第21話
ーside???ー
そこは何とも不思議な空間だった。何も無いのに声だけが響いてくる、そんな空間。響いてくる声は、そのままこちらに問い掛けてくる。
「・・・報告を聞こうか。」
「・・・任務『高町なのはの暗殺』は失敗、ロストロギアも暴走させましたが何も報告が無い所を見ると、高町なのはに止められたのでしょう。」
「ふむ、ここまでされて生き残るか。それは君の力不足か、それとも何かイレギュラーの介入があったか?」
「・・・両方です。」
「ほう、そのイレギュラーとは?」
「顔は分かりませんが、黒いコートを纏い、私の撃った音速を越える程の魔力弾を軽々と弾き飛ばす力を持った魔導師でした。」
「「エリス」か。余計な事を・・・」
「・・・エリス?」
私はその、数年前に聞いたことのある、懐かしい名前を反芻する。
・・・まさか、「彼」か?彼ならば、あの強さにも納得がいく。しかし、何故、生きている?・・・
「だから、早めに始末した方が良いと言っただろう。」
「しかし、奴を始末するには、そこらの魔導師を集めた程度では足りない。せめてSランクオーバーを十以上揃えなくては・・・」
「お言葉ですが、その彼が私の知っている「エリス」ならば、管理局の全戦力を持ってさえ、まだ勝てない可能性が高いと思われます。」
「それはどういう事だ?」
「・・・フェイル第一保護施設を覚えていますか?」
「あぁ、数年前に何者かに大虐殺が行われた、「地獄」だろう?覚えているよ。」
フェイル第一保護施設。そこは正に保護施設の名を借りただけの地獄だった。
身寄りの無い、リンカーコアのある子供を、保護という名目で拉致する。
そしてその子供たちを殺し合わせ、戦闘技術の全てを叩き込み、最強の魔導師、最高の戦闘マシーンとして育て上げる、管理局が作り上げた、そんな施設。
「で?その施設がどうかしたのかね?」
「・・・施設壊滅の二年前、五歳位の男の子が連れて来られました。」
「一体何を、」
「とにかくお聞き下さい。その男の子はとても才能に恵まれており、たった1ヶ月で教官を含む施設の人間で彼に勝てる者は居なくなりました。」
「・・・・・」
「そして一年後には彼はその施設の人間全員でかかっても軽く全滅させる程の実力を着けましたが、その一年後、あっさりと行方不明になりました。」
「・・・成程。それが「エリス」を名乗った、と言うわけだな?しかし、それでは、管理局の全戦力を倒せるレベルではない。なのに、」
「その時でさえ、彼が1割の力も出していないとしても、同じことが言えますか?」
「どういう事だ?」
「彼は自らにリミッターを着けていました。それも普通の人間なら一生動けなくなるような強力なものを。まるで自分の力を恐れるかのように。」
「・・・・・」
「更に彼は、強力なレアスキルを二つも持っています。例え勝てたとしても、管理局の被害が大きすぎます。」
「そうだな、こちらから見ても、彼は便利だからな。それほどの力を持っていれば、尚更か。」
「・・・それで、高町なのはについてはどうしますか?もう一度暗殺を実行しますか?」
「いや、そちらに関しては別に今やるべき事ではなかったからな。生き残る程の運を持っているなら、まだ殺す必要はない。放置しろ。」
「・・・仰せのままに、「最高評議会」様。」
そう言うと、空間に響き渡っていた声は聞こえなくなる。
それを確認した後、彼ーーーレイル=スラークは一人笑う。
「へぇ、「エリス」、生きてたんだ。君がどう足掻くのか・・・楽しみだよ。」
そう呟きながら。