小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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最初の入院は2週間で終わりました

まだブロードバンドが発達していない時代でしたので、インターネットで自分の病気がどういう病気なのか調べることもできずにいましたし、また親も病気に対して理解は難しいようでした

実家にはもう僕の部屋はなかったので、堺町で暮らしていくしかありませんでした
遮光カーテンと車用のフィルムを貼って日光から逃れ、好きな音楽だけを聞いて一年中エアコンディショナーを効かせて、極力外的刺激を受けないように暮らしました

もっちゃんの所にも顔を出すことは無くなり、一日中部屋に引きこもってただ息をしているだけの存在になりました
極度のうつ状態が始まりました
医者から処方される薬で今度は過食が始まりました
夜中にコンビニエンスストアに走り
カゴいっぱいのお菓子やアイスクリーム、お弁当などを買い込み
あればあるだけの食料を食べてしまうのです
そして目の前にあるだけの食料を胃に詰め込むと、WCに行って嘔吐してしまうのです

夜は平気なのですが、昼間になると生きる気力が萎え
医者の出してくれた眠剤をお昼に飲んで眠ることで現実逃避をするようになりました
当然クスリは足りなくなります

もう一軒病院をはしごして眠剤を調達してクスリまみれの生活になりました
そうしないと生きていけませんでした
起きていても考えることは「死」だけ
何度も自殺を試みました

肌も荒れ、体型も崩れていきました
ごくまれに昼間外出しても、すぐに疲れて戻ってきては倒れこむように寝てしまいます

躁転換したときは全く覚えていない買い物を大量にしてしまい
同じものを買っていたり、財布のお金が大量に減っていて、何に使ったか全然思い出せないのです

躁状態になるのは決まって、何か日常と違うことをしなければならない日でした
実家の陶器類を全部壁に叩きつけて壊したり
気分転換に、と両親が旅行に連れて行ってくれた際には、そこの陶器の洗面台や鏡をを素手で殴って叩き壊して
僕自身の手も骨折して裂傷からの出血で救急車が来たりと、大変な騒ぎになったこともあります

それすら夢の中の出来事のように、他人に説明を受けて初めて、そうだったんだという認識を持つ有様でした

双極性障害は人を人でないものに変えてしまいます
罹患した時点で、その人のキャリアや人生は終わってしまいます
生きる屍と変えてしまうのです

欝の時は抜け殻になった体
躁の時は他人が乗り移った自分でない体
そんな感じになっていってしまうのでした

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