小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第2章:武士道プラン異聞録編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第2章『武士道プラン異聞録編』



29話「京の過去」


小学校の頃から、“椎名菌”と言われ凄惨なイジメを受け続けていた。


その理由は、母親が男遊びに明け暮れ、淫売の娘として忌み嫌われていたからである。


誰も触れようとしない。誰も話しかけようともしない。イジメは日を追う毎にエスカレートしていくばかりの日々。


誰も助けてくれない。誰も手を差し伸べようとはしてくれない。哀れもうと思う人すら、いない。


だからいつも一人だった。毎日が孤独だった。


そんなある日、一筋の光が差し込んだ――――それは決して忘れる事のできない、希望の光。そして初めて仲間と呼び合える友達。


そう、風間ファミリー。キャップやモロ、ガクト、ワン子。そして大和。


彼らが全ての始まり。彼らがいたからこそ、今の自分がある。


だから決心した。仲間を、彼らとの絆を守ろう。絶対に離れる事のないように、守り続けよう。


それ以外には、何もいらない。何も望まない。何にも干渉しない。ただ今ある仲間が……大和がいてくれればそれでいい。そう彼女――――京は誓ったのだから。




――――――。




「……………」


名残惜しくも夏休みが終わり、学園生活が再スタートした。その中で京は休み時間を使い、一人机に座りながら読書に耽っている。


京が読書をしている時は、2−Fの生徒達は誰も話しかけたりはしない。そもそも、京が拒絶的なオーラを出している為、大和達以外近付こうとすらしない。


京もそれが分かっているのか、読書に集中できる時間ができて好都合と思うのだった。


「おい、京」


そんな中、京オーラをもろともせず話しかけてくるのは華である。折角集中していたのに……京は渋々本を閉じると、華に顔を向けた。


「何か用?」


「今日放課後、千花たちとカラオケ行くんだけどよ、京も行かねぇか?」


華からのカラオケの誘い。千花達と行くらしいが……京には全然興味がなかった。


カラオケなんてあまり歌わない。それに仲間以外と関わるのも面倒だ。


だから、京は関わらない。


「私はパス。行かない」


それだけ言って、京はまた読書に戻り始めた。付き合い悪いなぁ、と華は苦笑いする。


すると千花が華の元へとやってきた。また人が増えた……面倒だと京は思った。


「誘ってもダメだと思うよ華。その子いっつもそうだから」


千花も京の性格を知っているのか、誘おうとはしない。京は親しい人間以外とは全く関わりを持たないと言う。


「ん〜……ま、いいんだけどよ。んじゃ、気が向いたら電話くれよな」


それだけ言い残して、華と千花は京の前から去っていく。


ようやく人がいなくなった……これで落ち着いて本が読める、と京は再び読書に集中するのだった。




風間ファミリー、秘密基地。


ある日の放課後、華は基地にある漫画を読みあさりながら、ソファに座って寛いでいた。


風間ファミリーの一員となってからは、秘密基地の出入りを許されている。それも今日は特別集会をするらしく、キャップから招集がかけられていた。


華はクッキーが出してくれたポップコーンとコーラを口に入れ、我が物顔で居座るその姿は、カーチャの奴隷だとは到底思えない。


『ちょっと華、ポップコーンこぼしすぎだよ!後で掃除するの大変なんだからね!』


と、寛いでいる側で訴えているのはクッキーだ。クッキーは華のこぼしたポップコーンを掃除しながら怒りを露わにしている。


「悪りぃ悪りぃ。そんな怒んなって。ってかロボットの癖にやけに感情的だよなぁ、お前」


クッキーの感情機能に感心しながら、またポップコーンを頬張りゲラゲラと笑う華。


すると、華の態度が気に入らなかったのか、クッキーは変形機構を使用してクッキー2(戦闘形態)へと姿を遂げた。


『貴様、どうやら斬り刻まれたいらしいな』


クッキー2の持つビームサーベルがキラリと光る。華はさすがに身の危険を感じ、小さく悲鳴を上げてクッキー2から後退りした。


「わ、悪かったって!冗談だよ、真剣(マジ)になるなよ!」


ビームサーベルで斬り刻まれてはたまらない。このままでは本気で殺されかねないので、華はとりあえずクッキー2のボディ磨きをして機嫌を直してもらう事に。


『しっかりと磨けよ』


「はいはい……」


何やってんだよアタシは、と心の中で思いながらクッキー2のボディを拭く華なのだった。


ボディ磨きをしてからしばらくして、部屋にモロが入ってくる。


「あれ桂木さ……って、何やってるのさ」


入って早々、クッキー2を磨く華を目の当たりにし(ビームサーベルを突き付けられている)、何だかコメントに困るモロ。


「見ての通り、クッキーのボディ磨きだよ……」


泣きながら磨く華の姿は、とても痛々しかった。仕方ないのでモロはクッキー2を説得して華をボディ磨きから解放する。


「いやぁ、死ぬかと思ったぜ」


ずっと身体を強張らせていたのか、急に力が抜けた華はソファに凭れこんだ。ちなみにクッキーには基地周辺の掃除に出てもらっている。


「あんまりクッキーを怒らせない方がいいよ。キャップも酷い目にあってるからね」


モロ曰く、キャップも部屋を食べ散らかしてクッキー2に殺されかけたらしい。これに懲りて華は二度とここでポップコーンをこぼさないと胸に誓った。


「ところで、今日はお前一人かよ?」


「後からみんな来るって。それに、今日はまゆっちから大事な話があるみたいだし。桂木さんは―――」


「華でいいぜ」


