小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第2章:武士道プラン異聞録編』
作者:みおん/あるあじふ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第2章『武士道プラン異聞録編』



58話「まじこい☆くぇいさー 4」



GNクッキーはビームセイバーを振りかざし、まゆっちと由香里に襲いかかる。クッキーとは異なる未知の機械……どんなギミックが搭載されているか分からない為、迂闊に手出しはできない。


かと言って、手を拱く訳にはいかない。由香里が先手を打ち、見えない糸状の水銀を瞬時に張り巡らせた。接近すれば最後、対象がバラバラに切断されるという仕掛けだ。


だが相手は機械……無数の糸が絡まり、一時的に身動きを封じるのが限度である。


GNクッキーは止まる気配を見せない。やはり機械でも、このピアノ線を見切る事はできないのだろう。


しかし、次に取ったGNクッキーの行動に、まゆっち達は驚愕する事になる。


GNクッキーはまるで糸が見えているように、仕掛けられた糸の寸前で立ち止まり、ビームセイバーを振り上げた。瞬間、背中のバックパック―――加速装置が作動するエンジン音が鳴り響く。


『GN―――クッキー・ダイナミック!!』


加速装置により出力が上がったビームセイバーが振り下ろされる。ビームセイバーは容易く見えない糸を斬り裂き、まゆっち達の防衛ラインを突破した。


小細工は通用しない……今度は打って変わりまゆっちが前衛に出て、GNクッキーに模造刀の一閃を入れ込む。GNクッキーはまゆっちの攻撃に即座に反応し、その一閃を振り払いカウンターの一撃をまゆっちに与える。


「あぐ……っ!?」


『無駄な足掻きだ。貴様らの剣は見えている!』


水銀のトラップを突破し、剣聖黛の剣技すらも容易く受け止める反応速度。GNクッキー……パワーもスピードも二人を凌駕していた。百代に次ぐ強敵であると言っていい程に。


「よくもゆっきーを―――!」


まゆっちに手を出され、感情的になった由香里は怒りに任せてロッドを振りかざし、先端から射出された水銀をGNクッキーに叩きつけた。


怒りに任せた攻撃は荒く、容易くGNクッキーに避けられてしまう。冷静さを失えば、このGNクッキーに勝ち目はない。


「由香里……ダメです。もっと冷静にならないと……!」


まゆっちはよろめきながら模造刀を構える。状況は劣勢。二人の攻撃は完全に読まれていた。


『隙を見せたな――――!』


「――――!?」


GNクッキーはビームセイバーの柄を、隙だらけになった由香里の腹部に捩じ込んだ。かはっ、と胃の中が逆流しそうな衝撃を受ける。そして動きが止まった由香里の首を左腕で掴み上げた。


「ぐっ………あ……!」


『くっくっく……どうした?もっと足掻いて見せろ!』


首を締め上げながら嘲笑うGNクッキー。由香里は苦しみもがきながら抵抗するが……何もできない。


「由香里っ!!」


由香里が危ない……助けに行こうと走り出すまゆっち。冷静になる時間さえも許されない危機的状況に置かれている。目の前で由香里が死にかけているのだ、落ち着いてなどいられない。


あのクッキーは、本気で人を殺す。


「黛流・十二斬!!」


十二回繰り出される斬撃をGNクッキーに放つまゆっち。しかしGNクッキーはもろともせず、右手のビームセイバーで斬撃を捌いていく。


初見で十二斬を見抜くGNクッキーの性能……あり得ない、とまゆっちは戦慄した。


『そんなにこいつが大事か?ならばくれてやろう』


GNクッキーは左腕で掴み上げている由香里の身体を、豪快にまゆっちに向けて投げつけた。まゆっちと由香里は衝撃で投げ飛ばされ、床へと叩き付けられる。


「か……ごほっ、ごほ!」


「つ、強い……」


激しく咳き込み項垂れる由香里。GNクッキーの強さに半ば絶望しかけているまゆっち。圧倒的な戦力差に追い込まれている……一体あの化け物に、どうやって勝てばいいのだろうか。


