小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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ヒロユキが神戸に行って2か月が過ぎました

時々は電話で互いの生活をやりとりしていましたが
何かと忙しく、不規則な生活らしく僕のほうから連絡はとらなくなっていました

一人で暮らすには大きすぎる堺町のアパートメントには、いつも誰かが交代で遊びに来てくれていました
チームの抗争も落ち着いて、私服の張り込みやパトカーの巡回も減りました

その日はよく晴れていました

僕は営業前の掃除や水撒きをしている顔なじみのソープランドのお兄さんに挨拶しながら
アパートから10分も歩かずに行ける、高知市の中心を流れる鏡川の河川敷に散歩に行きました
水面がキラキラ輝いて、とても綺麗でした
季節はもう真夏を迎えようとしていました
ジュースを買って木陰で座り込んで川をずっと見ていました

鋭いブレーキ音に目をやると、路側帯に白い箱バンが停まりました
タンクトップの少年が助手席から降りてきました

「ヒカルさーん!」

よく見えなかったのでチームの子かな?と思い、そっちに向いて手を振ると
少年はにっこり笑うと猛スピードでこっちにダッシュしてきました
奢るジュース代あったけな、と手元の財布を覗き込んだ時でした
わき腹に黒い筆箱のようなものを押し付けられました

「あ」
声はそれしか出ませんでした
ドンっという衝撃とともに突然目の前が真っ暗になりました
スタンガンでした。ビリビリくる、なんて書いてらっしゃるプロの作家さんなんかもいますが、あれは実体験でないとわかりません。
まさに「ドンッ」か「ズンッ」って感じです


あまりの暑さと何かの腐敗したような臭いで気が付きました
目隠しと口にもテープを貼られているようです
身体は大の字にベッドらしきものに固定されていて、全く身動きができませんでした

僕は拉致られたのでした

自分の迂闊さにあきれてしまいました
声をかけてきた少年はこの真夏だというのに、ニットキャップをかぶっていたのをいまさらのように思い出しました

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