小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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3度目の入院ともなると、もう顔見知りも増え常連さんの仲間入りです

レクリエーションや、セミナーなども行われているのですが
僕は全くそれに参加する気も起きず、いつも一人で過ごしていました

自分は周りにいるキチガイなんかとは違う、まともなんだとずっと思いこんでいました
蔑視していたのです

でもある日カウンセラーさんに付き添われて、どうしてもということでセミナーに参加しました
あの、TVでよくやってる車座になって互いの悩みを打ち明けたりするやつです

自傷癖のある欝の患者さんのグループセミナーだったのですが
誰もが皆、僕と同じように苦しみ、抜け出せない輪廻に取り込まれてもがいていることが分かりました

1回目、2回目は全く僕は発言せず、皆の吐露する苦しみを聞いていました
3回目に参加したとき、どうしてもということで発言させられました

口は重く、舌も全く滑らかには動きませんでしたがなんとか喋ることができました
喋り終えたとき僕は自分が泣いているのに気が付きました
周りの皆さんも泣いていました
隣にいた年配の男性が僕を抱きしめ
「よう頑張って生きちゅう、(よく頑張って生きているね)えらいえらい」
と言ってくれました

他人に接触される事を嫌とも感じず、僕もその男性の肩に顔をうずめ泣きっぱなしでした
そのうち周りから拍手が起きました
なんで拍手なのかわかりませんでしたが、とたんに僕は恥ずかしくなって男性から離れると、自分の定位置にもどりました

それからは視界が開けたかのように、病棟にいる方達を蔑視することもなくなりました

皆、翼が引きちぎれ飛べなく、地べたを這いずりまわるしかない同じ鳥なんだと思いました

カウンセラーさんにそのことを話すとウンウンとうなずきながらも
今入院している方たちの2/3が再入院してきた方達で、また退院してもすぐ入院してくるであろうことも教えてくれました
僕自身そうだったのでその話は納得ができました

社会不適合者
犯罪に走って刑務所に入るか、犯罪すら犯せず精神病院に隔離されるか
どのみち社会という枠組みの中で群れられない人間なんだと悟りました

カウンセラーさんはまた、社会復帰できる人やもうその見込みがない方を判断して病棟やフロアを変えて、入院させているのだとも教えてくれました

僕はどっちですか?と聞くと困ったような笑顔を浮かべながらも前者であってほしいと願っているよと答えてくれました

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