小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第2章:武士道プラン異聞録編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第2章『武士道プラン異聞録編』



53話「双子(?)と聖乳と同性愛者 1」



待ちに待った由香里の初登校日の朝がやってきた。まゆっちと由香里は制服に着替え、大和達と共に寮を出る。


いつもの道を歩き、多馬川の土手で百代、ワン子。ガクトとモロ。サーシャ、まふゆ、華と合流。いつもの朝が始まる。


当然注目されるのは由香里。風間ファミリーの新しい仲間である。


「しっかし、ホントそっくりだなお前ら」


ガクトも改めてまゆっちと由香里を見比べる。どこからどう見ても瓜二つだった。見分けが全くつかない。


念の為、まゆっちと由香里と見分けがつくように、まゆっちは髪を二つに結び、由香里は髪は結ばずストレートにしている。


「まゆまゆにゆかりんか……まさに双子どんぶりだな。ふふふ」


まゆっちと由香里を交互に見ながらニヤニヤする百代。早速狙われている。


大和達やサーシャ達も、間近で見て目が釘付けになっていた。家族の構成上は双子という設定になってはいるが、ここまで似ていると返って怪しまれるのではないかと思うくらいに。


―――まゆっちと、新しい仲間、由香里。


ファミリー全員から注目を浴びる二人。これからどんな日常になっていくのだろう。


しばらく学園へ続く道を歩いていると、ファミリー達の前にぞろぞろと不良達が集まってきた。恐らく、百代に勝負を挑む命知らずな挑戦者達である。


不良達は下品に笑いながら、金属バットや鞭、ハンマー、どこから手に入れてきたのかモーニングスター等の凶器を手に百代に立ちはだかっていた。


「川神百代!てめぇの首、貰いにきたぜっ!」


「フルボッコにして俺達の肉便器にしてやるよ!」


「野郎どもやってやろうぜ、ひゃっはーーーーーーーーーーー!!」


打倒百代を掲げ、士気を高める不良達。邪な欲望を剥き出しにしながら彼らは百代に挑もうとしている。百代の圧倒的な強さを知らないのだろう……察するに田舎から出てきた不良達である。


百代は無謀な挑戦者達に向けてニヤリと、待っていたとばかりに笑うのだった。


「ふふ、久方ぶりの挑戦者だ……楽しませてもらうぞ!」


百代にスイッチが入り、不良達と百代は戦いの場を土手の川沿いへと移す。その戦いを一目見ようと登校中の川神学園の生徒達や百代ファンの女子生徒達がギャラリーとなって集まり始めた。


大和達も不良達に御愁傷様と心の中で憐れみながら、ギャラリーに紛れていつもの結末を見物しようと川沿いへ移動する。


しかしこの日だけは何かが違った。そしてこの戦いは、思いも寄らぬ形で幕を閉じる事になる。


「野郎どもやっちまえぇ!!」


互いの名乗りを上げる間も無く、不良達が一斉に動き出す。それぞれ武器を構え、百代を倒そうと襲いかかる。百代は微動だにせず不良達を眺めていた。


不良達には、百代しか見えていない。百代を屈服させ、自分達の欲望の吐き出し口にしようとしている……だがそれは叶わない。何故ならこれから不良達は、百代によって一瞬で葬られてしまうのだから。


―――不良達と百代との距離が縮まっていく。身構えない百代を見て不良達は勝利を確信する。一方の百代は目を閉じ待ち続ける。


次第に距離が僅かになり、目と鼻の先に不良達が百代に近付いた瞬間、百代は目を開けた。今が動く時。


だが、百代が目を開けたその瞬間、不良達と百代の間を割り込むように一人の影が舞い降りた。


「な―――」


思わず声を漏らす百代。それは不良達も同じである。両者との間に突然現れた影。それは。


「―――――――」


そう、由香里であった。由香里は百代の前に立ち、迫りくる不良達に立ちはだかる。彼女が降り立ったその時にはもう、勝負の行方はついていた。


――――――――。


土手には、気絶して倒れている不良達の姿。不良達は身体を見えない糸で縛られ、身動きが取れないまま気を失っている。残るは由香里と呆然と立ち尽くしている百代。敗北した不良達。後には何も残らない。


由香里はつまらなそうに不良達の無残な姿を見下ろしていた。その左手には水銀ロッドが握られている。不良達が近付いた瞬間、水銀の鞭で強打して気絶させ、水銀を展開して身体を縛ったのである。


まさに、一瞬という名の芸術だった。その一部始終を見ていたギャラリーも、歓声を通り越して言葉を失っている。


これが、由香里のクェイサーとしての能力。片鱗ではあるがその力は本物である。由香里の強さを見せつけられていた百代はしばらく見惚れていたが、戦いを邪魔された事に変わりはない。不良達は再起不能。戦えないとわかった百代は由香里に不機嫌な顔で文句を言い始めた。


「おいゆかりん!こいつらは私の獲物――――」


と、文句を言う対象の由香里はいつの間にか百代の前から姿を消して、ギャラリーへと足を運んでいた。


由香里が運んだ先は……百代のファンの女子生徒達である。由香里は百代ファンの一人をお姫様のように身体を抱き上げ、優しく微笑みかけていた。


「すまない。君が可愛いから、思わず抱いてしまった」


「へ……?」


「私は黛由香里だ。君の名前は?」


「あ……えっと、御手洗です」


「御手洗さんか。放課後私とお茶でもしよう。もちろん、私の奢りだ」


由香里は女子生徒を口説き始めている。抱きかかえられた女子生徒は由香里を前にどうしたらいいか分からず狼狽えていたが、徐々に表情をうっとりさせながら、最後には由香里に完全に口説き落とされた。


