小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第2章:武士道プラン異聞録編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第2章『武士道プラン異聞録編』



61話「運命の決闘」



川神学園、グラウンド。


土埃が吹き抜け、荒野の如く広がる校庭に二人の生徒が佇んでいた。


その二人の生徒はクリスと―――そしてサーシャであった。それぞれ武器を構えて、互いに睨み合っている。


この二人の中心を囲うように、学園の全校生徒達がその様子を見守っていた。誰一人として言葉を発しない。それだけ空気が張り詰めているのだ……クリスとサーシャから発せられる闘気は、周囲の喧騒すらも制圧している。


一触即発。今まさに、二人の決闘が始まろうとしていた。


「……サーシャ。いや、アレクサンドル=ニコラエビッチ=ヘル。この剣にかけて、お前を倒すと誓う!」


クリスはレイピアを掲げ、目前のサーシャに向けて自身の覚悟を示す。その目には一点の曇りすらない。迷いなき闘志がクリスには宿っていた。


「いつかはこんな日が来ると思っていたが……どうやらお前とは剣を交えるしかないようだな、クリス」


対するサーシャはレプリカの剣の先端をクリスに向ける。彼にも迷いはない。ただ眼前のクリスという敵を倒す為に己の闘志を振るう。


互いの視線がぶつかり合い、運命づけられた戦いへと身を投じる。全ては、自らの信念の為に。


しばらくして、鉄心が立会いに二人の下へ現れた。問いかけるまでもなく、クリスとサーシャの準備はできている。二人の闘気が鉄心にもピリピリと伝わっていた……この戦い、今まで以上に激しいものになるかもしれないと感じ取っていた。


鉄心は決闘の儀を執り行うと、決闘開始の合図を高らかに告げるのだった。


「それでは………はじめぃ!」


鉄心が合図した瞬間、二人の身体はほぼ同時に動き出した。どちらも先制を狙っている。


だが、僅かに早かったのはクリスだった。クリスはレイピアを突き出し、高速の刺突攻撃を繰り出す。


「はああああああーーーー!!!」


クリスの剣技が、弾丸のように奔る。常人ならば避ける事すら敵わない。しかし、サーシャはその一つ一つを難なく躱していく。躱しながら、クリスの攻撃が終わるタイミングを伺う。


(クリスが連続刺突できる回数は約20回。最後の一撃を放った瞬間に隙が生まれる……!)


クリスが繰り出す連撃を、カウントしながら躱していく。今まで体感してきたクリスの刺突は、約20回。それを踏まえて行動すれば反撃は容易。サーシャは連続するクリスの攻撃を躱し、最後の刺突が終わった瞬間にクリスの懐に入り込む。


読み通り、クリスは20回目の刺突で僅かだが動きを止める瞬間を見せていた。その隙を突き、剣の柄をクリスの腹にめり込ませる。


「ご、あっ……!?」


しまった、とクリス。衝撃で身体の内部が圧迫され、胃液が逆流する。この至近距離からでは避けきれない……あまりの衝撃で気を失いそうになる。


理解してはいたが、サーシャは本気だ。だがクリスも真剣である。それ故に、ここで倒れる訳にはいかない。


「ぐ……まだ―――――!」


クリスは腹にめり込んだ剣の柄をサーシャの腕ごと叩き落とし、身体を回転させながら回し蹴りを放ち反撃する。サーシャは舌打ちをすると、身体を反らしギリギリの所で躱してみせた。クリスの足がサーシャの顔をかすめていく。


「やああああーーーー!」


クリスの攻撃は終わらない。回し蹴りの後、さらにレイピアを突き出し刺突で追撃する。サーシャは後退して距離を取り、体制を立て直した。


「――――――」


サーシャの頬には僅かに切り傷ができている。刺突による風圧だろう……それだけクリスの一撃が凄まじい事を物語っていた。だが距離を取ったのも束の間、次なるクリスの攻撃がサーシャに襲いかかる。


「まだまだいくぞ!!」


クリスはレイピアを突き出しながらサーシャに疾走した。弾丸のようなそれは、まさに神速と呼ぶに相応しい。一瞬にしてサーシャとの距離を詰める。


「見切ったぞ、クリス!」


レイピアの切っ先がサーシャの身に届く寸前、サーシャは僅かに身体を傾けた。迫り来るレイピアの細身に剣の刃を押し付け、そのまま滑らせるようにクリスの攻撃を受け流す。


それも、ただ受け流したのではない。レイピアの攻撃範囲から逃れ無防備な根元部分へと滑りこむ為である。


レイピアの基礎は両刃であるが、突きを重視した武器。攻撃の重点はその尖端にある。威力は絶大だが、見切れてしまえばどうという事はない。


サーシャは先程攻撃したクリスの腹に、もう一度柄の一撃を入れ込んだ。


「ぐっ―――――!?」


柄が食い込み、クリスの全身に衝撃が走る。レプリカとはいえ、その一撃は大きい。さらにダメージまで追っている分、クリスには致命傷となり得る。


立ちくらみが起こり、クリスの視界がぼやけていく。まだだ、まだ負けられない……クリスはレイピアを強く握りしめ、自分の意識を強引に保った。サーシャを突き放そうと蹴りを入れる。


