小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第2章:武士道プラン異聞録編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第2章『武士道プラン異聞録編』



57話「まじこい☆くぇいさー 3」



足早に旅館へと駆け込み、部屋に戻るまゆっちと由香里。理由は当然、入浴だった。しかも、今はちょうど大和達のクラスが入浴する時間である。


由香里が急いで旅館へと戻った理由。それは、


「クリスの生まれたままの姿が見たい!」


「理由が不埒過ぎますっ」


完全に由香里自身の邪なる欲望の為であった。一体どこから手に入れてきたのか、由香里はこっそり大和達の旅行のしおりを確認している。


そこには食事時間、入浴時間。事細かな詳細が記されていた。入浴時間の欄に赤いマジックでチェックされている。用意周到な由香里にまゆっちは頭を抱えていた。何故だろう、最近頭痛に悩まされている気がする。


「で……でも、クリスさんたちと顔を合わせたらまずいのでは?」


百歩譲って、覗くだけならまだ許される。だが顔を合わせれば終わり……言い訳のしようがない。バッドエンドを迎えるだけである。


「そのリスクを冒しても、私はクリスと裸の付き合いがしたい。性的な意味で!」


由香里は是が非でもクリスの裸体を見たいらしい。しかも、目的が更に危険な方向へと高みを登っていた。ちなみに寮ではクリスに警戒され、由香里と一緒に入る事は殆どない。


今の由香里には、何を言っても無駄である事を悟ったまゆっち。何としても入浴を実行するつもりである。仕方が無い……と、まゆっちはある決心をした。


「それなら、提案があります」


「提案?」


「えぇ……ごにょごにょ……」





そして二人は温泉に入り、ターゲット(クリス)がやってくるのを待ち続けていた。大浴場には意外と人が少なく、ほぼ貸切状態に等しかった。


学園の顔見知りと鉢合わせしてしまうのではないか……と内心ヒヤヒヤしてはいたが、今の所誰とも会っていないので安心する。


「先に温泉に入って待ち伏せとは、ゆっきーも随分と大胆だな」


由香里はまゆっちの背中を洗いながら、耳元で囁く。まゆっちの提案、それは単に待ち伏せだった。同時に、由香里が何か妙な事をしないかという心配も兼ねての監視である。


「由香里が変な行動をしないように見張るだけです。それに私は……あっ、あふ」


由香里がまゆっちの胸に手を伸ばし、石鹸で泡立てた腕で撫で回してきた。泡だらけの身体で密着され、更に滑った由香里の手先が嫌らしく動く。


「やっ!?……は、やめ……」


「ゆっきーは感じやすい体質だな。ほら、もうこんなに乳首が固くなってるぞ……」


まゆっちの乳首を指でつまんで弄ぶ由香里。その度に身体が敏感に震え出し、声を出さずにはいられない。声が周囲に聞こえてはいないだろうか……そんな心配も掻き消えてしまう程にまゆっちは感じ続けていた。


