Metropolis
私たちが暮らす氷の街(Ice City)、都市生活を快適に維持するための暖房施設といえば、人力を動力源とした蒸気機関であります。
広大な設置面積および高さを必要とするその施設は、太陽光、自然光から遠く隔てられた地下2548メートルにおいて、現在、稼働しているのです。
労働エリア間を移動するための通路として、最低限の移動可能幅として選定された54cmが適切であるかは、別論点として然(しか)るべきですが、絶えず奏でられる蒸気音は、懐かしい故郷(ふるさと)の川のせせらぎ、恋する胸のときめきさえも遠い記憶のかなたへと運んでしまいます。
残された視野、または残像には、薄汚れた計器パネルがそびえ、そのまま仄暗い空を見上げてみると、数万を超える蒸気配管、薄曇り色した配管が地底空間における空、地上へと声なきメッセージのように延びています。
消え入りそうな光が幾つも見えますね。残念なことに、その光は星でも希望でもありません。富裕階級が支配する政府から、労働管理を請けおった地上の会社が設置した照明です。
悲しいことだと思いませんか。
そこで、幾つかの提案があります。メトロポリスオンライン社と契約していただければ、地下空間に設置されたライブ映像がチャンネル234にて視聴可能となり、三次元マウスを利用することにより、自在にモニター方向を制御できます。
有料のパスワードが必要ですが、『 革命 』というボタンをダブルクリックしていただくと、メニューがポップアップ表示されます。
< Phase 1 >
地上への階段を閉ざす鋼鉄扉に設置された電子錠の解除。黒さびに染まる鋼鉄扉中央、やや上部に取り付けされたランプが緑色に点灯し、労働者たちを地上へ脱出させることが可能となります。
< Phase 2 >
労働者から搾取し続けながらも、危機的な状況において分配されるべき利潤を会社保護のために使用し、人的配慮を欠いた管理会社へのミサイル攻撃。もちろん、ターゲットの労働者管理会社には、事前通告および避難勧告をし、安全を確認してから破壊活動を開始いたします。ですので、死傷者の心配は不要です。
< Phase 3 >
無限に自己増殖するステルス型電子ウイルス『 電影 』を労働者管理会社のセキュリティー回線上に放ち、地上から地底空間まで労働者護送するエレベーター(定員138名)の制御を地上の管制塔から奪回します。エレベーターによる労働者の脱出が終了し、エレベーター内における生体センサーが無人、安全であることが確認されますと、電子ウイルスが安全回路を強制切断、地底空間から垂直上昇を開始します。ごう音と火花をまき散らしながら加速を続け、限界速度である時速383Kmに到達、そのまま停止することなく地上高245メートルの管制塔最上部のメカニカルストッパーおよび建造物を突き破り、大空へと打ち上げられます。
エレベーターにつながれている特殊ワイヤロープは、この状況においても切断耐圧性能を保持しています。高度2780メートルにて特殊ワイヤロープは、ぴんと張られた状態となり、あたかも巨大エレベーターが空中停止したかのように見えます。そして、奈落の底ともいえるべき労働者管理会社の管制塔をめざして、重力による自由落下を開始、地上を揺るがし、建造物を跡形もなく破壊したあと、停止いたします。
この通信は、ギルモニア暗号技術を採用しており、盗聴対策は完全であります。ですので、あなたの安全と匿名性は、保証されます。
あなたのささやかな正義を満足させ、ディスプレー上に映し出される現実という名前の光の前で、あなたは匿名の革命戦士になれるのです。
支払いは、クレジットカードのみであり分割払いOKであります。定員に限りがありますので、できるだけ、お早めに申し込みしてください。