小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第2章:武士道プラン異聞録編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第2章『武士道プラン異聞録編』



27話「含鉄泉の夜S〜真剣で吸ったら驚いた〜 4」


ビッグ・マムの地獄の特訓を終えてから数時間。


夕食後、大和達とサーシャ達は大広間に集められていた。何でもビッグ・マムから大事な話があるらしい。


本人のビッグ・マムはまだやってこない。大和達とサーシャ達はそれまでそれぞれの時間を過ごしていた。


「うぇ……疲れたぜ……さすがの俺も限界だ。こりゃゲンさん来なくてよかったかもな」


特訓がよほど堪えたのか、普段から活発なキャップもお膳に突っ伏して伸び切っていた。ちなみに隣ではモロが意気消沈している。


「燈さん。お近づきの印に、メアド交換しませんか?後電話番号も」


ガクトは懲りずに燈にアタックを続けていた。燈は喜んで承諾してはいるが、本人は恋愛対象とされている自覚はない。


「まだ言ってるよこの人。しょーもない」


その横で、京は生暖かい目でガクトを眺めていた。


「おいサーシャ。お前さっき誰かと戦ってただろ?凄まじい気を感じ取ったぞ」


百代が興味津々にサーシャに話しかける。おそらく、海岸で遭遇した松永燕の事だろう。


「よく分からん奴だった」


としか言いようがない。突然現れてサーシャに勝負をふっかけ、4つの元素を行使し、やるだけやって帰っていった燕という少女。


どこからどう説明すればいいというのだろう……サーシャは説明に困っていた。


しばらくして、大広間の襖が勢いよく開き、ようやくビッグ・マムが中へと入ってきた。話がピタリと止み、しん……と部屋が静まり返る。


「待たせたね、お前たち」


言って、大和達とサーシャ達の間に入るように、どしっと腰を下ろす。


「こうしてお前たちを集めたのは他でもない。今後の活動について、話しておこうと思ってね」


今後の活動……サーシャ達の事だろう。川神市に蔓延する謎の元素回路の一件はまだ終わっていない。


しかし、それなら大和達を呼ぶ必要があるのだろうか。その疑問に答えるかのように、ビッグ・マムは話を続ける。


「何故お前達がここに呼ばれたのか、疑問に思っているんだろう?まあ、その前にだ。まずはアタシたちアトスがどういう事をしているのか、知っておいてもらう必要がある」


サーシャ達が所属する組織『アトス』。そして聖乳の力を得て、特定の元素を操る奇跡の存在『クェイサー』。


今一度、サーシャ達について知っておくべきだとビッグ・マムは語る。一体それが何を意味するのかは分からないが、同じファミリーの一員として、彼らをの事をもっと知りたいという気持ちも大和達にはあった。