「流石はGNクッキー。これならば我々銀乳研の時代が来るのも近い!」


勝利に酔う所長。全てはマスターの思いのままにと服従するGNクッキー。さらにGNクッキーの宣告がまゆっち達を窮地へと追いやる事となる。


『先に言っておく。私は自分の能力の50%しか出していない。よって貴様らが私に勝つ事は不可能だ』


今までGNクッキーの戦闘力は約50%。まだ半分である。それにも関わらず、二人は手も足も出ないのだ。まゆっちも由香里も、これが精一杯であると言うのに。


しかし、それでもまゆっちは諦めなかった。立ち上がり、再び模造刀を構え出す。


「……まだ、です。私達が負けると決まったわけでは……」


まゆっちの模造刀を持つ手は微かに震えていた。目の前の強敵に、恐怖していた。怒りや恐怖は刃を鈍らせる。虚勢を張っているようなものだ……そのまゆっちの心境を、GNクッキーは読み取っていた。


『貴様はもう理解している。決して私には勝てないと。その震えこそが、何よりの証拠だ!』


「―――――!」


読まれている。図星を突かれたまゆっちの手の震えは止まらなくなり、激しく動揺し始めていた。


勝てない。勝てない……そんな言葉がまゆっちの心を蝕んでいく。


すると震えるまゆっちの手に、由香里の手が添えられた。


「由香里……?」


「気をしっかり持て。私達二人なら……何だってできる!」


由香里の励ましが、まゆっちの恐怖を取り除いていく。その優しい言葉が、まゆっちにどれだけの心の支えになる事か。まゆっちは力強く頷き、今までの迷いを拭い去り―――目の前のGNクッキーを見据えた。


その瞳には一点の曇りもない。ほう、と声を漏らすGNクッキー。状況が変わったわけではないと言うのに。人間と言うのは理解できないなとGNクッキーは思った。


「そろそろ演舞再開といこうか、木偶人形!」


由香里も再びロッドを構える。二人は気力を取り戻し、GNクッキーと改めて対峙する。


二人なら何でもできる……その思いがまゆっちと由香里を突き動かしていた。


『思い上がるなよ。今更貴様ら二人に何ができる?』


勝利を確信するGNクッキーにとって、今まで絶望しかけていたまゆっち達の根拠のない気力の回復は不可解であった。理解できない、機械であるが故に。


「決まっています。私達にできる事は――――」


「―――お前を倒す、ただそれだけだ!」


まゆっちと由香里はGNクッキーに向かって走り出す。死に急ぐようなものだ、とGNクッキーは笑う。だが敵は斬り捨てるのみ。せめて楽に死なせてやろうとビームセイバーを振りかざす。


「せやああああ!!!」


まゆっちの斬撃がGNクッキーの攻撃を弾き返す。そして、次のGNクッキーの一手が繰り出される。


瞬間、


「ゆっきー、下がれ!」


由香里の呼び声と同時に、まゆっちは後退した。GNクッキーの攻撃は空振りに終わる。二人の攻撃はまだ終わらない……由香里の水銀による攻撃がGNクッキーに向けて放たれる。


『またピアノ線か。馬鹿の一つ覚え………む?』


GNクッキーは異変に気づく。放たれた水銀が分散し、霧状の気体へと変化する。


気化水銀……形のない毒素。機械であるGNクッキーに害はないが視界が悪い。ビームセイバーの斬撃と剣圧で霧を吹き飛ばす。


『ふん、ただのこけおどしか……それでは私に―――――何!?』


そして、GNクッキーはもう一つの異変に気付く。身体中の関節が、まるで縛られているように動きが鈍くなっていた。ピアノ線が絡まっているのか……それはない。だが次第に身体の自由が効かなくなっている。


「外側がダメなら内側、と言うやつだ!」


かかったな、と笑う由香里。由香里の気化水銀の粒子がGNクッキーの内部へと入り込み、中で再構築した後、関節と言う関節を糸のように縛り上げたのである。


『き、貴様………!』


迂闊だった、とGNクッキー。由香里の能力を侮った結果、身動きを封じられてしまっていた。ボディには何も入り込まないよう隙間が埋められて作られているが、分子レベルの元素までは防ぎきれない。


これ程までに元素を操る力。先程の由香里の戦い方とはまるで違う。


「ば、馬鹿な……まさかその力、第六階梯――――!」


あり得ない、と所長は表情を引きつらせる。由香里のクェイサーとしての能力は第四階梯であった。そして、彼女は僅かなこの戦闘で、クェイサーの頂点である第六階梯へ上り詰めたのである。


