小説『【完結】夢幻の楽園』
作者:bard(Minstrelsy)

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ハムレットは言った。「死ぬと言うことは眠ると言うことだ」と。
そして「眠る。多分夢を見るだろう」とも。
死ぬ。それを人は、永眠と言う。
二度と醒めない眠り。二度と醒めない、夢の始まり。
安らかな眠りを、穏やかな眠りを、そう祈りの言葉と共に口ずさむ。
死が眠りならば、生は覚醒…起きているとでも言うのだろうか。
限られた時間を起き続け、そして二度と醒めない眠りにつく。果たして、どちらが夢に近いのだろうか。
――私はまだ、闇の中にいる。


全ての生在るものは、その限られた時間の中でも微睡み、眠る。
来るべき時の為に備えるためか、それとも、時折生きながら死んでいるのか。
死という眠りの中で生を夢見ているのか、それとも、どちらも夢でしかないのか。
泡沫の夢の中を生き、久遠の時を眠り続ける。
人は、夢を見る為に産まれてきたのだろうか。それとも、私自身が誰かの夢なのか。
今私が見ているのは夢?それとも、現実?
起きているのは、それが夢の続きだからなのだろうか。
――闇の中、誰かの呼ぶ声が聞こえる。


誰かに尋ねられたことがある。
「君の夢は何なのか」「将来の夢は何なのか」
私は答えた。
「何故生きているかを知るためだ」
そうしたら「君には夢がない」と言われた。ただ、それだけ。
下らない、そう、本当に些末で下らないやり取りだった。
別の誰かは私にこう尋ねた。
「君は何故生きているのか」
私は答えなかった。答えられなかった。
――私を呼ぶ声が、聞こえる。


目を開けると、誰かが興味深そうに私を覗き込んでいる。
見覚えのある顔。だけど、誰だか思い出せない。ぼやけた記憶を必死で手繰り寄せる。
「無理はしなくて良いから。しばらく休んでて」
ああ、と思い出す。
この人は専属の研究員。私は、この人の実験台。
夢や記憶を保存する為の機械に繋がれた私の身体。
私は、夢を作り出すための装置でしかない。
「君はとても良い素材だよ。とても良い夢を作り出してくれる」
彼が囁く。また、意識が遠のく。眠る。私は、眠らされる。
「おやすみなさい」
その言葉を最後に、私の意識はまた闇の中へ墜ちていく。


墜ちる意識の狭間で、私が私に訊いてくる。
私は、夢を見ていたのだろうか。
それとも、今夢を見ているのだろうか。
私は――誰かが見ている夢に過ぎないのだろうか。
答えを出せないまま、私はまた、墜ちていく。

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