小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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次の日起きたのはもう昼過ぎ
ヒロユキの浴びるシャワーの音で、目が覚めました
二日酔いで頭痛がひどかったのでセデスとボルタレンを2錠ポカリで流し込んこみました

コーヒーを淹れようとお湯を沸かしていると
ヒロユキがシャワーから出てきました

「おはよう…」背を向けたまま言いました
「おはよう」
「コーヒー飲む?」
「うん」

振り向いてヒロユキの顔を見たら涙がこぼれそうでたまりませんでした
できたコーヒーをテーブルに置いて、ヒロユキの荷造りを始めました
全部新品の下着、カッターシャツ、靴下、ネクタイ、3揃いずつ入れました
後は向こうで買いそろえると言っていたので、トランクケース一つに余裕で収まりました

「寂しいよ…。」

僕はポツンと言いました
言葉にしたとたん涙があふれ出して止まらなくなりました
僕が寮生活をしてる時もヒロユキはこうだったのかな

ヒロユキはいつもみたいに後ろから僕を抱きしめてくれました
言葉はなにもいらず、ゆっくりとした時間が流れていきました

「親父とお袋の事、頼んだぞ、ヒカル」
「うん」

チャイムがなりました
いよいよお別れの時が来たのでした
21:00出航の大阪高知特急フェリーまではまだ時間があったけれど
久保田さんと僕とヒロユキでご飯を食べてから向かうということでした

下に降りていくと濃紺にリペイントした4つ目のジャガーXJが停まっていました
久保田さんはキーをヒロユキに預けると、自分は後部左側のVIP席に座ってしまいました
僕はこんな高級車にのるのは初めてだったのでドキドキしながら助手席に乗りました

「旅行は腹が減るからな。しっかり食っとけよ、ヒロユキ」
「はい」
以前僕と話した時のような物腰の柔らかさはなく、いかにもといったしゃべり方でした

久保田さんのナビで行きつけのステーキハウスに着くと
久保田さんが3人分を見繕って適当に頼みました

ヒロユキと久保田さんはテーブルに並んだ食事をモリモリと食べていきますが
僕には多すぎたし、それより胸がいっぱいでのどを物が通りにくくてお箸が進みませんでした
久保田さんはこっちをちらっと見て皿を見ましたが何も言いませんでした

食事が終わると、もう出発の時間が迫っていました
ヒロユキの運転でフェリー乗り場までむかいました
ヒロユキが乗車の手続きや車を乗船させている間
ベンチに座っていた久保田さんが財布から目見当で一万円札を抜き僕に渡しました

「帰りのタクシー代と、当面の生活費です。寂しいでしょうが、頑張ってください。」
また銀行員の口調に戻ってる

「はい、ありがとうございます」
札を数えもせず折りたたんでポケットにいれました

「じゃあ、ちょっといってくるわ」

そこらへんに煙草を買いに行く時のような挨拶を残し、久保田さんを先頭にヒロユキは船に乗り込んでいきました


ボオオオオウッ

悲しみを告げるような汽笛をあげ船は出航していきました
暗い海に浮かぶ船影が見えなくなり、ライトの類が消えて夜の海に溶け込むまで
ずっとずっと見送っていました

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