小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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貧しき者にも、富める物にも、弱者にも強者にも
残酷にも時間は平等に与えられています

ヒロユキの7年回忌まではほとんどあっという間でした

僕の中の時間は止まったままだったのでそう感じたのかもしれません
神戸、長田へマサと二人でお墓参りをしに行きました

高知でも行われたのですが、私には連絡も入りませんでした
弘樹さんも里美さんも、親族がそろう法事に私をやはり呼びにくかったんだろうと思います
弘樹さんはヒロユキの乗っていた単車CB350をピカピカにレストアして、店の一番目立つところにディスプレイしていました

神戸でミユキさんに連れられて墓前に立つとあの頃のことが一瞬にして脳裏に奔流のように流れました
お線香が全部消えてもそこから動くことができませんでした
マサが僕の肩にそっと手を置き、やっと立ち上がることができました

その夜は長田の事務所で盛大なもてなしを受けました
覚えている顔、新しく入ってきたらしい知らない顔
皆がそれぞれ伝説のようにヒロユキの事を語りました
僕はもう伝説の人=過去の人になっちゃったんだなあとしみじみ思いました

そんな中スカジャンをきた若い衆が
「生きてりゃ、金バッチですよね?」と馴れ馴れしく僕に語りかけてきました
僕はその瞬間にブチ切れていました
「ヒロユキはそんなことのために久保田さんについてきたわけじゃない!!まだ私の中でいきてるよ!!」
と胸ぐらをつかんで涙が噴きこぼれる中、叫んでいました

事情を知る古参の組員さんたちは静まり返ってうつむいていました
その若い衆もキョトンとしていました
そのまま気まずい空気の中、その日は解散になりました

構えていただいた部屋で私がまだ泣いていると、ミユキさんがさっきの若い衆を連れて入ってきました
「詳しい事情も知りませんですみません」
開口一番、若い衆はそう言って頭を下げました
「大丈夫。私も興奮してしまいました。あの場の空気悪くしちゃってごめんなさい」
そう言って私も頭を下げました

頭を下げっぱなしの若い衆の肩をやさしく手をポンポンと叩きました
ミユキさんが一声かけて、若い衆は部屋から出ていきました

ミユキさんはまたいつもの抱擁をしてくれて髪をなでてくれました
この人がお母さんだったらいいのに、そう思いました

そしてまた袂から封筒を出すと「香典だから」と言って私の手に握らせてくれました

次の日の午後、私たちは長田を後にしました
車を運転するマサがポツリと言いました

「ヒカルさん、俺、結婚するかもです……」

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