「ゆっきー、今だ!」


「いきます!」


GNクッキーは水銀による拘束によって身動きが取れない。ならば今こそが好機。まゆっちは三度GNクッキーへと突貫した。


「これが私の全力です!我流剣術――――」


まゆっちの構えが、抜刀の形に変わる。模造刀にまゆっちの闘気が注ぎ込まれ、暴風の如く荒れ狂う風を纏い始めた。


まゆっち自身が日々の鍛錬を重ね、編み出した我流剣術。それが今ここに具現する。


「―――――嵐翔一閃(らんしょういっせん)!!」


抜刀した瞬間、激しい暴風の塊が嵐を巻き起こし、GNクッキーに向けて疾走する。嵐を翔ける……まさにその名に相応しい剣技であった。


暴風はGNクッキーを直撃し、会場の壁まで吹き飛ばした。GNクッキーの身体は壁にめり込み、内部構造にダメージを受ける。


『グ………ガ………!』


だが、致命傷にはならなかった。GNクッキーは身体を支えるようにビームセイバーを床へと突き刺している。倒せはしなかったが、今までのような動きはできないだろう。


―――恐怖を克服したまゆっちと、第六階梯へ成長した由香里。戦局はここに覆された。


だがまゆっち達は失念している。GNクッキーがまだ本気ではないという事を。


『―――――システム起動。Code:Lily-alize(リリィ=アライズ)


突然、GNクッキーのバックパックから緑色の粒子が放出し、ボディ全体が赤褐色に変化した。否、発行していると言った方が正しいか。


床に突き刺したビームセイバーを引き抜き、GNクッキーはまゆっち達を見据えている。そのビームセイバーは禍々しく紫色に輝き、まるで瞑想をするように静かに立ち尽くしていた。


GNクッキーからは何も感じ取れない。殺意も。何もかも、全て。静止状態であるそれは、動かざる狂気と呼べる程に不気味であった。


危険だ……と再び身構える二人。そう感じ取った矢先、GNクッキーは二人の前から姿を消していた。


まさに一瞬の出来事。瞬間移動の如く跡形もなく消え去っている。気配を探るまゆっちと由香里だが、探るまでもなく、身体に衝撃が走った事により証明された。


「うぁっ……!?」


「くっ……!?」


GNクッキーは、既にまゆっち達の背後を取っていた。動きを悟られる事もなく、秒単位で距離を詰めて襲撃したのである。まゆっち達は吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。


まゆっち達が気付けない程の超速移動。それはGNクッキーが有する最強にして最速の能力。


“Lily-alize System(リリィ=アライズシステム)”。システムが起動する事でGNクッキーのリミッターが解除され、限界を超えた高速戦闘を可能にしていた。


早過ぎて、反応さえも許されない。由香里はロッドから水銀を放ち、反撃を試みる。分子レベルまで研ぎ澄まされた水銀は避けられる数ではない。分子の一つ一つが銀の針となってGNクッキーに降り注ぐ。


しかし、


「なっ――――」


GNクッキーはその分子さえも避け切って見せた。高速接近し由香里にビームセイバーで斬りつける。由香里は辛うじて回避したものの、剣圧で服が破け散り、肌に切り傷を負う。


「由香里!」


加勢しようとまゆっちも動き出した。まだ戦う力は残っている……まゆっちはGNクッキーに向けて模造刀を一閃する。


『止まって見えるぞ!』


その一閃を、GNクッキーが薙ぎ払う。ビームセイバーの最大出力による斬撃は、まゆっちの攻撃を止めただけでなく模造刀をも破壊した。模造刀は虚しく折れ、刀としての意味を成さなくなる。


もはや二人に戦う術はない。GNクッキーはビームセイバーを握り締め、


『くらえ――――リリィ=アライズ・クッキイイィィィィィ・ダイナミック!!!!!』


全身全霊の一撃を、まゆっち達に向けて放った。音速を超えた一閃が二人を薙ぎ払う。さらに発生した凄まじい剣圧が暴風となり、周囲のものを破壊した。あとに残るのは、惨状というなの残骸のみである。