「あっ、い……あ……」


「ふふ、可愛いぞゆっきー……」


由香里の行動はエスカレートしていく。手先が這いよるようにまゆっちの身体を触り、肩、胸、腹、そして下半身へと手が伸び始めていく。


「あっ!だめっ……そこは……ゆか、り……」


「ここも洗ってやろう」


由香里の手は止まらない。まゆっちも抵抗したいが、それもできない。由香里の手が徐々にまゆっちの下半身に届きそうになった時、入口から声が聞こえてきた。


「―――おお!これはまた広いな」


「―――さすが沖縄だわ」


「―――いや沖縄は関係ないと思うよ」


入ってきたのはターゲットであるクリスとワン子、京だった。


「おお、ようやくターゲットが来たか!」


由香里はまゆっちから手を放す。最後の一線を越えられずに済み、ほっと胸を撫で下ろすまゆっち。しかし、同時に切ない気持ちになったのは由香里には死んでも言えなかった。


「続きは夜に持ち越しだ」


夜が楽しみだと由香里は言って、まゆっちの頬にキスをすると、クリス達のいる方へ向かっていった。しばらく放心状態が続くまゆっち。


「…………はっ!」


こんな事をしている場合ではなかった。由香里を止めなければ、大変な事になる。我に返ったまゆっちは身体中の石鹸を洗い落とし、急いで由香里を追いかけた。


気持ちに焦りが生じ始める。由香里はクリス達を眺め……ていなかった。岩影に隠れてがっくりと項垂れている。何があったのだろう。近づいてクリス達を覗くまゆっち。


「……そういうことですか」


まゆっちは由香里が落ち込む理由に納得した。二人の前に広がる光景。それはワン子、クリス、京の生まれたままの姿……が、タオルに包まれていた。


「これでは視姦すらできない」


「しないでください」


眺めて楽しむ事すらできないと、由香里は本気で落ち込んでいる。可哀想だが、諦めてもらうしかないとまゆっちは思った。彼女らの楽しげに聞こえる会話は、由香里にとってさぞ切ない気分だろう。


「しかし、覗きが出たとは許し難いな」


「おかげでタオル巻かなきゃいけないし……なんかめんどくさいわねぇ」


「うん。ちなみに私の裸は、大和以外の男には見せられない」


三人の話からすると、どうも覗きがあったらしい。幸い覗きの犯人は途中で捉えられ制裁を受けたらしいが、念のためという事で女子生徒全員はタオル着用になったという。それを聞いた由香里は、


「今から覗き魔を斬り伏せにいく!」


クリスの裸を拝むという予定を狂わされ、怒り狂っていた。当然だめに決まっている。このままだと本当に二年生の所に乗り込みかねない。


「戻りましょうか」


「……こうなったら無理にでもタオルを剥がして、」


「戻りましょうね」


埒が明かないと判断したまゆっちは由香里を引きずるようにして大浴場を後にした。





大浴場を出た二人。まゆっちは落ち込む由香里を励ましながら、旅館の渡り廊下を歩いていた。


結局、由香里はタオル着用のクリス達を覗きながら生殺し。大浴場から出て着替えた後も何度か覗こうと試みたが、最後までタオルが外れる事はなかった。


「元気を出してください由香里。まだ明日がありますから」


由香里の肩をポンポンと叩き、励まし続けるまゆっち。肩を落としていた由香里だったが、まゆっちに励まし続けられる内に、徐々に元気を取り戻していく。


まだ終わったわけではない。チャンスはある……由香里は再び目を輝かせた。


「そうだな。じゃあ今日はゆっきーときゃっきゃ、うふふ♪するとしよう」


由香里の解答に苦笑いするまゆっち。立ち直りが早い分、由香里は厄介だった。性的な意味で。


「…………?」


しばらく歩いていると、大広間に差し掛かる入り口に大きな立掛札が目に入った。団体用の宴会場だろうか……達筆で堂々とした筆文字でこう書かれている。


『万国乳房研究会 宴会場』


怪しい響きの名前だ、とまゆっちは思った。きっと危ない宗教の類に違いない。どんな人間がいるか分からない……迂闊に近付かないほうがいいだろうと、まゆっちは看板を無視して歩こうと先へ足を進めた。


「万国乳房研究会……気になる。特にこの乳房の部分が」


しかし、由香里は興味津々に看板を眺めていた。彼女は女性の事になるとよく反応する。まゆっちは立ち止まり、食い入るように看板を見ている由香里を連れ戻そうと引き返す。


「近付かない方がいいです。何だか怪しいですよ」


「乳房と聞いては黙っていられない」


由香里はこの怪しげな集団の宴会を覗く気でいる。そんな危険な事はさせられない。得体の知れない宗教に勧誘されると色々と面倒である。


散々由香里に振り回されてきたが、今回ばかりは譲れない。まゆっちは帰りますよと由香里の服を引っ張る。すると由香里はまゆっちに顔を向けて、ゆっきーがそう言うならと肩を落とすのだった。


まゆっちは由香里の保護者としての責務がある。気になるだろうが、由香里の為だと心を鬼にしなければならない。二人は大広間の入口から離れ再び廊下を歩いた時、一人の女性とすれ違った。


