小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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もう何日が経ったんだろう
外光を一切遮断した部屋では時間も日付もわかりませんでした
男がまた僕の静脈にシャブを打っていました
ぼくはもうそれをぼんやりとしてしか認識できませんでした

正義の味方はこの世には存在しません
映画やTVの中だけです

男たちもシャブを打って体力の続く限り僕を犯し続けていました
正常位で犯されながら、男の肩に担がれた僕の右足が足首から先が
ドス黒く変色して、男が腰を振るたびにプラプラと力なく揺れるのを
死んだ目で見ていました

犯すのに飽きた男たちがライターでぼくの陰毛を焼きました
すごく嫌なにおいがしました

「指輪、できなくしてやるよ」

そういって両方の手の薬指を逆に曲げられポキンと折られました
本当にポキンと音がしました
僕はそれがおかしくてケラケラ笑い出しました
延々笑い続ける僕を見て、男たちが顔を見合わせました

「なにがおかしいっ!くそっ!」

とまた逆上した男に馬乗りになられて顔を殴られました
奥歯が砕けました
糸を引いて流れる口からの血と一緒に歯を吐き出しました
それでも僕はへらへらと笑っていました

僕の心は砕け散って、もうヒロユキの女に戻れないことがわかりました
涙も出ませんでした
あの日散歩に出かけた自分の迂闊さにわらうしかなかったのです

「とうとうイったか、こいつ?」
「どうする?残りのエス全部打って、ODで死んだことにするか?」
「いや、殺すなって言われてんだろ、シャブももったいないし」
「それもそうか……。」

そんな男たちの声がどんどんと遠ざかっていき
僕は気を失ってしまったみたいです

次に全身の痛みでピクリとも動けないまま目が覚めたとき、部屋には誰もいなくて、僕の拘束は解かれていました
シャブが切れたのか、全身が焼けるように熱く、指一本動かすにも渾身の力を込めて、ビキビキと音を立てているような痛みに耐えねばなりませんでした
頭をようやく動かすと、枕元に中身の入った注射器が転がっていました
たぶんODで死んだように見せかけるための偽装のためにおいていったものだと思います
手に取ろうと右手が視界に入ると折られた指が紫色に変色して腫れていました

ぶるぶると震える手で注射器を手に取ると、適当に左手の注射痕に針を差し込みポンプを押し込みました

酷く時間のかかかる作業でした
全てがスローモーションで動いているようでした
注射器を放り出すと、10分ほどで、全身の痛みが嘘のように引いていました
ベッドから転がり落ちると、這いずりながらキッチンに向かいました
足が壊れているので立つことができません
シンクに両手をかけて何とか立ち上がると蛇口をひねり
生ぬるい水をお腹いっぱいに飲みました
酷く喉が渇いていたのです

部屋を見渡しましたが電話はありませんでした
そのかわり部屋の片隅に、拉致された時の服がくしゃくしゃになって丸めてありました
それを亀のスピードでなんとか身に着けました

お尻からは鮮血が止まることなく太ももを伝い足にまで届いていました
無事だった左足にミュールを履いて右足は素足のまま部屋を壁伝いに歩いて
ようやくドアのかぎを開けて部屋の外に出ました

外は真昼でした
全く見覚えのないアパートでした
エレベータもなく手すりに?まり、腕だけの力で下半身を引き摺り
アパートを出ると、目の前の酒屋さんにまた這いずりながら飛び込みました

そこで本当に意識を失いました

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