小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第2章:武士道プラン異聞録編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第2章『武士道プラン異聞録編』



33話「変わる心、過去との決別 2」


放課後。


(大和……大和はどこ!?)


京は校内中、大和の姿を探し続けていた。京の大和に対する依存はますます強くなっていき、それは狂信的にも見える。仲間が変わっていく今となっては、京には大和しかいなかった。


だが大和は見つからない。いくら探してもいない。学園はさほど広くはないと言うのに、焦りがそうさせているのか、大和を見つけられない。


救いを求めるように、大和を探し続けた。大和がいなければ、自分が自分でいられない。自分を保てない。京の心は、そこまで追い詰められていた。


見つけなくては……自分の心の拠り所であり、希望の光であり、思い人である直江大和を。




一方、放課後の屋上。


屋上で一人、華は空を見上げながらひたすら時間を潰していた。


「―――――」


壁に寄り掛かりながら座り込み、華は流れゆく雲を目で追い続けている。


京の事を、ずっと引きずっていた。


過去と向き合い、京に謝ろうした華。だが京は拒絶した。これ以上話す気はない……気持ちが晴れないまま、華は無力感に苛まれていた。


(何やってんだかなぁ……アタシは)


自分は何をやっているのだろう。ただ屋上へ逃げているだけだ。何の解決もしないまま、自分はここにいる。こうして時間が過ぎ去るのを待っている。


全ては時間が解決してくれると言うが……後悔だけは永遠と残り続ける。華は本当はこの苦しみを、ただ逃れたいが為に京に謝ろうとしているのではないだろうか。だとするならば、カーチャの言う通り偽善者なのかもしれない。


そんな事を考えながらしばらく時間を過ごしていると、


「―――――ほらよ」


「―――――うわ!?」


突然、華の頬に冷たい何かが触れる。見ると、缶コーヒーが差し出されていた。差し出してやってきたのは大和である。


「や、大和……」


「おう」


大和は華に缶コーヒーを手渡し、華の隣に座り込むと、缶コーヒーを開けてぐいっと煽り、空を眺め始めた。そして、


「……京が言ってた事、本当なのか」


早速華に疑問をぶつける。あの時屋上で聞いてしまった、華のイジメの過去。華の様子からして、恐らく事実なのだろうが、大和は敢えて聞いた。


すると華は地面に視線を落とし、思い返すようにしながら語り出した。


「……ああ、そうだぜ。京の言う通り、アタシはミハイロフでイジメをやってた」


観念するように、華は全てを語る。今更隠しても意味はない。大和はそれを黙って聞いている。


「クラスの連中を巻き込んで、イジメやって……アタシは楽しんでた。誰もアタシに逆らわなかった。アタシは浮かれてたんだ。まるで、女王か何かになったみたいに」


逆らえばお前もイジメの対象にすると、クラスの生徒を脅し、イジメを繰り返していた華。楽しんでいた自分がいた。だが、今となっては後悔だけが残留し続けている。


「京に言われて始めて気付いた。アタシには、虐められていた人間の苦しみなんて分からないって。そりゃそうだよな、アタシなんかに分かるワケねぇよ。そんなアタシが京に説法解くなんて、超ウケるぜ」


大和に貰った缶コーヒーを開け、気を紛らわすようにぐいっと飲み干す華。遠い目をしながら、大和に胸の内を話し続ける。


「アタシは、あいつに一言謝りたい。けど、それだけで今までやってきた事がチャラになるわけじゃねぇし……結局アタシは、ただ楽になりたいだけなのかもしれねぇな」


京に謝れば、自分は楽になれる。肩の荷が下りる気がするという自己満足。自分自身と言う人間が、つくづく嫌になる。華は大和に顔を向け、力なく笑うのだった。


「……これで分かっただろ?イジメをして平気な顔してるような最低な人間、それがアタシなんだ」


溜まっていたものが、抑えきれなかった思いが一気に吐き出されていく。自分はこういう人間であり、薄汚い存在だと。しばらく大和は、黙ったまま空を見上げていた。そして、


「ああ、よく分かった」


ようやく華に視線を向ける。一体どんな言葉をかけられるのだろう……華は息を呑んだ。


「華がロリコンで、ドMで、カーチャの変態雌奴隷だって事が」


「―――は!?」


大和が返した思いがけない言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げる華。大和はその反応を見て笑っていた。からかわれたと思い、華は立ち上がる。