「さて。まずは、アタシたちが何と戦っているか……話しておこうかね。まふゆ」


ビッグ・マムがまふゆに視線を投げる。これはまふゆの意識の再確認でもあった。まふゆは頷くと、大和達の方へと顔を向ける。ゴクリ、と唾を飲む大和達。


「私たち……サーシャ達は、アデプトっていう組織と戦ってるの」


アデプト。それは、アトスと対立している異端者のクェイサー達が集まる組織。サーシャ達、クェイサーは歴史の裏でアデプトと戦いを繰り広げ、常に暗躍してきたのである。


―――事の発端は、サルイ・スーの生神女という、新約聖書の福音記者ルカによる史上最初の聖像を巡る争いから、全ては始まった。


聖ミハイロフ学園で平和に暮らしていたまふゆと燈。そんな平和な日常の中で現れた、アデプトのクェイサー。そしてその中で最強に位置する、アデプト12使徒。



―――「パイロマニア」「コリオグラファー」の異名を持つ、マグネシウムのクェイサー・水瀬文奈。


文奈は学園ではまふゆ達の親友を装い、裏では聖乳を得るために通り魔事件を起こし、サルイ・スーの生神女を探していた。


そして、サーシャが初めて交戦したクェイサーである。



―――「ガス・チェンバー」「浄化者クレンズクロア」と呼ばれた塩素のクェイサー・クロア。


かつてクロアチア紛争において、自らの快楽のために何人もの人間を虐殺してきた殺人狂。とある教会を襲撃して虐殺を行った経歴を持つ、非人道的存在。


「……その教会の話、父様から少し聞いた事がある。確かそれは、疫病が蔓延して全員亡くなっていると聞いているが?」


と、クリスが疑問を投げかける。するとサーシャがクリスに視線を向け、答える。


「それは表向きの話だ。だが実際は、クロアが撒いた致死性の塩素ガスで全員中毒死している……これが真実だ」


クロアは仲間を率いて民族浄化という名目で虐殺を行い、塩素ガスで教会の人間の命を全て奪い尽くしたのである。


それだけではない。中にいた若い女性は皆犯され、子供も塩素ガスで無慈悲に殺されている。もはや私利私欲による、“虐殺”。


「なんて……卑劣な……!」


その話を聞いたクリスは憤慨し、歯ぎしりをしながら拳を握りしめていた。クロアに対する怒りと、自分が真実を知らずに生きていた事への正義の怒り。無理もない、そうやってクェイサーは歴史から隠されていたのだから。