「―――――!?」


すれ違いざまに、由香里は女性から禍々しい何かを感じ取った。


口では表現できないような何か。だがそれは、由香里に以前装着していた謎の元素回路と同じ波動である。その波動が、肌にピリピリと伝わってくる。


まゆっちも同じように波動が肌に伝わっていた。気味の悪い感覚がまゆっちに寒気を感じさせる。


女性はそのまま大広間の扉を開けて入っていく。あの宗教団体に所属している人間である事は間違いない。


「……ゆっきーも感じたか?」


「ええ……あの人からは、血の匂いがしました」


背後を振り返る二人。謎の元素回路……アデプトと関わっている可能性がある。大和達のいる旅館で、何をしようとしているのか。放っておくことはできない。


「今すぐサーシャさん達に連絡を―――!」


「その必要はない」


まゆっちが連絡を入れようとした所を、由香里がそれを遮った。


「私だけで何とかする」


由香里が今しようとしている事。それはアトスから信頼を得て、保護観察を解いてもらう事にある。これまでしてきた行いを。罪を。自分自身の手で贖うために。由香里は一人で立ち向かおうとしている。


そんな彼女の覚悟を、まゆっちは受け止めた。


「私も行きます」


そして、まゆっちも由香里と共に行く事を選んだ。それは、由香里の保護者という理由ではない。由香里が大切な家族だから、守るべき存在であるからという、確かな思いがあった。まゆっちの眼差しからは、止めても無駄ですと訴えている。


どちらも退けない……しばらく互いに見つめ合い、そして笑った。二人は頷くと大広間へと動き出した。





「皆さま、今日は万国乳房研究会再々建の宴にお集まり頂き、誠にありがとうございます!」


額に十字の傷を持つ万国乳房研究会の所長が、大勢の会員達のいる前で演説を行っていた。まゆっちと由香里はというと……大広間の天井裏に忍び込み、所長らの様子を観察している。


やはり思った通り、如何にも怪しい団体であった。会員達に混じり複数の黒服SPが待機しながら周囲の様子を伺っている。


「一度ならず、二度までも不当な弾圧に屈した我々ですが、皆さま会員の願いに応え、もう一度再建することを決意致しました!」


所長の宣言と共に、会員達の歓声が上がる。会員達の熱気と狂信的なオーラが大広間を包んでいた。所長はさらに続ける。


「そして万乳研改め宇乳研を称し、さらに我々は新しく生まれ変わります!その名は―――」


所長の後に『万国乳房研究会』と書かれた張り紙が剥がれ落ち、改名された命名が書かれた看板が姿を表す。間、所長の魂の叫びが会場内に響き渡った。


「銀河乳房研究会!!!」


所長の発表と同時に、会員達のテンションが最高潮に達する。この時を待っていた……彼らは願っていたのだ。万乳研が再び復活を遂げる日を。


「銀河乳房研究会……銀乳研だわ!!」


「そうよ、銀乳研!」


「所長!所長!!」


激しい所長コールの中、会員の女性達が突然服のボタンを外し、乳房を露出させる。羞恥心など彼女らにはない。彼女達にあるのは万乳研を崇拝するという狂信だけである。


故に彼女らは全てを差し出す。胸を、聖乳を。


「我々銀乳研の再建と繁栄、未来の栄光を祝し、今宵は宴を楽しみ、喜びを分かち合いましょう!」


会場が更なる熱気に包まれ、会員達が所長に声援を送る。そして所長は両手を掲げ、銀乳研を支える全ての者達に、告げた。


「全てのおっぱいが揺れる時、大地が、そして世界が揺れ動くのです!我々は示さなければなりません。我々が世界を救う救世主……いや、乳世主である事を!」


所長の言葉が、銀乳研を導く始まりの序曲となる。そして会員達は崇める。所長という存在を。新しく誕生した銀乳研を。


「さあ皆さんご一緒に……おっぱい・グッパイ・デトックス!」



『おっぱい・グッパイ・デトックス!』


『おっぱい・グッパイ・デトックス!』


『おっぱい・グッパイ・デトックス!』



会員が一斉にコールする。


永遠と繰り返すそれは、狂信的と言わずしてなんと言おう。二人が思った以上に、怪しい団体であった。


「……………」


「……………」


その光景を、終始無言で覗いていた二人。感想の言葉も出ない。あまりにも馬鹿馬鹿しく、そしてあまりにも拍子抜けだった。確かに怪しい団体ではあるが、脅威は感じられない。


