小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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季節は曇天の続く冬になっていました

僕は隣町のS病院に転院し僕のギプスは外れて、歩行訓練が始まっていました
癒着した骨と肉、腱をバリバリとはがすのですから何度も涙がこぼれるほどの痛みを味わいました

入院した時点で、僕に残された体液は警察の手に渡っていたので
僕が証言すればSも、バックの組も一網打尽にできると、永野に聞かされていました

Sのリーダー、ジュンはナイフによる脊椎損傷で一生車いすの生活になりました

結局僕は証言をしませんでした

久保田さんが組同士の話し合いで金で解決した大人のルールがあったし
一生これからハンディを背負って生きていくジュンのことを考えると、それはそれでバランスのとれたガキなりのルールだと思ったからです

ヒロユキとは連絡が3か月以上とれていませんでした

春が来て、まともに歩けるようになったら神戸に遊びに行こうと決めていました
弘樹さんは、家と工場をリフォームして小奇麗なカスタムショップにするんだといって
図面を持って見舞いに来てくれました

ちゃんと1Fに僕とヒロユキの部屋を構えてくれている完成予想図でした
僕の足のことを考えてくれてたんだと思いました

不恰好に切られた髪も伸びて、長さを整えて散髪してもらうことができるようになって、段々とあの夏の傷が癒えてきていました

両親も、もうすっかり弘樹さん、里美さんと打ち解けあい、まさに家族ぐるみでのお付き合いをさせてもらっているようでした

お正月は、弘樹さんの家で皆で祝おうと段取りを進めていました
「もう、あんたなんで女の子に生まれてこなかったんだろうねえ」
母親が冗談交じりでそんなことを言いました

その夜、久しぶりにヒロユキに電話をしました
3回目のベルで繋がった声はとても元気そうでした
私の事、マサの事、全部話しました

電話の向こうのヒロユキは激怒したり、悲しみに泣いたり、自由に動きのとれない自分を呪ったり
一度に色々なことを聴かされて混乱もしてるようでした

「それで、ヒカルは今は元気になってきるんだな?」
「うん。弘樹さんも里美さんも良くしてくれるし」
「そうか……」
「ねえ?」
「うん?」
「会いたいよ……」
「……俺もや」
「皆、待ってるよ。ヒロユキ帰ってくるの」
「うんうん」
「お正月は帰ってこれそう?」
「……いや、本家の義理事が多くて帰れんとおもう…」
「そうかあ……」
「寂しいだろうけど、我慢してくれ……」
「うんうん。その代り帰ってきたらいっぱい遊んでよ?」
「おうおうわかってるって」
「じゃああんまり長電話になってもアレやし、もう切るね」
「うん。たぶんやけど来年の3月には一回帰れると思う」
「ほんまに!?」
「うん」
「楽しみに待っとく!」
「おう。じゃあまたな」
「うん。お休み」
「お休み」

3月か、その頃にはもうすっかり僕の怪我も治って
いっぱい遊べるな、と思い受話器を握って喜びをかみしめていました

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