名字で呼ばれると違和感を感じると、華。モロも同じ仲間とは言え、照れ臭いと感じていたらしい。モロは改めて華の名前を呼ぶ。


「華こそ、今日は一人?」


「ああ。織部とサーシャは後から来るってさ。カーチャ様は……」


と、そこでガックリと肩を落とす華。様子から察するに、相変わらずの放置プレイを受けているらしかった。思わずモロも苦笑い。


「あ……そういや、モロ」


ふと思い出したかのように、俯いていた顔を上げる華。


「何?」


「京の事なんだけどよ……」


華は数日前の京の様子を語る。カラオケに誘った事。断られた事。何度か誘ったものの、乗った試しがない。


――――椎名京。風間ファミリーの中でも一風変わった存在。仲間以外の人間は殆どつるまない。華にとっては、どこかミステリアスだった。


「アイツって、いつもああなのかよ?」


京の事が気になり、何気なくモロに訪ねてみる華。モロはう〜んと唸り、何やら言い難そうな表情を浮かべた。


「まあ、色々とあるんだよ」


モロは結局語らず、お茶を濁す。華はふ〜ん、とだけ返事をしてそれ以上は追求しなかった。


「……案外、昔イジメにあってたりしてな」


腕を頭の後ろに組み、適当に推測した事を口にする華。京はどちらかというと根暗っぽいイメージがある。ただ、それだけの理由だった。


すると、部屋の空気が途端に重くなった気がした。モロも黙りこくって何も言葉を発しない。マズイ事を言ってしまったか……と失言を気にする華。どうやら図星だったらしい。


「わ、悪りぃ。まさか、本当だったとは思わなくてさ……」


「あ……いや、いいよ別に。それにしても華って割と鋭いんだね」


人は見かけによらないね、とモロは言う。遠回しに言えば鈍感でガサツと言っているような物だ。


悪かったな、と悪態をつくつもりの華だったが、空気を和ませてくれようとしたのだろう、華は何も言い返さなかった。


「……もう、話してもいいかな」


モロが独り言のように呟く。恐らく京の事だろう。いつかは聞かれるだろうと思ってはいたが、話すか話さないか迷っていた。


だが、華ももう仲間である。きっと京を心配してくれているのかもしれない。それなら……と、モロは話す事にした。


「華の言う通り、京は昔イジメにあってたんだ」


京の過去。それは小学校時代のイジメから全ては始まった。


京の母親が転々とするように男に手を出し、淫乱な女性として知れ渡り、京もその淫乱な親の娘としてイジメを受けていたのである。


当時の京は、何を言われても言い返さず、ただ物静かにポツンと席に座っているだけ。


何も言わない。喋らない。気持ち悪い。そうやってクラスの人間はつけあがり、イジメは徐々にエスカレートしていった。


そんな中で、京を救う為に立ち上がったのが大和達である。最初は見て見ぬ振りをしていたが、大和は自分自身の過ちを断ち切り、京に救いの手を差し伸べた。


結果京のイジメは無くなり、京は風間ファミリーの一員となった。そして大和の心のケアもあり、今の京がある。そのおかげで大和一筋になっちゃったけどねとモロは付け足した。


これが大和達と京の出会いの始まりであり、過去であるとモロは包み隠さず話してくれた。


華はそれを黙って聞いている。そして、思い返していた。思い出してしまった。忘れていた、自分自身の過去を。


「…………」


聖ミハイロフ学園で、美由梨とつるんでまふゆと燈にイジメをしていた事。


思えば今は仲良くやっているが、サーシャ達がやってこなければ今頃どうなっていただろう。きっと自分はイジメを続けていたはずだ。そんな自分に、華は負い目を感じているのだった。


「華、どうかしたの?」


心配したモロが声をかける。華は我に返り、


「あ、いやぁ……何でもねぇよ」


そう言って苦笑いしながら答えるのだった。きっとモロは華を信用してくれたから話してくれたのだろう。今更自分もイジメていた側の人間だったなんて、言えるわけがなかった。


しばらくして、部屋に京とクリスが到着する。噂をすれば……だ。


「む……何やら私の話をしていたようなこの空気」


何かを察知したのか、寛いでいるモロと華に視線を向ける京。空気だけで感づく京も鋭いと、モロと華は思った。


「あ……いや、その。ほら!京達が来るの遅いなぁって、二人で話してたん――――」


華があわてて説明をしながらジェスチャーをしてしまい、その表紙にポップコーンの入れ物が肘に当たって中身を床にぶちまけてしまう。


そしてタイミングの悪い事に、基地周辺の掃除を終えたクッキーが戻ってきてしまった。


この惨状を見たクッキーは、


『やはり斬り刻むしかないようだな』


クッキー2に変形し、ビームサーベルを片手に華へと視線(ターゲット補足)を向ける。


「ま、待てよクッキー!これは不可抗力で――――」


『貴様の言い訳はもう聞き飽きた―――――全力で粛正する!』


「ひいぃ!?」


クッキー2は全力で華を襲撃し、華は全力でクッキーから逃亡を図った。部屋から華とクッキー2がいなくなり、静かになる。


『―――綺麗事では世界は変えられない!!』


「―――わけわかんねーよ!あっ!?いた、いたい!で、でもそれがいいぃぃぃ!!」


部屋の外で聞こえてくるクッキーの怒号と、華の断末魔というか絶頂。モロもこれは流石に、ご愁傷様と言わざるを得ない。


「華の性格は、相変わらずよく分からないな」


難しい表情を浮かべ、華の性癖が理解できないのでう〜んと唸るクリス。


「ホントだよね。一般人の私には理解できないよ」


「それ京が言える台詞じゃないからね!」


京のコメントに対し、すかさずツッコミを入れるモロなのだった。




緊急集会が、もうすぐ始まる。

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