―――――――――――。


「あ、く……」


「う……あ………」


その惨状の中心に、まゆっちと由香里の姿が横たわっていた。身体中は傷だらけで、もう戦う力は残されていない。GNクッキーによる攻撃で、立ち上がる事すらできない程に弱り切っていた。


その光景を眺めながら、所長は勝利に歓喜する。


「くっくっく……勝負あったな。GNクッキーよ、トドメを刺せ!」


『イエス、デトックス』


GNクッキーが二人を葬ろうと歩み寄る。今度こそ、まゆっち達の命を狩るつもりだろう。


逃げなければ……だが、今のまゆっち達には立ち向かうどころか、立ち上がる事もままならない。精々意識を保つのが精一杯だった。


―――徐々に死の足音が近づいてくる。意識はあるのに、逃げられない。このまま、GNクッキーの凶刃によって殺されるのを待つばかりだ。


「あ……だめ、だ……」


動かない身体に鞭を打ちながら、由香里はまゆっちに向かって這いずり出す。そしてまゆっちを覆い被さるように、自分の身を挺して守ろうとしていた。


守ると決めた……たとえこの身体がボロボロになろうとも。まゆっちだけは死なせはしない。その由香里の強い意思が、傷だらけの身体を突き動かしていた。


『終わりだ。姉妹で仲良くあの世で後悔するがいい』


GNクッキーがまゆっち達の前で足を止める。ビームセイバーを振り上げ、まゆっちと由香里に終焉を与えようと見下ろしていた。


ここまでか……逃げる事のできない由香里はまゆっちを守るように蹲り、目を瞑った。


が、


『むっ!?……なん、だ……!?』


突然、金切り声のような不快な機械音がGNクッキーのボディから聞こえてきた。


由香里はそっと目を開ける……GNクッキーがビームセイバーを振り上げたまま、錆び付いたように小刻みに震えて動かない。さらには身体中に放電が発生していた。


『ば、馬鹿な……オーバーヒート、だと!?』


システムによるオーバーヒート。限界を超えた高速戦闘は、GNクッキーのボディに負荷を与え続け、内部構造に支障をきたしていた。


しかもまゆっち達による戦闘ダメージも蓄積されているとなれば、当然の結果である。


認めない。認められない。ここまで追い詰めておきながら……GNクッキーはビームセイバーを振り下ろそうと必死に力を入れる。動かなくなった手腕が、奇怪な音を立てながら下がっていく。


そしてビームセイバーの先端が、由香里の身体に届こうとした時だった。


『ガ――――アァァァ!?』


GNクッキーの強固な装甲を、飛来した薙刀が貫いていた。反動でGNクッキーは後ろへと後退する。薙刀からは電撃が発生し、GNクッキーの身体をショートさせる。


最後には一人の影が二人の前に降り立ち、GNクッキーの身体を真っ二つに切り裂いていた。


『―――――ニンゲン……人間、風情があああアアアアアアアアア!!』


断末魔を上げ、GNクッキーは爆発と共に粉々に砕け散った。殺戮機械の、無残な最期である。


「無事か、二人とも」


「間に合ってよかったわ」


まゆっち達を救うべく現れた二人の影。薙刀による雷撃の召還、そして聞き覚えのある声。まゆっち達には彼らが誰であるかすぐに理解できた。


そう……現れたのは、ワン子と大鎌を手にしたサーシャだった。現れた二人に、まゆっちと由香里は戸惑いを隠せない。


「……ワン子、ヤツは?」


「この部屋にはもう気配がないわ。逃げられたみたい」


所長を探しているのだろう。しかし所長はいつの間にか姿がなくなっていた。GNクッキーが破壊される直前に逃亡を測っていた。遠くへは行っていない筈だが……今はまゆっち達が優先である。


サーシャ達が来てくれたお陰で、危機は去った。来なければ今頃は……そう思うと背筋に悪寒が走る。まゆっち達は安堵の息を漏らし、自分達がこうして生きている事を改めて実感するのだった。




「それで、どうしてお前達がここにいる?」


「…………」


「…………」


サーシャの最もな疑問であった。見つかってしまった以上、もう言い訳のしようがない。


次に待っているのは尋問と制裁である……まゆっちと由香里はそう覚悟しながら、今は命がある事の喜びを噛み締めるのだった。

-50-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える