小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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歪んだ視界の中、ガツッガツッと僕の顔の骨と男の拳の骨が当たる衝撃と痛みのせいで、じわじわと目の焦点が合いだしました

男が一人、僕にまたがり拳を振り上げていました

殴られるのは父親に幼いころから殴られていたので慣れています
男の拳が左目に当たって、グジュっと嫌な音を立てました
左目は見えなくなりました

段々と痛覚も戻ってきて痛みが押し寄せてきました

次の拳は鼻に当たりました
グチャっという音で鼻の骨が折れたのが分かりました

鼻血のせいか息がすごくしにくかったです
息をするたびに口の中に生ぬるい血が鼻から流れ込んできます
気管が詰まるといけないので、ちょびちょびと飲み干しました

殴る男の表情が仮面で隠れて見えなかったのがとても怖くて、悪夢の中にいるような感覚でした

男が服を脱ぎだしました
「おーおー、ビンビンに勃ってんじゃねぇか、ほんとお前変態だわ」
「殴って興奮する奴、初めて見たぜ。すげえな」
ベッドサイドから男達が囃し立てていました

男は僕の股間に割って入って、ペニスを肛門にあてがいましたが
ピンと大の字に腕と足を拘束されている状態だったので体位がうまくとれず、なんの潤滑油も塗ってない僕のおしりは男のモノを受け入れようとはしません

「ちっ、入らねえな…足解いていいか?」
「ん?いいけど、ちょい待ってろよ」
「ちょっとベッドから降りてろや」
男たちのやり取りを聞きながら、僕の股間から離れた男の隙間から目をやると
別の男が、バットをもって僕の足元にやってきました
こっちを見て、無事な右目と目が合うと仮面の奥で男がニヤニヤと笑っているのが分かりました
こうして状況を見せて恐怖心をあおらせるのも計算のうちだったんだと思います

右足のくるぶしにコツコツとバットを当てて狙いを定めると、次の瞬間思い切り振りかぶったバットが僕の右足首に命中しました
2発、3発とバットの攻撃は続きました

僕はあまりの痛みに嘔吐しました
口を封印されて逃げ口が無いので鼻からも嘔吐物が出ました
それに気づいた一人が手際よくガムテープを外すと、吐しゃ物がゴムボールと一緒に勢いよく吐き出されました

「うわ、こいつゲロ吐いた、汚ねえっ」
かろうじて見えていた右目が涙で霞みました
右足の感覚が脛から下は全くありませんでした
足首から下が見る見るうちに腫れて、マスクメロンほどに膨れ上がりました
痛みより、その足の変化に叫び声をあげそうになりましたが、また口をマスクされるのはたまらないので必死で呪文を唱えてこらえました

僕は人形
僕は人形
僕は人形
僕は人形
僕は人形

「ついでに顔がどんなになってんのか、見せてやれよ」
そういうともう一人の男が洗面台の鏡を外して僕に見せました
左目は完全につぶれ、鼻からはドス黒い血が流れ
顔は自分の嘔吐物で汚れていました
酷い顔でした

「あ、そうだ」
と鏡を戻した男が今度はハサミを持ってきました
ごつい裁縫用の裁ちばさみです
僕の伸ばし続けた髪をつかんで頭ごと持ち上げると、ジャキっと適当に切り、支える物のなくなった頭はドサっとベッドに落ちました
何度かそうして髪を切ると
「これで恥ずかしくて、脱走もできねえだろ」
と言いました
「いや、この足じゃすでに無理だし」
そんな会話をしながら男達はゲラゲラと笑っていました

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