第2章『武士道プラン異聞録編』
41話「出動!風間ファミリー」
2−F教室。
「――――以上でHRを終了する」
号令を促す梅子。いつものように、真与の号令で締めくくられてHRが終わりを告げる。
「……皆も知っているとは思うが、ここ最近学園近辺で通り魔事件が発生している。学生は夜遅くまで外を出歩かないように。以上」
釘を刺すように、梅子はそれだけ言い残して立ち去っていく。生徒達はガヤガヤと騒ぎ始め、通り魔事件の話題で持ちきりであった。
学園を騒がせている通り魔事件。先日、川神学園の女子生徒が意識を失った状態で発見された。
怪我はないものの、意識が戻った女子生徒はその時の記憶がないのだという。その為、現在解決には至っていない。
次の日もその次の日も……学園の女子生徒ばかりが次々と狙われ、警察が警備に当たっているが、通り魔の犯人は目撃されておらず、調査は困難を極めていた。
もう、警察は当てにならない。このままでは被害者が増える一方である。
そんな中、川神市の危機から救うために立ち上がる人物達がいた。
危険を省みず、ただ学園の平和を守りたいがために悪に立ち向かう彼らの存在。
そう―――――キャップ率いる風間ファミリーであった。
「……ってなわけで、これから通り魔事件解決の為の作戦会議を開く!」
キャップが中心となり、会議を始めるファミリー一同。通り魔事件の犯人を捕まえる為に、全員招集をかけられていた。
正義を行い、悪を断つ。ファミリーは明日を勝ち取る為に、今日も駆け回る。
「……まあ、結局お目当ては報酬の食券なんだけどな」
「しかも食券300枚。しばらくお昼には困らない」
『これがホントの食券(職権)乱用!』
華と京、そしてクッキーの連携ツッコミがシリアス(?)な空気をぶち壊した。それでも立派な会議ではあるのだが。
とにかく、依頼を受けた以上は必ずこなさなければならない。被害者が出ている以上、真剣に対処すべきである。
「まずは作戦の内容を説明する。大和、頼む」
キャップが軍師に促した。すると、大和は犯人捕獲作戦の手順の説明を始める。
決行は人通りの少ない、夜の時間帯。場所は川神市商店街。この場所が一番頻発しているらしく、犯人が潜伏している可能性が最も高い。
そこでメンバーを2人1組に編成し、それぞれ定位置に配置して犯人を捜索、捕獲するという作戦を決行するというのが今回の内容である。
大和とキャップは司令塔となって各グループを動かし、包囲網を作り退路を断つ。最終的に犯人を追い込んでいく……しかし、その為には犯人を誘き出すための囮が必要だ。
しかも狙われているのは女子生徒のみ。つまり、か弱い女性でなければならない。
となると、まず百代達のような武士娘は基本的に論外。手を出そうものなら返り討ちに会うだろう。それ以前にオーラ的な意味で犯人が寄り付かない。
まふゆもイメージ的にお淑やかとは言えない(本人の前で言ったら殺されるので言わない)。華は言うまでもなく論外。
ならば、やはりカーチャしかいない。だがカーチャは別行動でいない上に、頼んだとしても引き受けてくれる確率はほぼ0%だろう。
残るは消去法でただ一人のみ。それは――――――、
「モロ、お前しかいない!」
大和がモロの肩を叩き、囮役として指名するのだった。
「そうだね。確かに僕ならぴったり……ってちょっと待ってよ!!何で僕なのさ!?」
納得がいかないよと反論するモロ。しかし大和は大丈夫、お前ならできる!と親指を立てた。
囮役だけならまだいい。ただし囮がか弱い女子生徒。つまりモロが女装をするということである。
確かに、モロの体系からなら女装は可能かもしれない。しかしまだ他にもいるだろうとメンバー全員に意見を求めた。
「うむ、体型的にはありかもな」
「ナヨナヨ感がちょうどいいよね」
頷くクリスと京。
「私もモロロの女装姿がみたいぞ」
「なんか面白そうだわ!」
「きっと似合うと思います!」
モロの女装に期待する百代とワン子とまゆっち。
「あたしは大賛成だぜ」
「あたしもちょっと気になるかな」
面白がる華と、興味を示しているまふゆ。
以上が、女性陣の意見である。一方男性陣はというと、
「まあ、別にいいんじゃね?俺だったら嫌だけどな」
「好きにしろ」
いいような、悪いような曖昧な返事をするキャップと忠勝。
「モロ、もしかしたら目覚めるかもしれねぇぞ?」
「お前の体格なら問題ないだろう」
意外とモロの女装姿に期待をかけているガクトと、とりあえずOKを出すサーシャ。
これで全員の意見が出揃った。一致団結。モロにもう逃げ道はない。女装せざるを得ない状況に追い込まれたモロはがっくりと肩を落とし、しぶしぶ承諾するのだった。
「これで一つは決まったな。次はモロの護衛役だ」
囮は危険が伴う。当然モロを一人夜の街に放り出すわけにはいかない。その為にはモロを守るパートナーが必要になる。
しかし男性では意味がない。カップルと思われ犯人が近寄らなくなってしまう。やはりここも女性なければならない。
「そこでだ。ここは一つ投票で決めたいと思うんだが……みんなそれでいいか?」
大和は投票でモロの護衛役を推薦するらしい。異論はなく、全員一致で頷くのだった。
そして結果発表。
「………なんだ、これは」
膝をつき、その結果を愕然とした表情で項垂れているのはサーシャだ。まるでこの世の絶望を味わったかのような、そんな苦悶の色すら伺える。
そしてこれが今、サーシャが目の当たりにした結果である。
投票結果
大和:サーシャ
キャップ:サーシャ
ガクト:サーシャ
モロ:サーシャ
忠勝(代理・華):サーシャ
百代:サーシャ
ワン子:サーシャ
京:サーシャ
クリス:サーシャ
まゆっち:サーシャ
まふゆ:サーシャ
華:サシャ子(笑)
サーシャ:百代
サーシャを除く全員が、サーシャを推薦していた(約一名は悪意ある投票)。こんな事が、こんな事態があっていいのかと自問する。だが結果ならば仕方がない。サーシャは諦めて納得する他……いや納得なんてできなかった。どう考えてもこれは大和の策謀である。
「大和……貴様、謀ったな!?」
テーブルを叩き、サーシャは身を乗り出すようにして大和に詰め寄った。
「人聞きの悪い事をいうな。これは正当な結果だ。決して俺はみんながサーシャの女装をどうしても見たいからといって細工をするような事は断じてしていない!」
言って豪語する大和。もはや確信犯。サーシャは頭を抱え、ロシア語で絶叫する。
これは神の悪戯か。悪魔の罠か。どちらにせよ、サーシャにとっては苦痛以外の何者でもない。
「諦めろ、サーシャ。これも運命だ」
うん、と腕を組んでサーシャを諭す百代。
「ま、まあいいじゃないサーシャ!あたしも見てみたいと思ってたし」
まふゆは気に病まないでとサーシャを励ます。しかし、やっぱりサーシャの女装姿が気になって仕方がないらしい。
また翠玲学園で潜入したような格好になれというのか。
あの銀色の百合姫――――“アレクサンドラ=ヘル”に。サーシャは恥ずかしくて死にたくなるのだった。
「よし。じゃあ明日の夜、作戦開始だ!」
大和が高らかに声を上げた。明日の夜、ファミリー達の犯人捕獲作戦が決行される。