小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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振り返るとびっしり水滴の付いたグラスのアイスコーヒーには手も触れてないようだった
汗もかかない男、久保田さん。

夕方ヒロユキが帰ってきた
今日あったことを全部話して「昨日は感情的になってごめんなさい」と謝った

「うん、俺も説明がたらなかった、ごめん」
ヒロユキのほっぺたが腫れていた

「弘樹さん?」
「うん」
全部自分で背負っちゃうからだよ

もうヒロユキが出発するまで2日しかない
その日のうちに連絡網をまわして明日集会をすることになった
もちろん得物はなしだ
次の日の夜、段々と夏に向かって日の落ちるのが遅くなった中央公園に、Gのメンバーたちの影が長く伸びた
車座に座ったメンバーの真ん中に立ちヒロユキは始めた

「個人的なボディーガードの仕事で2年ばかり高知を離れることになった」
一同にざわめきが走るが無駄口をきくやつはいなかった

「次の頭はマサだ。異議のある奴は立て」
だれも立たなかった

「決定だな」
「じゃあマサこっちにこい」
マサはヒロユキの横に立った

ヒロユキの中指にはまっていたごついソリッドシルバーのリングがはずされ
マサが受け取るとマサは中指にリングをはめると
皆に見えるよう拳を突きだしてその場でぐるりと一周した

皆から祝福の歓声と拍手がおきた

「マサ、なんか言えよ」
とヒロユキに促され、しばらく考えていたようだったがマサは顔を上げると

「今回、任命されてリーダーになったマサだ。みんなで支えあってこの街で生きていこう。
それと代々リーダーが住むようになってるあのアパートメントだが、俺の心の中のリーダーはヒロユキさん一人だ。
だからヒロユキさんが帰ってこられるまではヒカルちゃんに暮らしてもらおうと思ってる。皆、どうだ?」

「さんせー!」
という声と同時にまた拍手が起きた

嬉しかった。涙がこぼれた。ヒロユキが僕の肩を抱いた。

「ほら、マサもうお前のチームなんだ。仕切れよ」
ヒロユキがグーでマサの肩をこずいた

「じゃあヒロユキさんとチームGの前途を祝して、今夜は朝まで飲んで歌って踊りまくろうぜ!!」
そういって拳を突き上げた
歓声とともに皆が立ち上がり各々のグループに分かれ街に繰り出していった

ヒロユキ、僕、ジン、マサ、コウジ、ジンとコウジの彼女の6人が残って
久保田さんの息のかかったお店をはしごした

飲み代はもちろん久保田さんの財布から引き出されるのだろう
当時まだクラブはなく、ディスコとよばれていた店でも飲んだ
コウジのブレイキングはびっくりするぐらい上手でフロアの注目を集めていた。ダンサー系のグループリーダーだったし当たり前と言えば当たり前なんだけど、見たことが無かったのですごいって正直思った

ジンはお酒に弱くて2軒目でもうふらふらしていた
次は例のニューハーフのお店に行ってみようということになった
扉を開けるとやばいぐらいの香水のにおいで酔いそうになった
ジンはさっきまで酔ってふらふらだったくせに一気に元気になって、オネエサンに遊んでもらっていた
そのうちショータイムが始まって、皆で釘づけになって華麗な乱舞に見入ってしまった
「ヒカル、俺ヒモになるし、お前がここで働けよー」
ヒロユキが感動してそんなことまでいっていた

(あんたは知らないだろうけど、神戸でヒロユキが下手うったら、どうせ僕ここに浸けられるんだよ…?)

そうこうして4件目でジンがつぶれてコウジがそれぞれの彼女と一緒に連れて帰ることになった

最後の店は落ち着いたバーでカウンターしかない店だった
僕の知らない渋い音楽がかかっていた

「ヒカル、ちょっと席外し。向こうでマスターと飲んでて」
いきなりハブられたけど、リーダーの引き継ぎとかいろいろ話もあるんだろうと
放っておいてマスターに「トム・ウェイツ」というシンガーだとか教えてもらっているうちに
眠くなってきて寝てしまっていた

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