小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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次の日ヒロユキは実家に挨拶を兼ねて荷物を取りに戻った
私は眠れなくてウツラウツラしながらも気配を感じていたけど、知らんぷりをして寝ていた
部屋のチャイムが鳴って起こされた

14インチのモニターには久保田さんがカメラに向かって手を振っている
来たことはヒロユキにも伝わるだろうから居留守はできない
インターフォンで上がってくるよう伝え部屋のロックを解いた

「こんにちは」
「…こんにちは」
わざと不機嫌そうな声を出した

「あ、まだ寝てた?」
「いえ…もう起きようと思ってました」
ぶっきらぼうにそういうと部屋のカーテンをあけて空気を入れ替えた

「そうか、ならよかった」
「ヒロユキなら実家に挨拶に行って、居ませんよ?」
「うん。知ってる。今日はヒカルさんに用事があってきました」
ひかる「さん」?寒気がした

「ここ座ってもいいですか?」
ローテブルのはしに突っ立っている
「あ、どうぞ」

妙に礼儀正しい。それによく見ると精悍そうな顔だ
35歳くらいかな?きちっとダークスーツを着ている
ダークスーツが業界のトレンディーなのだろうか?
とぼんやり考えていると

「えと、まずはこれです」
と一枚の紙切れをだした
人差し指と親指でつまんで興味なさそうなふりをして見てみると、住所と電話番号が2つ、住宅地図をコピーしたものだった
「これヒロユキの引っ越し先。いつでも遊びに来ていいからね」
ガバっとその紙に食いつくように見入った

「この電話番号2つは、なんですか?」
「うん。上はヒロユキの部屋の電話。下は僕の車載電話の番号ね」
「本当にいつ遊びに行ってもいいんですか?」
「そりゃいいよ。ただしお仕事中は会えないけどね」
「え、でもヒロユキは暴力団員になったんじゃ…」
久保田さんはそれを聞いてぶっと吹き出して笑った

「まさか。これは簡単なビジネスだよ。僕は僕の権限で○○組の動きを頭から押さえつける。
これにはお金がいるよね。その賃金分をヒロユキ君がボディーガードとして働く、それだけの話だよ」

急に久保田さんがまともな人に見えた
お茶も出してないのに気付いてアイスコーヒーを入れて差し出した
ああ…現金な僕。。。

「それに暴力団員になんてそう簡単になれないよ。僕は高知では看板を背負ってるけど、こう見えても本家では若頭やっててね。といってもよくわかんないか。要は次の組長候補の一人で若衆をまとめてる。うちの若いもんになりたけりゃ大学出てMacくらいつかえなきゃ無理だよ。」
「…そうなんですか。」
「で、そんな頭ばっかり使うモンばっかり揃えてるから腕っぷしの強いのがいないんだな。」
「そこでウチのヒロユキをスカウトしたってことですか?」
「ウチの」に力を込めていった
「うん。あくまでも個人的にね」
「それからヒカルさんは預金通帳とか持ってる?」
「あ、はいありますけど」
「ちょっとメモさせてね」
悪いことに使われるのではと、どきどきしながら見せた
久保田さんは胸元からメモ帳を取り出すと口座番号を控えた
意外と几帳面な文字
書き写すと、通帳を私に返してくれた
この口座に毎月30万ずつ僕個人のポケットマネーから振り込むから。

「え?」
「これも簡単なビジネス。ヒロユキくんのレンタル料」
ぶっと今度は私が噴いた

(レンタル料、ヒロユキあんたモノあつかいですよ、はい)
お金はないよりあったほうが全然いい

「それよりヒカルちゃん、話に聞いてたよりずっとかわいいね。気が向いたらうちの系列のニューハーフの店で働いてみない?」
抜け目のない男。人たらしだ。
「う?ん。ヒロユキが無事に帰ってきたら彼のおじさんと、小さなバイクなんかのカスタムショップやるつもりなんで、ごめんなさい。。」
「そうか??絶対いけると思うんだけどなあ」
本当に残念そうな顔をしていて、ちょっと胸がズキっとなった

「久保田さん、ごめんなさい。私、最初すごい久保田さんの事勘違いしてみたいで大嫌いだったんです」
「うん?」
「でも今日、お会いして久保田さんがいい人だったってわかって。ヒロユキの事どうかよろしくお願いします」
頭をペコっとさげた
久保田さんは人差し指を「チッチッチ」と舌打ちしながら振ると
「ヤクザにいい人なんているわけないだろう。簡単に信じちゃいけないぜ。なんてね」
と薄暗い笑顔をみせました。とても寂しそうな笑顔。
ヤクザだって色々悩みあるんだなーって思いました。

「じゃ、あんまり愛の巣にお邪魔してるとヒロユキに怒られるから僕は帰るね」
「あ、はい。」
「組のほうでチームSは抑えるけど、どこだってハネッ返りのガキは居るだろうから気を付けるんだよ」
そういうとフェラガモの靴を履き颯爽と出て行ってしまいました

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