〈ゴゲー!!〉
ドスドスと突っ込んでくるバジリスクに対して俺ができたことは急いでその場から飛び退くことだけだった。
〈ゴゲ!!〉
「うわぁぁ!?」
俺のいた位置に鋭い嘴が突き刺さると共に地面が陥没する。
何つー威力だ!!今の状態であの一撃を食らったらひとたまりもないぞ!!
「男逃げるんじゃないよ!!」
「正々堂々と戦え!!」
興奮した観衆から野次が飛ぶが、俺にはそれに答える暇もない。
刀がないと、俺はこんなにも弱いのか!?刀を持たない剣士は脅威に抗う力すらねぇのかよ!!
俺はいままでかんじたことのないような恐怖を感じた。
それとともに、脳裏にあの時の記憶が蘇る。
ロジャー、レイリー、そして白ひげ。
ボロボロになった彼らを背に海軍最強の実力を持つ海兵に立ち向かった。
本当は俺も逃げ出したかったさ。
でも、なんであの時、俺の体は敵の前に出てしまったんだろう?
『自分にしかできない生き方をしろ』
今更だけど思い出す。
この世界にくる前に聞いた言葉。
俺はそれが分からず、ただ流されるままに生きている。
分からない。
未だ、俺は何をすればいいのか?
何をするべきなのか?
でも・・・これだけは言える。
俺は生きたい!!
願う!!
また、彼等にに会いたい!!
もっと、彼等と語り合いたい!!
だから・・・俺は生き残る!!
十分な距離を取った後、俺は皇帝を睨みつけた。
「何じゃ?」
不快そうな顔をしながら皇帝は俺を睨む。
少し息を吸ったあと、俺は静かに地面に膝をつき、頭を下げた。
「刀をください。」
一瞬闘技場が静まり返る。
『・・アハハハハ!!』
しかし、次の瞬間辺りでまた笑い声が起こった。
そりゃそうだ。今俺は最高に無様だろう。
地面に手をついて土下座。
こんな光景自分でも笑っていたに違いない。
「ほう、武器をよこせと申すか。」
「刀がいいです。そしたら俺は逃げません。正々堂々と戦います。」
俺は黙って土下座を続ける。
その光景を見ていた皇帝はそれをおかしそうに見下ろしながら、侍女に合図を送る。
すると、俺のいる場所に剣が投げ入れられた。
「男。約束は守れよ?さぁ、・・潔く散りなさい。我らが見届けてやる。」
皇帝の言葉と共に、観客のボルテージが最高潮に達する。
『死刑!死刑!』
彼女達は俺が魔獣に喰われる場面しか想像してないのだろう。
投げ渡された刀を拾った俺は、フゥ・・・、と軽く息を吐いた。
呼吸を整えつつ、ゆっくりと刀身を鞘から抜き取り、刀身ごしに相手を睨みつける。
叫ぶ群衆、こちらを見おろす皇帝、涎を垂らしながら俺を喰わんと突進する魔獣。
音が消え、、その全てが、否、世界そのものが俺を残してスローモーションになる。
思えばこの感覚も懐かしい。
殺すか、殺されるか。
勝つか、負けるか。
斬るか、斬られるか。
命をかけた真剣勝負。
バジリスクを見据え、俺は小さく口を開いた。
旋風
脱力した状態から一気に腕を動かす。
スクランブル!!
直後、風のない凪の海に一陣の風が吹き抜けた。
『!?』
流石に魔獣。その命の鼓動は人のそれを超える。そして、その体はまさしく生きた鎧。その気配は強者の証。常人には到底太刀打ちできない絶対的な暴力。
「だが」
もう斬り終えた。
〈グゲッ!?〉
刀を鞘にしまった鋭い音ともに轟音を立ててバジリスクが崩れ落ちた。
『えっ!?』
そこ光景に女々島を護る勇敢な戦士達は言葉を失った。  
「何を驚いてるんだ?」
しかし、俺は心外だと観客を睨みつける。
確かに俺は弱いし、この世界で何をすればいいかわからねぇ。そもそも剣がなきゃ何もできない。この世界の厳しさとか、未だに理解できねぇ。酒を飲み交わした中だけど、未来の大物達の中に混じっていてもいいのかも心配になる小心者だ。それに、自分がこの世界で何をすればいいのかわからん。自分にしかできない生き方をしろ?そんなものどうすればいいのかさえ分からねぇよ。
けどさ、
「知ってるか?」
俺は剣をゆっくりとあげて、剣先で皇帝を指し、不敵に笑った。
「俺は、”大嵐”だぜ?」
けどさ、
今だけ・・・、ちょっとくらい格好つけさせてもらっても構わないよな?
青天の大嵐第45話“嵐再び”