小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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一週間後、僕とヒロユキの胸にはお揃いの龍が棲みついていた
あと一週間、自然にかさぶたが取れるまではいじっちゃだめと言われていたので
むずがゆくてかさぶたを剥がしたいのをこらえてすごした

土曜の夜になるとチームのメンバー(この時は10名くらい)が集まってミーティングをしたあと、堺町のパトロール兼別チームの牽制に繰り出すのが日課になっていた
まだPHSの発売される1?2年前だったので、皆はポケベルをもっていた

携帯電話は車載電話か、でっかいバッテリーをショルダーバッグのように抱えなければならない不便なものだった

僕の腰には特殊警棒がいつも刺さっていた

その夜はなにかが特別だった

街の空気がピリピリとして、稼ぎ時の土曜の夜なのにそういう空気に敏感なポン婆たちの姿は一斉に消えていた

僕たちも警戒を解かずテリトリーの境界線であるフィリピーナのマンション付近まで足を延ばした

怒声と看板か何かが割れる音がしていた

チーム同士の喧嘩だった

電車通りを挟んだ奥にある廿代町のチームSと、うちと隣接し、比較的Gとは友好関係にあったチームのBの戦争だった

たいがいは2,3人同士の喧嘩で終わるのが、今日は各チームの頭まで出てきての両方合わせて20人以上が入り乱れる流血騒ぎの文字通り戦争だった

チームSは文字通り極道の養成所のような集団で、エス(シャブ)の売(バイ)や、恐喝、ひったくり、敵対チームへのアジトへの投石や放火など平気でこなすようなチームだった

こういう時は高みの見物に限る
SもBも、もちろんうちのGも暴力団の息はかかっている
だからこそ手は出せない
暗黙の了承だ

チームBはほぼ18歳以上のメンバーで構成されていて、ヘルスへの女の子の斡旋や、詐欺まがいの手口で女に借金を背負わせソープに沈める、いわゆる優男の集団だった。


平均年齢の勝るチームBも健闘していたが、20分足らずで勝負はついた

地べたに這いつくばるBの頭をチームSのガキどもが4?5人で寄ってたかって蹴りまくっている
頭から血を流したり、戦線離脱したチームBのメンバーをうちのメンバーが介抱している

視線を上げたニットキャップのチームSの頭が、こっちに気づき血の付いた金属バットの先をヒロユキに向けた

『次はお前らだ』
という意味の宣戦布告の意思表示だ

比較的軽症だったチームBのメンバーが救急車を呼んでいる
まもなくパトカーも現れることだろう


「帰るぞ」

一同に声をかけるとヒロユキの家に皆が集まった
ベルでフル動員をかける、通常10名程度のメンバーが20名以上になり
僕たちの部屋は幹部の8名が、のこりのメンバーは隣の10畳で真剣な目つきをしている
ヒロユキが電話をする

「久保田さん、ちょっとやっかいなことになりました。明日時間取れますか?」

「はい。はい。わかりました。じゃあ中央公園で13時に」

僕はその場にいるのがつらくなって、チームの一番若い子を荷物持ちに連れて、近所のコンビニに30個のジュースを買いに行った
戻った私はみんなにそれを配った

「ありがとうございます、姐さん」
ここにも極道かぶれがいる
「ヒカルさん、でいいよ」
笑いかけてあげた。照れたようにその少年はうなずいてジュースを取った

ジュースがみんなに配られ、幹部たちの話し合いも終わったみたいだった

ヒロユキがたちあがり、状況を説明した後

「皆にはこれから地下に潜ってもらう。一般市民のふりをして目立つ行動はとるな」
「ただし戦争になる可能性もある、準備だけはしとくように。以上だ。」

そういい終わりヒロユキが座ると、メンバーたちはぞろぞろと帰っていった

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