小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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視界いっぱいに白木蓮の大粒な花が咲き乱れ

僕はずっとその中をぐるぐるまわっていました

花びらがまぶしすぎて目を閉ざしていました

瞼の内側まで光は浸入してきて視界がピンク色になりました

白木蓮の花から、今度は薄桃色をした桜の花びらが舞い踊り始め

その中で初めて知り合った頃のヒロユキがこっちを見て笑っていました

でもすぐに背中を向けて僕から離れていこうとしていました

待って、ヒロユキ

お願いだから待って、ヒロユキ

もう一人は嫌だよ、置いていかないで

そう叫んだつもりでしたが、喉からは声が出ず、あまりのもどかしさにうっすらと現実の世界に引き戻されました

手術台の上でした
医者が2人がかりで僕の傷口を広げて中身を縫っていました
痛みは全くありませんでした
ただ肉を触られている感触はありました

なんでこんなところにいるんだろうと思いました
死に損ねたことだけはわかりました
諦めと死ねなかった後悔とで深いため息をついて、また目を閉じると白木蓮の花びらに囲まれ眠ってしまいました

次に目を覚ましたのはベッドの上でした
左手にはギブスがはめられていました
点滴のチューブがつながれ、ぽたんぽたんと液が落ちていました
点滴を吊るした器械の向こうに母が目を真っ赤に腫らしてじっとこっちを見ていました

「死に損ねた…」

僕はそれだけをポツリと言いました
とたんに母の平手が飛んできました
生まれて初めて母親に叩かれました

間抜けにも山菜取りにきたおばあさんに発見されて
すぐに救急車が呼ばれたそうです

ほぼ穴のなかにすっぽりと収まっていたせいで
僕の身体を地上に引き上げるのに難儀したそうです
自分の不運にあきれるほかありませんでした

「あんたは、もう…えいかげんにしいよ(いいかげんにしなさいよ)」
母は流れ落ちる涙をぬぐいながらそう言いました

僕は何も言うことができませんでした
自殺未遂者(失敗者)ほどみっともないものはありません
自分の死すらコントロールできなかったのですから

傷の回復を待ってまたS病院に保護入院させられることが決まりました

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