小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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病院に着くとまずされるのが、ODして意識混濁になっている僕の胃洗浄です
これはかなりきついです
溶け切ってない錠剤や胃液をむりやり嘔吐さすのです
あとで看護士さんに聞いたのですが
次にODさせないようわざときつくするところもあるそうです

そしてベッドに拘束具で固定されると、傷の処置や、鎮静剤入りの注射や点滴を受けます
何度も嘔吐した後なので、ものすごくのどが渇いて脱水症状になり暴れる気力もなくなります

ある程度、精神状態がフラットになったと診断されると
突起物がなにもない部屋に移されます
この時点で拘束具を外してもらえるときもあります

そのままそこで入院期間を過ごして退院できる場合もありますが
大抵は他人のいる一般病棟に移されます
そこからがまた地獄です
色んなキチガイのいる中にもう一人のキチガイとして放りこまれるのですから

中でも躁状態の方との同居はとてもつらいです
延々脈絡のない被害妄想な事を唾を飛ばしながらしゃべりかけてこられるのです
ずっと部屋の壁に額をコツコツぶつけ続ける方もいましたし
本当に寒気のしない日はありませんでした
躁状態の方といるとこちらもイライラがつのり暴力をふるいます
いいかげんだまれっ!というかんじです

髪の毛をつかんで部屋中引き回して
「だまれ!だまれ!だまれ!」
と床に何度も頭を打ち付け、グーでその人を殴りました
そうすると赤ん坊のように急に泣きだし膝を抱えて部屋の隅に行き
「殺される、殺される、殺される」
と延々つぶやき始めるのです
何度も本気で殺してやろうかとおもいました

でも始終カメラで監視している屈強な看護士さんが飛んできて
僕をまた拘束して鎮静剤を打つのです
そうして僕の反抗心はうすらぼんやりとした無感情へと移っていくのです
どんどんとヒトとしての感情が薄れていきます

何とかここを出なくては、と今度はよくなったふりを始めます
でも演技は確実に医師にはばれます
ネチネチネチネチと僕の忍耐力が切れるまでいやらしく同じ質問を繰り返したり
傷を穿り返したりします

一度は切れた僕は医者の胸ポケットからペンを奪い取り、医者の手の甲に付きたてました
映画のように突き刺さることはありませんでしたが、しばらく痣が残るくらいの傷を負わすことができました

そしてぼくはまたクワイエットルーム行きです
そんな繰り返しが続き、3か月を過ぎたころ本当に僕は意志を持たない人形のようになっていました
そうなると、ようやく知人や親との面会が許されるようになります

そこからはもう退院はあっという間でした

何度かの外泊を経て、ある日突然退院を告げられるのです
皮肉な話ですが、早く退院したければなるだけ「退院したい」と医者に言わないほうが良いようです
今回は2回目の閉鎖病棟のお話ですが、都合4回の入院をした僕の経験論です

精神病院への入院は、病気を治すためのものではありません
社会に迷惑を及ぼさないよう一時的に隔離するためだけのものです

そうしてもぬけの殻のようになった僕は2度目の退院をしたのでした

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