「……話を、続けるね」


まふゆが本題に戻し、話を継続する。



―――「双面の大気使い(アトミス)」の異名を持つ、酸素のクェイサー・朽葉悠。


酸素を操り、対象周辺の酸素を無くして窒息させ、さらには物質を強制的に酸化・燃焼させることができる、アトミスと呼ばれたクェイサーの一人。


アトミスとは大気使いに与えられる称号で、人間の活動圏にほぼ無尽蔵にある元素である事から、階梯によらずクェイサーの中でも最強の部類に入る。


特に酸素は金属を腐食させる事ができ、サーシャやカーチャにとってまさに天敵であった。



―――「鮮血の女王」「クイックシルバーの魔女」と呼ばれた水銀のクェイサー・エヴァ=シルバー。


自らのクローンを作り、予備パーツとして自分の身体に取り込み、若さを保ち続けて95年もの時を生きてきたクェイサー。


聖ミハイロフ学園に潜入し、まふゆを襲っている。そしてこの戦いが、サーシャが第四階梯へと登るきっかけとなった。



―――「一“激”必殺胡狼」の異名を持つ、鉛のクェイサー・ジャッカル。


鉛を銃弾の形に変形させ、遠距離からの狙撃を得意とするクェイサー。


エヴァとの戦いで一時的な記憶喪失となってしまったサーシャを襲い、窮地にまで追い詰めた。



―――「γ-ω(ガンマ―オメガ)」と呼ばれたコバルトのクェイサー・ゲオルグ=タナー。


指輪からガンマ線レーザーを自在に放つ事ができ、サーシャの鋼鉄をも撃ち抜き、苦しめている。



―――「グラウンド・ゼロ」と呼ばれた男。珪素のクェイサー・汪震(わんちぇん)。


珪素は大地がある限り無限に取り込める事ができ、異名の通り陸上戦では部類の強さを誇る。


私立翆令学園での事件。始原の回路ハイエンシェント・サーキットを破壊するための回路「魔女の碑ウィッチ・クラフト」を使い、サーシャ達と対峙した。



―――「黒いダイヤモンド」と呼ばれた炭素のクェイサー・ジータ=フリギアノス。


炭素というレアな能力を持ち、汪震とともに翆令学園での任務に赴いていた。事件後は、アトスの捕虜となっている。



―――そして、彼らを束ねるアデプトの首領・黄金のクェイサー。


サーシャの拠り所であったオーリャを殺し、サーシャの顔に傷を残した張本人。


ありとあらゆる物質を元素分解する事ができる最強のクェイサー。彼は燈の身体を乗っ取り、サーシャ達と激闘を繰り広げた。


他にも紋章屋クレストメーカーや鳳慎一郎、かつてない強敵と、サーシャ達は命をかけて戦ってきたのである。


『あれ?アデプト12使徒なのに、何人か省かれてね?』


「そこは突っ込まない方がいいと思うよ。長くなるから」


的確な松風のツッコミに対し、すかさずコメントを挟む京なのだった。


その後も、まふゆはこれまで遭遇した出来事、そしてサーシャ達が何を思い戦い続けてきたか。包み隠さず、全てを話し尽くした。サーシャ達を知ってもらうために。


「――――これがあたし達が戦ってきた敵、アデプトなの」


一通りの話を終えるまふゆ。大和達は、ただ黙ってそれを聞き続けていた。


すると今度はビッグ・マムが変わって大和達に投げかける。


「これで分かっただろう?今アタシ達が相手にしている敵は、そういう連中だ」


サーシャ達が敵対している人間は同じクェイサーであり、普通の人間ではない。しかも川神学園の決闘とは訳が違い、負けはつまり死を意味する。だからこそサーシャ達は負けられない。


「……ちょうどいい機会だ。お前たちに言っておく事がある」


少し間を置き、大和達を見据えるビッグ・マム。大和達はただビッグ・マムの返事を待った。


そして、


「謎の元素回路……この一件から手を引け」


大和達にこれ以上、サーシャ達の任務に関わるな……そう言い渡したのだった。今後も関われば必ず命に危険が及ぶだろう。ワン子の事もあり、大和達はそれを十分思い知らされているはずだ。戦いに巻き込まれれば、単なる怪我では済まされないのだから。