それは、舞い降りた一輪の百合の花。凛々しく、されど可憐な振る舞いを見せる由香里の姿は大和撫子と呼ぶに相応しい。


「は、はい……喜んで」


由香里の魅力にすっかり虜になってしまった女子生徒は、されるがままに身を委ねていた。周囲の女子生徒達も、由香里という存在に引き込まれていく。


「も……モモ先輩も素敵だけど、由香里さんも、素敵……」


「あたし……抱かれてみたい」


「私、頬ずりして欲しい!」


周りに一斉に伝染し、騒ぎながら由香里に群がる百代ファン達。由香里は笑顔を振りまきながら彼女らを慕う。百代とはまた違った魅力に、彼女らは刺激を受け心を動かされていた。


その由香里の行動に、誰もが―――特に風間ファミリー全員が驚愕していた。


予想だにしない由香里の一面。何よりも驚いていたのはまゆっちである。自分が百代みたいな事をしているようで、羨ましいようで恥ずかしいような思いだった。


だが百代にとっては面白いはずもない。戦いを邪魔された上に自分のポジションを奪われたのだから。


「おいゆかりん。私の可愛い後輩に手を出すとは……いい度胸だ」


ニヤリと不吉な笑みを浮かべ、殺気を放ちながら由香里の側へと近寄る百代。由香里は動じない……百代に視線を向け、挑発的な笑みで返す。


「別にモモ先輩だけの後輩と決まったわけではあるまい?キスマークでもあるなら話は別だがな」


すると由香里はさらに挑発をかけるように、抱きかかえていた女子生徒の顔を自分の頬に引き寄せると、すりすりと自分の匂いを刷り込ませるように頬ずりを始めた。女子生徒は由香里の柔らかい肌に頬を擦られ、恍惚な表情で夢でも見ているかのように甘い時間に浸っている。周囲の百代ファンも羨ましそうに眺めていた。


そうか……と不気味に笑う百代。それが由香里の答えならば、取る行動は一つ。


「―――決めた。今からお前を潰す」


思わぬ由香里の挑発。挑戦状だと受け取った百代は拳を構え、由香里に戦う意志を見せた。由香里は抱いていた女子生徒を下ろし、受けて経つ言ってと背負っていた日本刀を手に百代と対峙する。


「世代交代だ。モモ先輩の時代は終わった」


次は私の時代だと由香里は日本刀を抜く。百代と由香里。一触即発の戦いが今始まろうとしていた。周囲からも想定外の戦いに歓声が上がり始める。


「……ねえ、由香里ちゃんってもしかして」


由香里の行動を見ていたまふゆが苦笑いしていた。言いたい事は分かる。あれが由香里の本来の性格。


「うん、百合属性ってやつだね」


まふゆの変わりに京が答えた。見ての通り、由香里は女性が好きなようである。


「ねえ京。百合属性ってどういう意味?」


隣りにいたワン子が京に疑問をぶつける。京は面白そうに耳打ちをすると、ワン子はぎゃーーー!と耳を塞いで絶叫した。少なくとも京が変な事を吹き込んだ事は間違いない。


そして二人の戦いの火蓋が、切って落とされようとしている。


「――――私が勝ったら、ゆかりんは今日一日私のメイドになれ!」


百代が叫び、己の拳を振るう。自分の願望を掲げて。


「――――私が勝ったら、モモ先輩は今日一日私のペットだ!」


由香里は駆け出す。その剣に自らの願望を秘めて。


互いの拳と刃が、衝突する。


「―――――二人とも、やめてください!!!!!!!」


衝突、しなかった。二人の間にまゆっちが割り込み、戦いの仲裁に入る。


その表情は、もう真っ赤だった。由香里が女子生徒にあんな事をするとは夢にも思わず、ましてや百合属性があろうとは……初日早々驚きの連続である。


「止めるなまゆまゆ。これは私とゆかりんの戦いだ……それに私は一度手合わせ――――」


「わかった。ゆっきーが言うならやめる」


「はっ!?」


戦う気満々の百代とは対象に、由香里はあっさりと刀を収めるのだった。まゆっちに対しては従順なようだ。


焦らされたような気分を味わい、百代は納得がいかない様子だが……戦意がない相手と戦うのは不本意。調子が狂う奴だな、と顔を顰めていた。


「その……由香里。一つ聞きたいのですが、ゆ、ゆ、百合属性というのは本当でしょうか?」


聞きたくはない。だが確かめておきたい。まゆっちは恐る恐る由香里に尋ねる。


「ゆっきー……私は、」


由香里から告げられる真実。まゆっちはどう捉えるのだろう。そして、


「美少女が、好きだっ!!!」


堂々とカミングアウトしたのだった。瞬間、まゆっちはショックを受けたと同時に、この一日が早く過ぎ去って欲しいと切に願った。


「ゆかりん……お前のその志、気に入った。私とお前は、これから同志であり好敵手(ライバル)だ」


自分と同じ物を感じ取り、百代は私も美少女が大好きだと叫び出した。由香里もそれが通じあったのか、百代と向き合い同志としての格を認め合う。


「……認めよう。同じ志を持つ者同士、いずれは決着をつけるぞ」


互いに握手を交わす二人。その光景を祝福するギャラリー。妙な友情が芽生えた瞬間だった。


「これが……あの時戦ったクローン黛なのか」


サーシャ自身も呆れ顔である。あれと真剣に戦っていたと思うと必死だった自分が馬鹿馬鹿しく思えてしまうのだった。



初日からいきなり大暴走した由香里。まだ学園にすら着いていないと言うのに、こんな調子では先が思いやられる……そんな慌ただしい日常が、今幕を開けようとしていた。





「うう……助けてください、松風……」


そして、まゆっちはもう既に帰りたくなっていた。

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