しし座流星群への願いごと
いつのころからでしょうか。象さんとねずみさんは旅をしていました。
旅の始まりは、そう、いつもお日さまの、
おはよう
とても明るくて暖かい声なんです。
今日も東の空の下、お日さまがまん丸顔を出そうとしています。ちょっと怖かった夜色の空も不思議なクレヨンで絵をかいたように色がかわります。
あなたは、その目で見たことがありますか。
黒から青へ、青からオレンジへ、そしてちょっと赤くなって空色になります。
寒くて白かった息も、ふー、なんとなく暖かくなりますし、暑くて眠れなかったときも、ささー、風が通ります。
「 ぞうさん、きょうも朝がきたよ 」 目をこすりながらねずみさんが声をかけます。象さんの大きなみみはとても柔らかくて、ねずみさんの大事なお布団。
「 ふわー 」と象さんは大あくび。大きくて、つばさのようなみみを思いきりひろげ、ながーいおはなを空いっぱいに伸ばすとお日さまの『 おはよう 』が風となってやって来ます。
ながいはなの先に、またがったねずみさんを目の前までゆっくり持ち上げて朝のごあいさつ、
「 おはよう。ねずみさん 」
ざぶーん、そうそう、海のそばでした。大空から舞い降りたカモメが聞いてきます。
「 朝ごはん、いかがですか? 」
「 バナナもあるし、木の実もたくさんあるからだいじょうぶ。ありがとう、カモメさん 」とねずみさんは小さな体からとても大きな声で答えました。
ちょっと欲張りな象さんは残念そうでしたけど 「 まぁ、いいか 」 と、ながいはなでポリポリと頭をかきました。
「 どこ、いこっか? 」と象さんが聞くと、「 あっち! 」とねずみさんが指さしたのは、大きな森。
近くに見えた森も歩いていくと、意外と遠いのです。海のにおいがなくなり、波の音も聞こえなくなった頃、やっと森の入口にやって来ました。
たくさんの木々、動物だち、虫さんたちが寄りそうように暮らしている森、ちょっと暗くて怖いけれど道は続いているのです。
たち止まっても、引き返しても象さんとねずみさんの自由です。ですが知らない森を知りたいのです。
たくさんの葉っぱを敷き詰めた森の道に象さんの足跡がくっきり、その大きな足跡の中にジャンプして小さな足跡を残すのはねずみさんの仕事。
ぱさぱさと枝が象さんの大きな体を叩きます。
「 はじめての森だね 」
落ちてきた枝を振り回しながら、ねずみさん、 魔法の杖になればいいな 」 とつぶやきました。
「 どんな魔法? 」
「 たくさんの友達とお話をしたいの 」
「 僕がいるよぉ 」と象さんはちょっと残念そう。
「 で、なくて、友達を必要としている子がたくさんいる気がするの。そんな子に声が届けばステキじゃない? どう?」
「 いい考えだよ。でもね、魔法があれば、だろう 」
「 全然わかってないわね、象さん。だから時間の旅をしてるんでしょ! 」
「 そうだったけ? 」
「 そうなの! 」
それから象さんとねずみさんは、たくさんおしゃべりをして、たくさん遊んで、森の木の実をたくさん食べました。
西の空にお日さまが隠れようとしはじめてます。
大きな樫の木の下には、たくさんの葉っぱ。ごろりと寝ころべば今日の旅はおしまいです。
東の空から月色のカーテンがゆっくりと舞い降りてきました。遠くから象さんとねずみさんの眠りをさそう唄が聞こえてきます。
そっと風も通りすぎます。
悩める青い月が優しく唄うのは
「 ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ 」、そして森に暮らす聖なる妖精のため息も
「 ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ 」 きっと今日の旅、象さんとねずみさんの旅が無事に終わったことをほめているのです。ハレルヤと。
そして、おやすみなさいと風がささやきました。
象さんとねずみさんの旅は続きます。
たとえ、ミサイルが飛んできても象さんはねずみさんを守りますし、ねずみさんはその当たり前のやさしさをお日さまのように思います。
そう思えることが、きっと、お金なんかなくても楽しい旅になるのです。
ずっと、象さんとねずみさんの旅は続くのです。
そうです、あなたの暮らす街まで旅は続くのです。
おしまい