小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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マサの奥さんに言われたことが自分の中でどう消化されたのかは分かりませんでしたが
それ以後、こちらからマサに連絡を取ることもありませんでした

現実社会での孤立は、たいして苦痛にもなりませんでした
いつもヒロユキがそばにいてくれると信じて疑わなかったし
一人で物思いにふける時間がそれからどんどんと増えていきました

今時に言うとPTSDというやつでしょうか
目を閉じて眠ると必ずあの時の恐ろしい夢を見ましたし
実際に砕かれた足や腰、首に激痛が走り
一日中、慢性的な偏頭痛に悩まされるようになりました

お菓子代わりに鎮痛剤を飲むという生活が始まりました
最初はドラッグストアの鎮痛剤でよかったのですが、全く効かなくなってしまい
精神科で鎮痛剤と緊張をほぐすデパスも処方してもらう様になり
それと同時に眠剤の種類も量も増え、ほぼ薬漬けの日々が始まりました

鎮痛剤は一か月分をほぼ2週間で飲んでしまうので2週間に一度の通院は欠かせなくなっていました
ODは分かっていながら止められるものではありません
同時に自傷行為にも拍車がかかりました

もっちゃんに頼んでTATOOをいれてもらったり
リスカ、アムカ、ピアシングとどんどんとエスカレートしていきました
僕のTATOOやピアシングは決してオシャレの為ではありません
どこかでのたれ死んだときにでも、バラバラに切り刻まれても
体のどこかのパーツにタトゥやピアスがあることで僕とわかってもらえる
そんな僕が生きた証、のようなものを刻み込んでおきたかったのです

リスカやアムカは鼻っから自殺するためではなくて
自分を切り刻んで、ツブツブの血液が沸いてきて一本の暖かなぬるぬるした液体が
腕を伝ってデスクに血だまりを作っていく
そこに心の苦しみを体の痛みと転換して、生きている実感を味わいたくて
一本、また一本と研ぎ澄まされた剃刀の刃で赤い線をきりとっていくのです

止めることはできませんでした
ODして冷たいデスクに頭を横に寝かせて
流れていく血をじーっと見つめていると
嫌な思い出や欝な感情は吹き飛んでしまいます

それを、一切連絡を取らなかったマサが心配して家に尋ねてきた時に発見してしまったのです
親にも知らされて、即、病院に連れていかれました
外科ではなく、精神科です

閉鎖病棟、クワイエットルームへの2度目の入院でした

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