大和達は真剣に、ビッグ・マムの言葉に耳を傾けていた。反論もなければ相槌もない、あるのはただ静寂のみ。


このままサーシャ達と関われば、今までの日常は、非日常へと変わるだろう。後戻りはできない。もし手を引くのであれば、いつもの日常が待っている。


平和で、仲間達と学園へ通い、金曜日に集会をして、休日を楽しく過ごす暖かな日常が。


だが、大和達の答えは既に決まっていた。大和達は視線を合わせて頷き、ビッグ・マムに視線を向けて答える。


「そんな話を聞かされちゃ、なおさら引けねぇな」


まずはキャップの第一声。


「上等じゃねぇか。アデージョだか何だか知らねえが、俺様が全部ぶっ飛ばしてやるぜ」


ガクトが頼もしい一言を言うが、燈に対してのアピールをしている事は誰もが気づいていた。


「僕もみんなと同じだよ。それに、もうサーシャ達は僕たちの仲間だしね」


サーシャ達は仲間だから、とモロは笑う。


「自分も同じだ。アデプトのような輩を、野放しにしておく事はできないからな。協力するぞ」


自らの正義に誓うクリス。


「わわわわわ、私のような者でよろしければ力になります!」


『オラも助太刀するぜ!』


皆の力になりたい。友のために戦うと宣言するまゆっちと松風。


「もちろんアタシも戦うわ」


もう、自分のような犠牲者は出したくない。ワン子は戦う事を決意する。


「私もみんながそう言うなら」


協力的なのかそうでないのか、京も一応協力はしてくれるらしい。


「私も引く気はないぞ、ビッグ・マム。仲間に……ワン子に手を出されたんだ。このまま黙って見ているつもりはない」


力を貸すぞ、と百代。ワン子が巻き込まれたのだ、今更無関係にはなれない。


「……こういうわけだ、ビッグ・マム講師。俺達は何を言われようが、引く気はないぜ」


最後に大和が締めくくり、サーシャ達と戦う事を意思表示したのであった。もう、サーシャ達は風間ファミリーの一員。同じ仲間である以上、引き下がらない理由はない。


ビッグ・マムはうむ、とまるでこうなる事を予め分かっていたように、満足げに頷くのだった。


「俺は構わない。だが、もう後戻りはできないぞ?」


大和達に警告するサーシャだったが、彼らの返答は変わらない。揺るがない。サーシャはそうか、と言ってこれ以上は何も言わなかった。


「みんな……ありがとう」


「頼りにしてるぜ」


大和達がいるなら心強い、とまふゆと華。一般の人を巻き込みたくないとは思うが、百代達のような戦力が増えるのは嬉しい。


「好きにするといいわ。けど、自分の身は自分で守る事ね」


と、カーチャは大和達に釘を刺す。だが戦力としては認めてくれているらしい。


これで、大和達はサーシャ達と任務を共にする協力者となった。


「よかったねぇ、サーシャ君。良いお友達ができて」


サーシャの隣にいた燈が微笑み、サーシャの仲間が増えた事を心より喜んでいた。サーシャは照れ臭そうに燈から視線を逸らしている。


微笑ましい、仲間達の光景。この先どんな事があろうとも、大和達となら戦っていけるだろう。仲間というのはきっと、そういうものなのだから。


「………?」


しばらくして、まふゆはある異変に気づく。そう……ワン子だ。さっきからあまり会話に参加せず、いつになく消極的だった。サーシャをちらちらと目で伺いながら、もじもじしている。変に思ったまふゆはワン子に話しかけた。


「一子ちゃん、どうかしたの?」


まふゆの声に反応し、ビクッと体を震わせるワン子。ワン子は言葉をどもらせながら、何やら顔を真っ赤に染めていた。


まふゆは思考する。ここに集まるまでは、普段と変わらない様子だった。サーシャがワン子を迎えに行き……様子が変になったのはそれからだ。


“サーシャが迎えにいってから”。それが引っかかり、ある結論に辿り着く。


「サーシャ、あんたまさか……一子ちゃんの聖乳を!?」


恐る恐る、サーシャに尋ねるまふゆ。するとサーシャは悪びれた様子もなくさらりと答える。


「変なヤツに勝負を挑まれた時、聖乳が切れていた。だから吸わせてもらった」


サーシャが言い放った瞬間、ワン子の頭が沸騰して赤面したと同時に、空気が一瞬にして凍りついた。


「ほう……ワン子の聖乳を吸ったのか。私の可愛い妹に手を出すとは、いい度胸だなサーシャ」


百代がゆっくりと立ち上がり、腕をばきぼきと鳴らしながら、サーシャを今にも殴りかかりそうな勢いで、殺意のオーラを放っていた。


「サーシャ……貴様と言う奴は……!」


続いてクリスが立ち上がり、どこから取り出したのかレイピアを構えてサーシャを見下ろし、戦闘体制に入っている。


「あーあ。こうなったらもう止められないよ……と言うわけで面白そうだから私も参戦」


何がどう言うわけなのか、京も面白がって立ち上がり、弓を構えてニヤリと笑う。


「あああ、ええええええええと、私は――――」


『まゆっち。ここは空気的な意味で立ち上がんないとKYだぜ』


戸惑っていたまゆっちだったが、松風に押され、立ち上がり&quot;ごめんなさいサーシャさん&quot;と言って刀を抜く。


「サーシャ……あんたってどこまでデリカシーがないの……!」


ついにまふゆまでもが立ち上がり、怒りを露わにしていた。


百代、クリス、京、まゆっち。そしてまふゆが殺気を放ちながら、サーシャに少しずつ距離を縮め出した。さすがのサーシャも危険を感じ取ったのか、立ち上がり後退っていく。


「ま、待て話を聞け!あれは、敵に襲われたから仕方なく――――」


「「「「問答無用!!!」」」」


サーシャの弁明も虚しく、怒りをMAXにした百代達が一斉に襲いかかる。サーシャは危機を脱すべく大広間から抜け出し、逃亡を図るのだった。




こうして、含鉄泉の夜―――最後の夏休みは更けていく。サーシャの命と共に。







「あ、ちなみにサーシャは死んでいません。とりあえず、まあ一応生きてます。 by 京」

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