3/
「知れた……か。そうか。分かった」
ミクは最後にそう言って電話を切った。
はぁと小さくため息を吐き小さなデスクの上にあるコーヒーの入ったカップに手を伸ばしかけやめた。
ミクは椅子の背にもたれかかった。ぎっと音を立てて椅子が軋む。
ミクは視線を正面へ移した。
部屋の隅に置かれた手術台のようにも見えるベッドに一人の少女が何も服を着ずに寝ている。いやソレはおおよそ人間ではなかった。
左腕が取り外されその断面には肉に紛れて歯車や複数の配線が覗いていた。
右の胸部は蓋のように開けられ、やはり中には同じように歯車や配線が乱雑としていた。
それは限りなく人に近づけられた人型。からくりとよばれる人間の創った人形の中の最高峰。
肌の質感も顔も髪の毛もすべてが確かに人間なのに、彼女は人間ではなかった。
ふと彼女が首だけを動かしミクの方を向いた。
ミクはソレに気づくと椅子から立ち、そちらの方へと歩いた。
「おいおい体を動かすな。眠ってろといっただろう。メンテナンス中に動かれると、どんな障害が起きるかわかったものじゃない」
ミクは少女の右胸部の蓋を閉める。
着ている白衣のポケットから数種類の工具を取り出し、左腕を身体へと付け直した。
「ほら、動きたいんだろう。いいぞ。一応メンテナンスは終わっている。最近動きすぎだぞ? 少しは休んだらどうだ?」
しかし少女は聞く様子もなくベッドから起きると横に綺麗にたたんであったいつもの服を着ると部屋を出た。
ミクはそんな彼女に苦笑いをする。
「はぁ。まったくそんなに急いても何も変わらないというのに。全く……報われない奴だ」
ミクはデスクに戻るとすでに冷めてしまっているコーヒーを飲み干し携帯を取り出した。
素早くダイヤルをし、電話をかける。
「おう私だが。今大丈夫か?」
『はい。もちろんですとも。ミクさんのお申し付けなら何時でも』
「じゃあ少しお願いしたいんだが。『彼』に接触してもらえないか」
『へぇ「彼」ですが。珍しいことを頼みますねミクさん。まぁたしかにそれは私に適任でしょうね』
「あぁ、頼んだぞ。接触した後、連絡を。その時にまた次の支持を出す。まぁ立場上ありえないが私のことは感づかれるな。期待しているぞルカ」
『はい、かしこまりました。必ずご期待に沿う行動をします』