとラジカセはもっちゃんさんがもってでていったという

「向こうの8畳は俺とヒカルのプライベートルーム。こっちの十畳はミーティングとかチーム用に使うようにした」
ヒロユキが指をさしながら説明してくれた
元々は引き込み宿だったらしく4畳くらいのでっかいお風呂場もついている
(もちろんバス・トイレは別々)

「ヒカル?。もっちゃんに挨拶にいこうぜ、んでまた新しいタトゥいれてもらおう?」
ヒロユキの顔がたった一個違いなのにすごく大人に見えた

「うんうん、そうしよう!」
「何入れてもらう??」
「私は前に見た、肩から胸にかけて龍が睨んでるやつがいいな」

高校卒業を機に僕は「私」と呼ぶようになっていた

「あ?それいいな!おそろいにしようか?」
「あとピアスも開ける」
「え?まじで?」
「うんうん。左耳に3連入れて右に一ついれてもらう」
「う??んピアスかあ、俺は下唇の下に入れてもらおうかな」
「ラブレットってやつやね、恰好いいかも!」
「んじゃいこうや」

そう言いながらもうヒロユキはワークブーツに足を突っ込んでます
女には準備というものが…と思いつつ、マーチンのブーツを急いで履いた

もっちゃんのお店は歩いて10分ほどのソープ街の裏通りにあった
外からはフィルムで中が見えないようになっていた
看板には「TATOO-M\'s」とだけあったけど、中に入ると間接照明の効いたすごくお金のかかった内装で
レジのある正面とその左右は、コの字形にあらゆるピアスがガラスのショーケースに陳列されてた
レジカウンターの後ろにある黒い遮光カーテンの向こうがタトゥスタジオなんだなと思った

「オイスーひろくん、ヒカルちゃん」
相変わらず軽い…

照明を意図的に落とした店はショーケースの蛍光灯と、所々に配置されたブラックライトで
不思議な落ち着きのあるムードになっていた
僕が店内を見てる間に、ヒロユキが今日来た主旨を話していた

「そういやあヒカルちゃん高校卒業おめでとうー」
もっちゃんが不気味な笑顔で祝福してくれた

「あ、ありがとうございます」
「お祝いってことでタトゥもピアスもただでやってあげるよー」
「え、いいんですか?」
「いいのいいの。ひろくんのも同棲記念ってことでただでやってあげるよー」
「え、まじですか、もっちゃん」
ヒロユキも驚いている

「ひろくんチームの頭だし、いくらでもただでいれてあげるよ。うちはほら、本職さんがお金落としていってくれるから困んないの」
そう言って笑っていた

レジカウンターでファイルを広げると図案を見せてくた
龍だけでもたくさんのバリエーションがあったけど僕とヒロユキは同じ図柄で決まった

「本当に息ぴったりだねえ」
もっちゃんは笑うと遮光カーテンの奥のブースに入るよう促した

そこは表と違い煌々と照明が照らされ、薄いBGMがかかった別空間だった

前の時と同じ極薄ゴム手袋をはめると
リスポーザブルの12Gのニードルを取り出し、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)からファーストピアス用の医療用ステンレスでできた僕用のキャプティブビーズリングと、ヒロユキ用のラブレットスタッドを取り出すと、マジックで取り付ける位置をマークすると、躊躇なくニードルをブッ刺してピアスを専用の工具で取り付けていった。
4つも空けるんじゃなかったと涙目になったけど我慢した
だってニードルが自分の肉を貫通する音がズブズブきこえるんだよ?

ヒロユキのはもっと大変そうだった。
見てるとこっちまで痛くなった。

ゴム手袋をはずすともっちゃんは
「おつかれさまー。あさってにはタトゥのカーボンできてると思うから筋彫りだけでもやろうか。これる?」
と、聞いてきた。

時間だけはある二人が、同時にうなずいた

「うん、じゃあまたあさってねー」
帰り際ブースの壁の奥に「初代 彫茂」という小さな提灯がならび神棚があるのに気付いた
もっちゃんもアッチ側(本職の極道)の人になっちゃったのかなって思った

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