「お、お前なぁ!こっちは真面目な話してんのに……」


「悪い悪い。でも、これで少しは落ち着いたろ?」


「……あ」


華はようやく気付く。さっきまで虚ろな気持ちだったのに、今は少し和らいでいる気がした。大和はそんな華の気持ちを察して、わざとからかったのだろう。


「……別に俺は、華の事を最低だなんて思わない。俺も同じだったからな」


思い返すように、大和は遠い日の記憶を辿る。昔は自分も華と同じだ……華は疑問を抱く。


「同じ……?だってお前、京を助けたんじゃないのかよ?」


「結果的にはな。けど、それまでに随分と時間がかかった。ずっと見て見ぬ振りをしてたからな」


大和は小学校時代の自分を語る。京のイジメは知ってはいたものの、初めから助けようとはしなかった。イジメには参加しなかったが、傍観者としてただ眺めていただけ。


それは、結局イジメをしているのと変わらないと言うのに、それに気付かなかった自分がいた。


「それに、助けられたのは俺だけの力じゃない。キャップ達がいてくれたから、京を救えたんだ。もしキャップ達がいなかったら、ずっと傍観者のままだったかもしれない」


京を助けられたのは、大和の周りにいる仲間―――キャップ達がいたからこそ出来た事。それでも、大和の一歩踏み出す勇気がなければ、できなかった事でもあった。


自分自身の罪を認める。それは、嫌な自分と向き合うという事。大和は諭す。今の華には、それが出来ているという事を。


「お前は自分の行いを認めた。それを踏まえて京に謝ろうとしてるんだ。だから……そこまで自分を思い詰めるなよ。お前らしくないぜ」


華の肩を叩き、優しく言葉をかける大和。華も少し気が楽になったのか、肩の力が抜けた気がした。大和の仲間を思う優しさに触れ、暖かい気持ちになる。


「あ、ありがとうな大和……」


涙腺が緩み、華はうっすらと涙を浮かべていた。涙を腕で擦るように拭く華の表情を見て、大和は慌てふためく。


「お、おいおい。泣くなって」


「う、うるせーな!別に泣いてなんかねーよ」


自分の弱い一面を隠すように、強がる姿勢を見せる華。華もこんな表情を見せる事もあるのか……そんな華が、少し可愛らしく感じる大和なのだった。


しばらくして時間が経ち、


「――――じゃあ、アタシはそろそろいくわ」


「おう、俺も行くよ」


と、二人が屋上を後にしようとした時だった。振り返った瞬間、屋上と学園内を繋ぐ扉が開く。


そこへ現れたのは、京だった。


「み、京……」


突然現れた京。華は表情を曇らせた。一方の京は華には目もくれない……が、今回は違った。大和と華を見て表情を強張らせている。


「何……してるの?」


恐る恐る口を開き、大和と華に問い掛ける京。誰もいない屋上で、大和と華二人きり。何やら妙な誤解を招いたかもしれない。誤解を解くため、華が弁明を始める。


「み、京!アタシたちは別に……その……な、なあ大和?」


うまく説明ができず、華は結局大和に話を丸投げしてしまった。突然話を振られるも、大和は冷静に京に説明をする。


「ああ、別に何もないぜ。ただ華がロリコンでドMでかつ素直になれないカーチャの変態雌奴隷になった理由を、聞いてただけだ」


真剣かつ、真面目に応える大和。


「ちょっと待てよ!?そんな話してねーだろ!いや、したかもしれないけどよ、ってか素直じゃないは余計だっつーの!」


隣で聞いていた華が激しいツッコミを入れる。


「華、隠さなくていいんだ。誰だって色々な性癖を持ってる人間がいる。だから、何も恥ずかしがる事はない!!」


と、ガッツポーズを取りながら大和は豪語するのだった。華はアホかー!と隣で叫んでいる。


きっと、場を和ませる為の大和なりの配慮なのだろう(方向性は間違っているが)。これで京も絡んでくれる……が、今の京は違った。


(大和……華とあんなに仲良く……)


ふざけあっている大和と華の姿。京は嫉妬よりも、先に悲しみが思考を支配していた。


それは“大和という存在を奪われる事”ではなく、“自分の拠り所だった大和が変わっていく”、“自分の知らない大和に変わっていく”という恐怖だった。大和や仲間が、どんどん遠い存在になっていく。


――――もう、京には何もできない。周囲の変化についていけず、まるで自分だけが取り残されてしまったような感覚。行き場のない感情が、京の中でとうとう爆発した。


「――――――!!」


京は踵を返し、抑えきれない涙を何度も拭い去りながら屋上から消えていった。


「お、おい京!」


呼び止めようとする大和の声は、もう彼女には届かない。


話の輪に入ろうともしなければ、大和を強引に奪おうともしなかった京。こんな事は今までにない。


嫌な予感がする……大和と華は走り去っていく京の後を追うのだった。

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