小説『Uninstall (ダブルエイチ)』
作者:月読 灰音(灰音ノ記憶)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


それから恭子さんからの贈り物を家に持って帰った僕は
こっそりと髪型をいじったり、セーラー服をきてみたり
自分の部屋で研究を重ねていた
ブラはさすがにつけずじまいだった
ものすごく幸せなひと時だった。性的欲望など皆無で、むしろ学ランを着る苦痛より、全然開放感が違った

2日後恭子さんに電話した

「明日、ガッコいくよ。」
「わかった。むかえにいってあげるから♪」

登校する日の朝、チャイムが鳴って恭子さんとヒロユキさんが玄関先で待っていてくれた
3人で初登校だった
恭子さんは3年のクラスにヒロユキさんは僕のクラスに一緒についてきてくれた
クラスには小学校の時の友達もいた
そいつが僕を見て、誰も使ってない後ろから2番目の席を使うよう教えてくれた
ヒロユキさんは僕が席に着くのを見て、クラス中をにらみつけて2年のいる2Fへと去っていった

始めは名前と姿かたちが一致しなかったクラスメートもやっと僕が女装していることに気づき

「オカマがいるぞ??!!オカマオカマ!!」

口々に囃し立てられました
じっとうつむいて机を見ていることしかできなかった

やがてHRがはじまり担任は僕を見るなりギョっとしたようだったけど

「お?○○ようやくきたか?。あとで生徒指導室にこいよー」

といったきり、通常のHR(?初めての事なのでわからなかったけど)
を済ませて、僕を生徒指導室に連れて行った

「ようやく登校してきたな。小学校の先生から申し送りで一応きいてはいたんだけど
問題児らしかったじゃないか?けどまさか女子の制服で来るとは思わなかったぞ、わはははは」
意外と話の分かる先生かも…?

「うちは校内暴力とか非行少年ばっかりで、どーしようもない学校だし
お前の服装に関してもどーも言わん。取り上げても、また次の女子の制服きるだけだろうが?
ただ学校だけはちゃんとこい。勉強分からなくても、とりあえず出席だけはしてくれ
それと、真面目に授業受けてる奴の邪魔だけするな。そしたら卒業さしてやるから。」

というと、ドカッと教科書の山を僕に手渡した

「はぁ…。」

「んじゃいっていいぞ。」

え、それだけ?あっけなかった。
それだけ時代は校内暴力にあふれ、学校は無法地帯だったということかもしれない
小学校の担任からの内申書?というか申し送りで「問題児」は既にチェック済みだったのかもしれない

重い教科書の山をよろめきながら持って教室に帰ると、クラスメートたちの視線がジロジロと突き刺さった
救われたのは、小学校の悪友が一人だけだったけど同じクラスにいたこと
例のサノだった
サノは後から聞いたことだけど、恭子さんから「セッキョー」を食らって、僕のガード役を命じられていたらしい
奴は校舎の説明とか、購買部の場所なんかを教えてくれたけど
単に遊びに来た気分の僕の頭の中にはサッパリ入ってこなかった
授業で教師が変わるたびにジロっと見られたが、何にも言われなかった
教師の授業内容は退屈だったけど、教科書は新鮮で面白かったので授業中はずっと教科書ばっかり読んでいた
昼休みに、サノについてきてもらってナップサックとシャーペンとノートを買った
上履きは買おうにもその日の持ち金が尽きたので、来客用のスリッパをペタペタはいたままだった
なんとなく一緒に昼ごはんを食べる流れになって、パンを教室で食べてると

「よう、サノ。いい彼女が出来たな」

とからかう声が飛んできたけど、サノは怒るどころか真っ赤になってうつむいていた
うん、前から思ってたけどこいつは変なやつだ
サノに教えてもらって教科書は教室の後ろのロッカーに全部放り込んだ
シャーペンとノートは机の中
ナップサック買う必要なかったなぁと思った
「なあ、ヒカル?」
サノは唐突に聞いてきた
「ん?」
「なんでまたセーラー服なんだよ」
「え?似合ってない?」
「違うって、そういうことじゃなくってさ。」
「じゃあ似合ってる?」
「うん、とっても。じゃ、なくってさ!」
「なんだよ!」
「ただでさえこの校区、柄悪いのばっかりのばっかりなのに、目立っちゃうとシメられるぜ?」
「あ??そういうことね。でもこれさ…恭子さんが着ていけって…」
「…全くあの人は… あーもうよくわかんねえ。でも一応警告はしたからな」
「うん、ありがとう」
「いや、ありがとうじゃなくて気をつけろって言ってんの」

そういうとなんか不機嫌になったらしいサノは頭をガリガリかきながら教室を出て行った
やっぱり変なやつ。



そしてサノの警告通り早速その日の放課後僕は1年生の不良グループによびだされた

不良グループとはいっても同じ一年
この間までランドセルに笛さして通学していたようなジャリ
恭子さんやヒロユキさんという先輩たちと付き合っていた僕は完全になめていた

呼び出しを無視して授業が終わると速攻家に帰った

財布も空だったし、久しぶりにゲーセンにも行きたかったので
机の中から2千円だけ補給して着替えて家を出た
途中で文房具屋さんで大ぶりなカッターナイフを買った
ガチャガチャと刃がでてくるやつ
何の用意もせずに大勢とやりあうつもりはなかった

何事にも準備は必要だよね。

-9-
Copyright ©月読 灰音 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える