小説『【ボカロ小説化第三弾】からくり卍ばーすと【改稿版更新中】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

2/組織
「ほら、綺麗になった」
 ミクはそう言って二本の刀をそっと机の上においた。
「ったく、お前何人殺(や)ってきたんだ。血糊とるの苦労したぞ?」
 悪戯に微笑むミクを黄色の髪の少女はその机の横で眺めていた。いや眺めるというよりはそれは観察に近い眼差し。しかし彼女は飽きたのかすぐに視線を机の上に置かれた二本の刃へとむけた。
「コレ、持って行っても?」
 無感情な瞳で見つめてくる彼女にミクはただ笑顔を返す。
「ああ、もちろんさ。それはお前のだからね。そうそう、ついでと言っちゃなんだが上質の砥石で砥いでおいたから斬れ味も今までの数倍になっているはずだぞ。感謝しろ」
 そんな乱暴な言いようにも少女は特に反応も示さず、二振りの刀を手にとった。一本を振り上げ電灯に翳す。きらりと光を反射するその刃はたしかに前より鋭さを増しているようだった。
 彼女は慣れた手付きでその二本の刃を懐へ仕舞った。そして無言で踵を返しこの部屋から出ようとした。そこで彼女をミクは呼び止める。
「ちょっとちょっと。きみをここに呼んのは、それを返すためだけじゃないぞ」
 言われて少女は足を止め小さく振り返る。
「ほら、これ」
 ミクはぽんと何かを少女に投げやる。
 突然のことに少女は驚きもせずその飛んできたものを上手に受け止めた。そしてやはり興味なさげに視線を自分の手の中へと落とす。
 そこにあったのは黒光りする鉄の塊。
 これはなに? と目で問いかける少女にミクはそれは拳銃というものだ、と説明した。
 少女は拳銃というものを知識としては知っていた。だが見るのも触れるのも始めてだった。ずしりと感じる重厚感。鈍く光るボディは刀とはまた違う美しさを持っていた。単純化された自動式拳銃。なんとも言えない機能美がそれには備わっていた彼女は基本的にはほとんどのものに無関心だが、綺麗なものだけには興味があった。
 初めて手にした玩具で遊ぶ子供のように、彼女は拳銃をいろいろといじってみる。
 彼女が引き金に指をかけたところで、ミクは制止した。
「おっとそこはまだやめとけ。今さわっても特に面白くはない。ほらこれがまだ入ってないぞ」
 そう言ってまた投げ渡したのは、弾が充填された弾倉。ミクのジェスチャーを見て、少女は弾倉を拳銃へと差し込んだ。
「狙うならあそこな」
 そう言ってミクはもう一つの机におかれた水の入った小さなグラスを指差した。
 少女はスライドを引き静かに銃を構える。無造作に、決していい構えとはいえない。数秒狙いを定め――――引き金を引く。比較的小さい発砲音とともに銃弾が射出される。その弾はきれいな軌跡を描き、吸い込まれるようにグラスを打ち抜いた。ガラス片が飛び散り、水が辺りにばら撒かれる。
 射撃の反動が心地よく腕に響く。痺れるような感覚。
「やるじゃん。さすがだね」
 ミクはぱんぱんと大袈裟に手を叩く。
「それもお前にやるよ。たまには違った『遊び』もいいだろう」
 少女は自分の手の中の銃を恍惚に見つめる。
 しばし静寂。
 ぽたぽたと机から滴り落ちる水の音だけが響く。
「――コレを使えば、ミタサレル?」
 少女はただそれだけを訊きたかった。この答えさえ聞ければ、満足なのだから。
 しかし、
「さぁね、お前しだいだろう」
 ミクから返ってきた台詞はどこか嘲り笑うような韻を含んだ曖昧なものだった。

-5-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ボカロPlus Vol.1(ロマンアルバム)
新品 \1575
中古 \144
(参考価格:\1575)