「む――――!?」


サーシャは咄嗟に両腕で防御をするが、蹴りの衝撃で突き飛ばされた。再びクリスとの距離が開き、レイピアの反撃を許してしまう。


「もらったぞ、サーシャ!」


クリスはこの好機を逃す筈がなかった。レイピアを突き出しながらサーシャ目掛けて突進する。


スピードど一点の攻撃に集中させたレイピアの刺突……あの一撃を真面に受ければ、ただではすまない。サーシャも剣戟で応戦。衝撃で身体が軋みを上げた。


当然、一撃では終わらない。レイピアの連撃はサーシャの体力と剣の耐久度を徐々に奪っていく。


クリスは追い詰めようと限界を超え、さらに加速させる。そのスピードは、もはや動体視力で捉える事は困難。辛うじてサーシャは殺気だけで捉えているようなものである。


防戦一方が続く中、それも終わりを告げようとしていた。


「終わりだっ!!」


クリスの最後の一撃が、サーシャの剣を弾き飛ばした。サーシャの剣は宙を舞い、回転しながら地面に突き刺さる。


これでサーシャに武器はない。断然にこちらが有利だと判断したクリス。


仮にクェイサーの能力で武器を錬成したとしても、錬成には僅かに時間を要する。そんな暇など与えはしない。錬成を始める前にけりをつければいいだけの事。


クリスは勝利を確信していた。クリスは渾身の一撃を、サーシャに向けて放つ。


――――だがサーシャから武器を落とした瞬間、クリスが勝利するという確信が大きな隙となってしまった事を、クリスはまだ気づいていない。


もしも、


「―――――!?」


サーシャがわざと剣をクリスに弾き飛ばさせ、渾身の一撃で大振りになった瞬間になる状況を誘発させたのだとしたら。




それは、クリスが敗北するという事実に他ならない。




サーシャはクリスの攻撃の軌道を読み取り、紙一重だが躱して見せた。さらにクリスの攻撃の重心を利用し、レイピアを突き出した右腕に掴みかかり、勢いよくクリスを背負い投げる。


車と同様、身体の勢いは急には止まれない。クリスは成す術もなくそのまま投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「うあ――――!?」


受け身は取れたものの、先程負ったサーシャの攻撃が衝撃に追い打ちをかける。衝撃に耐えられなかったクリスは立ち上がる事なく、視界の中に写るサーシャの姿を最後に意識を失った。立会いをしていた鉄心はクリスが戦闘不能である事を確認すると、


「勝者、サーシャ!」


右手を上げ、サーシャの勝利を高らかに宣言するのだった。瞬間、周囲のギャラリーから歓声が上がる。いい勝負だったと勝者と敗者を讃えている。


「く………」


しばらくして意識が戻ったクリスは目を開ける。その瞬間、自分は負けたのだと理解した。悔しいが事実である。認めるしかない。


すると、サーシャがクリスの元へと歩み寄った。クリスの視界にサーシャが逆さに移っている。


「立てるか?」


倒れているクリスに手を差し伸べるサーシャ。クリスは手を伸ばそうとして……躊躇った。まだ認められない部分が残っているのだろう。かといって、このまま意地を張るのは子供同然である。クリスは渋々手を伸ばし、サーシャの手を借りてゆっくりと立ち上がった。


「クリスの剣捌き、見事だった。少しでも気を抜いていたら、負けていたのは俺の方だった」


「世辞はいい、負けは負けだ。素直に認めよう。ただ……」


決闘では負けた。それは強者を称え、自分の未熟さを改めて認識する良い機会である。


だがそれでも、クリスには譲れないものがあった。たとえ決闘に負けようとも、譲れないものが。


それは、サーシャとクリスが決闘をする事になった大きな理由に他ならない。


そう―――――――。


「―――――自分のいなり寿司を横取りした事だけは、断じて許す事はできない!!」


「…………」


サーシャとクリスとの間で起きた小さな出来事がきっかけになった事を、決闘を見ていた全員が知る事になろうとは。

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