小説『vitamins』
作者:zenigon()

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      音のない雨

 雨はやみそうもない。

 学校の帰り道、僕は駄菓子屋に寄り『 うまい棒 』を買いあさる。コーンポタージュ味がベスト。好きなものはやめられない。 軒先で雨をしのぎながらビニール袋を破ってガブリ、ザラリとした甘辛味が拡がる。 そこへ傘をさした明日香ちゃんが通りかかり僕をとがめる。「いけないんだぁ。1本ちょうだい」と言って5本も持って行く。あぁっと思いながらも、まぁいいか。
 小さな二人が並んで雨を眺めてる。雨音がトタンを打ち鳴らす。何故か僕の鼓動も呼応する。
 あどけないときめきを、うす紅色の紫陽花だけが気づいてた。

 それから、時間は驚異的な速度で二人の間を駆け抜けていく。太陽と月は5110回大空を駆け上がり、そして沈んだ。白い雲は音速で青空を占拠したかと思うと真夏の入道雲となって蒸発した。僕と明日香ちゃんといえば駆け抜けていく季節の中、不自然なコマ送りの世界で生きていた。
 無音のロードショーは色あせながらも時間にブレーキを掛けている。

 雨はやみそうもない。

 駄菓子屋は取り壊され、知らない誰かさんの家となっていた。天使のいたずらなのか僕と明日香ちゃんは互いに傘をさし、すれ違う。知らない街で知らない大人になった僕と明日香ちゃんが駄菓子屋があったであろう家の前ですれ違う。
 僕らの記憶の光は遠い星のきらめきに似てあまりにも弱い。どこか遠くで降りしきる雨、無音の雨を想い浮かべながら僕と明日香ちゃんはすれ違う。
 
 あどけないときめきを、うす紅色の紫陽花だけが覚えている。

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