「……一旦部屋に戻ろうか」


「……そうですね」


無駄な時間を過ごしてしまった。この集団を弾圧しようと意気込んでいた由香里も、この阿呆らしい光景を見て一気に気力が削がれてしまっていた。


あの女性の殺気が気になるが、放って置いても害はなさそうだ……天井裏を後にしようとした時、ふと由香里はある光景に目が止まった。


所長が、会員の女性の乳房を貪るように吸っている。由香里は足を止めて、それを間近で見ようと目を近づけ始めた。


「おおっ……あの女性、なんて形のいい乳房……!」


「ゆ、由香里!あまり近付き過ぎたら……」


釘付けになっている由香里を、必死に制止するまゆっち。しかし、由香里はさらに覗こうと身を乗り出そうとしている。天井裏とはいえ気付かれるかもしれないという懸念があった。


由香里は今も熱心に覗きを続けている……止められない、とまゆっちは頭を抱える。


「………え?」


突然、ミシミシと軋むような音がまゆっちの耳に届く。由香里は気付いていない。何故だろう、とてつもなく嫌な予感がしていた。


確か、この旅館は九鬼財閥が古くから経営している旅館だと聞いている。となれば建物にも年季が入っている筈である。


それはつまり、築何十年もの歳月が過ぎているという事。だとすれば、内部構造にもどこか脆くなる部分も出てくる可能性がある。


まゆっちと由香里が長い間天井裏に留まれば、当然建物も軋みが上がる。いつ壊れてもおかしくはない。床が抜けてしまうかもしれないのだ。


次第に軋みが段々と音を立て始める。まずい、と思った時にはもう遅かった。まゆっちは悲鳴を上げる間も無く、次の瞬間には二人のいた天井裏に穴が空き、そのまま会場へと真っ逆さまに落下した。


勢いよく豪快に天井が割れ、まゆっちと由香里は尻餅をつく。会場内にいた会員達は突然現れた二人に騒然としていた。


「な、何事だ!?」


驚愕する所長。驚くのは当然だろう、天井裏からいきなり現れたのだから。


そして、会場のど真ん中で大注目を浴びているまゆっちと由香里。非常に危険な展開である。ともかくこの場をやり過ごさなければならない。


「あ……これは、その。べ、べべべつに覗き見してたわけじゃなくてですね……ねえ由香里?」


「そ、そうだ。別に私たちは万国乳房研究会の乳房の部分が気になって覗き見したら全然対した事なくて、弾圧してやろうだなんて思ったけど興醒めしただなんてこれっぽっちも思ってないからな!」


「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


由香里は見事なまでに暴露していた。ワザとなのか、それとも緊張からなのか。どちらにせよ状況は悪化したのは確かである。


その上、彼らを小馬鹿にしたとなっては会員達も黙ってはいない。怒りの視線が突き刺さるように、まゆっち達に注がれている。


「小娘共が何を小癪な……知られたからには仕方ない。この二人を取り押さえろ!」


所長の傍にいた何人もの黒服SPが二人を取り囲み、一斉に銃を取り出し銃口を向ける。二人は背中合わせになり、一瞬にして身動きが取れなくなった。


「うん、絶体絶命だな」


「原因を作ったのは由香里ですよ!」


意外にも由香里は冷静だった。勿論まゆっちもである。


相手は銃。武器があれば現状を打破できるが、生憎と武器は持ち合わせていない。複数の黒服SPを相手には、体術のみでは限界がある。


「何か武器があれば……」


まゆっちは部屋周辺を見回す。何かあるかもしれない。すると、あるものに視線が止まる。


(………!)


