小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

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その頃の高知県では成績優秀な人は、中高一貫の私立学校へと進み
そうでない人は公立の学校に進むことになっていた

小学校を卒業した僕は中学校には入学式も行かず、それ以来勧められるがまま恭子さんの部屋に入り浸っていた
スーパーの事務所を半焼させたのは、やっぱり恭子さんだった
恭子さんは一週間の相談所送りと1年の保護観察という処分で終わった

恭子さんの部屋は僕のマンションの一室よりもずっと居心地がよくて
いつまでも居られたし、お互いに何もしゃべる事はなくても奇妙なバランスが取れていた
恭子さんのお母さんは夜働いてて、昼過ぎになると起きだしてくるので
僕は朝、親が出勤するのを待って昼までごろごろして恭子さんちに行った
彼女が学校に言ってる間は、いつも「片付けられない症候群」の彼女の部屋を片付けたり
ラジカセでARBやBOΦWYのカセットを聴いたり、することはたくさんあった


今の若い方のために書いておくと
当時の公立中学校には、僕の中学校も含めて「校内暴力」の嵐が吹き荒れていて
教室の窓ガラスは全部割れて、休み時間になると廊下を原付で走りながら
教室に爆竹を放りこんだり、校舎裏ではアンパン(シンナー)を吸ってるギャラリーの前で
ファイトクラブのような覇権争いの喧嘩が日常茶飯事だった
そんな学校に行く気は全くなかったし、興味もなかった

そんなある日、僕があいかわらず恭子さんの部屋で雑誌なんかをめくっていると
ガタイのいい中学生が一緒になって帰ってきた
(あ、恭子さんの彼氏さんかな?)とおもってパッとおきあがって
「はじめまして、恭子さんにはお世話になっていますヒカルです」
とぺこりと頭を下げた

無言でこっちをジロっと睨まれた…いやなかんじ…
「ヒカルってよーガッコきてないよねー。もうどんくらい?」
恭子さんが3人分のジュースをコップに注ぎながら聞いてきた

「ん?2週間くらいやとおもう…」
「そっか?。。。そろそろいってみない?」

ちゃぶ台の上にコップを並べながらこっちを見た
「行ってもすることないし、また殴られたりするのも…いやだし…」
「あ?それは大丈夫ヒロユキがいるし。守ってくれるって。ねえ?ヒロユキ」

ヒロユキと呼ばれたその人をちらっと見ると(じーっと見るのが怖かった)
うんうん、と笑いながらうなずいていた
あ、笑うんだ、と何でか思った。思ったより怖くなさそう。

「それから、これ」
恭子さんは衣装ケースからなにやらごそごそと引っ張り出すと
知らないブランド名前の入ったビニール製の袋を僕に渡した

「え?なにこれ?くれるの?見ていい?」
「見てみて、絶対似合うと思うんだよね」
ニコニコ意味ありげに笑う恭子さんを見ながら袋から中身を取り出すと
それはセーラー服でした

絶句…。

当時の僕の身長は145cmとかなり小柄だったし、髪も小学校5年から切ってなかった
「え?普段着?」
「まさか、それ着て学校通えばいいじゃん」

再び絶句
「まーまーいいから、一回着てみてってば」
恭子さんは心底楽しそう

幼少のころ、小学校の頃、女性ものの服を着ていた僕には抵抗はあまりなかった
でも実際に着てみると、上着の丈は詰めてへそまで見えそうだし
スカートも膝上10cmぐらいのミニに改造してある立派な改造制服

「これ、ヤンキーの服じゃん!!」
「なんだったら下着とブラもあげようか?」

…とりつくしまもありませんでした
(ブラだけはもらったんですが…)
「どう?ヒロユキ?可愛いでしょ?」
恭子さんがグリっと僕の身体をヒロユキさんのほうに向けて聞いた

僕がドキドキしながらヒロユキさんのほうを見ると
ヒロユキさんも無表情で上から下まで僕の姿をみつめると
にっこり笑ってサムアップ(親指だけを立てるサイン)してくれた

それがヒロユキと僕の始めての出会いだった

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