小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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次に目を覚ました時に僕の視界に映ったのは、真っ白な天井と蛍光灯でした
体中がまだ痛かったけれど、清潔なシーツに包まれたベッドに寝かされているのが分かりました

右足はピクリとも動きませんでした
なんか視界がおかしいと思って手で探ろうとしましたが、手も自由に動きませんでした
点滴のチューブが伸びているのを見て、やっとここは病院だと気が付きました
ゴソゴソしていると、直ぐに看護士さんが来てくれました

「先生、患者さん気が付きました」
そういうと、白衣の医師がやってきてベッドの隣に腰掛けました
初老の先生でした

「やあ、気が付いたね。どう?気分は?」
「最悪です…。」
自分の声じゃないみたいなガラガラ声がでました

「ここはどこですか?」
続けて聞きました
「うん。ここはT病院の救急救命センターのICUだよ」
「そうですか…。」
「警察の方がずっと君の意識が回復するのを待ってるんだが話せる?」
僕は首を横に振りました

「うん。そうだね。まだ早いかもしれないね」
「いつ、退院できますか?」
「気丈ですねえ。じゃあ君の具合について簡単に説明させてもらうからね。」
「一番ひどいのは右足首の粉砕骨折。これは人工骨を入れる大手術だったけど無事成功しました
ギプスが取れるのに3ケ月。そのあとリハビリもしなきゃ歩けるようにはならないから全治6か月というところかな。
それでも元通り歩けるようになるかはわかりません。次に肛門裂傷。こちらは全治3か月です。場所が場所だけに治りにくいんです。そして両薬指の単純骨折、これは一か月もすれば治ります。で、左目の打撲、これはすぐに治ります。
……あと、薬物の投与をうけてましたね?」
コクリとうなずく。

「これの脱薬期間はつらいかもしれないが、ここでおとなしくしてれば退院する頃には完全に抜けます」
「はい……。」
「3ケ月の間は無理しないで安静にしていてください。今日明日はICUで様子を見て、明後日からは一般病棟に移ってもらいます」
「はい……」
それだけ話すと異常に疲れが出て、また眠ってしまいました

なにやら話し声が聞こえるのと、人の気配でずっしりと重いまぶたを開けました
またどこにいるのかわからなかったけど、一生懸命頭を整理してどうやら一般病棟に移った事だけがわかりました
先生と話をして丸二日寝ていたことになります
点滴に鎮静剤か何か入っていたのかもしれません

話し声の主は両親でした
目の焦点が合うと父が心配そうにのぞきこんでいました
「やられたよ……」
それしか言葉が出てきませんでした

うん、うん、と父もうなずくだけです
母は目の周りを真っ赤に染めて泣いていました
「心配ばっかりかけてごめん」
僕も涙が伝染して、安心感も沸いてきて泣きました

「警察の人が来てるから、話せる?」
母が聞いてきました
僕はうなずきました

両親が席を外すのと入れ違いに私服の刑事さんが入ってきました
問われるがままにあったことを全部話しました
チームSの仕業ということ以外は。

一通りの事情聴取が終わると、刑事さんは「また来ます」とだけ言って出て行った

刑事ってなんで事件にぶちあたったとき、あんなに子供が欲しかったプレゼントをもらった時みたいに目を輝かすんだろう

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