目を付けたのは、部屋の奥に飾られている模造刀。あれならば太刀打ちできる。由香里もそれを察したのか、小声でまゆっちに指示を出した。


「ゆっきー、カウントと同時に分散するぞ」


「わかりました」


打ち合わせをする二人。まずは静かに相手の動きを再確認する。相手は複数。まだ動きは見られない。


「抵抗は無駄です。大人しく投稿しなさい。投稿すれば悪いようにはしませんよ、くっくっく」


所長は余裕の笑みで取り囲まれた二人を眺めていた。そして側にいた会員の一人に耳打ちをすると、会員は頷き、部屋の奥から台車に載せられた何かを持ってやってくる。


それには布がかけられていた……すると所長が手をかけ、布を引き剥がす。


「ではこうしましょう。お二人には、デトックスマシン“OPIウルトラダイナマイトフロンティア・ハイパーエクセレントスペシャルマーク?”の記念すべきユーザーになってもらいましょうか」


やたら名前の長いバイクのような形の豊胸マシンがベールを脱ぐ。要するに、これを買わされた上に豊胸マシンのテスターとして見せしめにするということだろう。


だが、その要求は飲めない。まゆっちと由香里は互いに頷き、


「断る。貴様らは私達が―――」


「―――必ず成敗します!」


頃合いを見計らって分散した。瞬間、動きを見せたまゆっち達を見て黒服SPが一斉に射撃を開始する。銃弾を潜り抜けながら模造刀へと手を伸ばす二人。


「――――届け!」


由香里はスカートの中に隠し持っていた水銀ロッドを取り出した。ロッドを振りかざして糸状の水銀を発射し、飾られた模造刀に絡ませる。


「ゆっきー、受け取れ!」


模造刀を引っ張り上げ、まゆっちに向かって投げつけた。銃弾の嵐の中で模造刀を受け取り、まゆっちは鞘から刀を引き抜いた。


「参ります!!」


刀を手にした瞬間、まゆっちの動きが変わる。動体視力では追えない程の高速の斬撃が銃弾を弾き、同時に黒服SPにもダメージを与える。


気が付いた時には全てが終わっていた。あるのは気を失い倒れている黒服SPと、無残に転がる銃弾のみ。


「峰打ちです。ですが、これでしばらくは動けないでしょう」


まゆっちの剣捌きに、会場内にいた会員達が一斉に会場から逃げていく。残ったのはまゆっちと由香里。そして所長だけになった。


「なかなかの剣捌きだったぞゆっきー。さすが私の嫁!」


「よ、嫁じゃありません!」


由香里に褒められて悪い気はしないが、恥ずかしいとまゆっちは思った。


……これで相手の戦力は一気に失われた。もう所長には戦う術は残されていない。形成を逆転されてしまい、所長は表情を歪ませている。


「お、おのれ……まさか、貴様もアトスのクェイサーか!?」


所長の問いに、由香里はふふと笑う。そして人差し指をつきつけ、こう言い放った。


「通りすがりの美少女愛好家だ。覚えておけ!」


決め台詞のつもりなのか……通り名がかっこいいのか悪いのか、ツッコミ所が満載である。だがまゆっちはあえてツッコミを入れなかった。入れていたらキリがない。


「何を訳のわからない事を……だがこれで終わったと思うなよ!こちらには最強の切り札がある!」


所長が叫ぶと、突然会場内の天井を破り、人影――――否、機械がまゆっち達の前に現れた。


その姿は、クッキー第二形態であった。九鬼財閥が作り上げたロボットである。


だが、大和達といるクッキーとは違う。青一色で染められたボディ。右手に持つ凶器という名のビームセイバー。背中にはバックパックのような装置が取り付けられていた。


『お呼びですか、マスター』


クッキーから発せられる機会音が響く。あれは本当にクッキーなのか……まゆっち達の問いに答えるかのように、所長が代弁をする。


「ふっふっふ……これはただのクッキーではない。九鬼財閥と辻堂財閥が結集して開発した究極の兵器―――その名も“GNクッキー”だ!』


GNクッキー。次世代の名を冠する殺戮機械。同じクッキーな筈なのに、この機体からは悍ましい程に殺気が感じられる。


ロボットの三原則を捨て去り、ただ敵を倒すために作られた兵器……まゆっちと由香里は身構えた。


「さあGNクッキーよ、あの小娘共を始末しろ!」


『イエス、デトックス!』


GNクッキーが敵と認識したまゆっち達に向かって突貫する。


「来るぞ!」


「はい!」


―――まゆっち、由香里とGNクッキー。二人と一機の戦いの火蓋が、切って落とされた。

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真剣で私に恋しなさい! Original Sound Track ~真剣演舞~
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