小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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高知での告別式は、翌々日執り行われました

僕はミユキさんに頂いた黒留袖の喪服を着て受付の端に立ちました
弘樹さんのお兄さんが僕が親族側に座ることを許してくれなかったからです

僕はあれから3日たっても喋ることができませんでした
喉まで出てかかってる言葉が口から出てこないのです
ですから受付ではお辞儀をして記帳してもらうのが精いっぱいでした

解散したGのメンバー、刑事の永野、他のチームの幹部連中
皆が来てくれてヒロユキの死を悼んでくれました
合計200名以上が参列してくれました
僕の知らない人もたくさんいました

告別式は「お別れ会」という名で行われました

弘樹さんが最後にスピーチをしました
「命は一個、皆その命を精いっぱい輝かして生きてほしい」
というような内容でした

聴いていて悲痛で心から振り絞るような声が僕をまた泣かせました
もうこの3日で何リットルも涙を流したのかわからないくらい泣きました

裕子ちゃんを亡くし、さらに一人息子を亡くした弘樹さん一家はもっと泣いたと思います


肩を震わせて泣く僕に永野が一枚の紙切れを渡してくれました

布師田に収監されているマサの連絡先と面会日の曜日と時間でした
いつもガキの側からの視線で言葉を語る刑事の優しさでした
紙切れから目を上げると片手をあげて去っていく永野の背中が見えました

告別式の終わった後の軽い酒宴で、弘樹さんとお兄さんが言い争いを始めました
原因は僕でした
僕は女性の恰好をしていることをごく普通に周りの皆が受け入れてくれていたし、たまには変な目でみられることもありましたが

「こんなオカマが弘幸の告別式に出るなんて末代までの恥だ」

と面と向かっていわれたのは、初めてだったのでショックを受けました
それ以上そこにいるのはもめ事を増やすだけだと思ったので逃げるように帰りました

皆がみんなありのままの僕を受け入れてくれると思うのは大間違いだと気づいた最初の出来事でした
説明されるまで女と思ってたくせに、とも思いました

そのショックも重なりそれから1週間ほど声を出すことができませんでした
流石におかしいと思ったのか、両親が心療内科に僕を連れて行きました
症状の説明は全部親がしてくれました

診断は「ショックによるストレスや心的外傷が原因の一時的な失声症」ということでした

その時からが長い僕の闘病生活の始まりでした。

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