小説『【ボカロ小説化第三弾】からくり卍ばーすと【改稿版更新中】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

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   寂しいの?
    わからない。
   苦しいの?
    わからない。
   泣きたいの?
               ――――わからない。





4/捜査
 刎殺事件の捜査――と言っても個人でだが――が正式に始まってもう三日が経った。自分なりにいろいろ調べていたレンではあったが、特になんの情報も得られなかった。
 特殊部隊とはいえ調査は普通の警察と同じように行う。自分の足で聞きこみにいくのだ。
 目撃者は0である。見た者は全員殺されている。それゆえに聞き込みをしようが人物像の欠片すら浮かび上がらない。
 この三日間、犯人はなんの動きも示してない。しかし犯人は必ずまた殺人を犯すという確信がレンの中にはあった。彼(もしくは彼女)が殺人に依存しているように思えたからだ。
 時刻はちょうど午後三時。今は真夏。太陽も完全に昇りきり、強い日差しが降る。制服が長袖なので蒸し暑くてたまらない。レンは帽子を深くかぶり陽を遮りつつ、あたりを見回した。街の中心部であるここは人通りがとても多い。三日間捜査をしてきて、ここを調べるのは今日が始めてだった。
 さすがにこんな人ごみでは犯人もいたとしても紛れてしまって見つけることは困難だろう。それでも探すのが仕事なのだがさすがにこの暑さではまいってしまう。
 レンはしばし休憩するために近くにあったコンビニに立ち寄った。
 迷わず冷たい炭酸飲料を購入。レジを通し、すぐに店を出る。
 レンは炭酸飲料を一気に喉に流し込む。息苦しさを僅かに含んだ爽快感が身体中に染み渡る。
「よし」
 気合は十二分入った。レンはペットボトルを軽く潰し、ゴミ箱へ投げ入れる。
 ――そこでふと後ろに気配を感じた。ただの気配ではなかった。意図的に気配を消そうとして、しかし消しきれなかった、そんな気配。
 反射的にトンファーを引き抜き振り返りざまに一発……
「れーんくん……って、えぇぇぇぇ!?」
 そこにいたのはよく見知った顔。レンは相手の顔すれすれでトンファーをとめる。
「メグ……か。なんでいるんだ?」
 メグは涙目になりながらもなんとか笑顔を作る。
「い、いきなりそれはないです……レンくん」
「いや、だからなんでいるんだって聞いてんだけど」
 レンはトンファーを腰のホルスターにしまいながら真顔でそんなことを言う。
「なんでって、コンビニでちょちょっとアイス買ってたらレンくんを見かけたものでー、後ろから声をかけようとしたら、この有様ですっ。レンくん完全に殴る気だったよねっ」
 メグは怒っているようで、ほっぺを膨らましていた。
「そりゃあ、気配を意図的に消そうとして後ろから近づいてくるやついたら敵と思うさ。普通」
「気配消さないと驚かせないよ。てか普通に気づかれてた」
 メグは落胆しながらも、さりげなくレンにアイスを手渡した。
「はい、これ。私のおごり」
「ん、あぁ。ありがとう」
 レンはもなかアイスを受け取るとしばしそれを不思議そうに眺めたあと、袋を開けかぶりつく。中身は数秒で消滅、レンの口の中へと吸い込まれて行った。
「はやっ、はやいです! そんなに飢えてたんですか!」
 一人ではしゃいでいるメグをレンは軽く無視し歩き出す。
「あ、無視なんてひどい! まってください!」
 メグは走ってレンの横へと並んだ。
 しばらく無視(しかと)しながら歩いていたレンであったが、だんだん距離を詰めてくるメグに耐え切れなくなり立ち止まった。
「……?」
 突然立ち止まったレンに首をかしげるメグ。その距離ほぼ0。
「あのさ、何? なんか用あるなら言ってくれ。用がないなら帰れ」
「ひどいですよー、そんなこと言わなくてもいいじゃないですかー」
「仕事だ。遊びじゃない」
「そりゃそうですけどー。あ、ほら一人でやるより二人でやったほうが効率よくないですか!?」
「邪魔」
「えぅ……」
 ずーんと落ち込むメグ。そんな彼女を横目に見ながらレンは少し考え込んだ。SRにおいての行動は基本一人だ。集団というのは名目上。二人以上で行動することはまずない。メンバーひとりひとりが我が強すぎてチームワークどころではないのだ。しかし一人での捜査には限界がある。それにもし犯人を見つけたら……? 凶暴であろう犯人。いくら自分の腕に自信があるとしても、一人での『処理』だとどうしても時間がかかってしまう。じゃあ二人なら? うまくすれば行動の幅が広がる。最悪”盾”として使うことだってできる。
 ふと見るとメグは俯いたままとぼとぼと先を歩いていっている。
「おい、ちょっと待て」
 そんな彼女をレンは呼び止める。
「言うことを聞くなら。邪魔をしないなら一緒にいてもいいぞ」
 その言葉を聞くとメグは勢いよく振り返った。ぱぁと明るくなる表情。
「本当ですかっ! ありがとうございます!!」
 だだだだだとダッシュしてくるメグ。そのまま飛びつかれそうになったレンは軽く身を翻し避ける。
「うわぅ!」
 奇声を発しながら地面にダイブするメグをレンは何気に写メに収めていた。

 ***

「レンくんは犯人はどんな人だと思いますか?」
 街中を歩きながらメグはレンにふとそんなことを訊いた。レンはそんなメグに視線を向けることもなくただ目つきを鋭くする。
「犯人がどんなやつだろうと俺には関係ない。殺人は悪。どんなやつであれ排除する」
 信念にも聞こえる台詞。
「おー、こわいこわい。さすがレンくん。相手が女の子でも容赦しないタイプですね」
 メグは大げさに震えてみせる。
「ま、だからNo.2nd(セカンド)まであがれたんでしょうねー。私なんかじゃいつまでも無理です」
 6thであるメグはそんなことをいいながら空を見上げた。さっきまで照り付けていた太陽は今、大きな入道雲に隠れている。メグのランキングは6th。よく考えればこれの下にまだいるのか、とレンはどうしたらこんなヤツの下にランク付けされるのだろうとどうでもいいことに内心首を傾げる。
「お前はそんなぐだぐだしてるからいつまでも、変われないんだ。昔とちっとも変わっていないじゃないか」
「そう? 私だって変わったよぉ。いつまで経っても変わらないってことのほうが難しいんじゃないかな」
 

 雲の色はだんだん色調の暗いものへとすり替わっていく。夕立がきそうな雰囲気だった。


 それからしばらく会話は途切れた。メグとしては久しぶりにレンと一緒にいれるいい機会なのでもっと話をしたかったのだがレンが明らかに仕事モードだったので諦めた。メグも仕方なくまじめに操作に取り組むことにする。
 レンの捜査はすなわち「見る」「聞く」「感じる」。……研ぎ澄まされた五感をフルに使い行う。しかし聞き込み……もとい人と直接話すのは苦手のようで、聞きこみではいい情報も得られないでいる。それはメグ自身もよく知っていたことなのでその分メグは自分から進んで聞き込みを行った。
 黒い鴉の影(シルエット)が「SR」の証。それが刻まれた特別な警察手帳。それを見せればこの街の人間なら大抵、親切に協力してくれる。「SR」は行動こそ過激なところが多いが、街からの信頼は厚い。街中では「特殊警察」として通っている。
 ふと携帯のバイブレーダ音が聞こえた。鳴っていたのはレンの携帯だった。レンは携帯を取り出し表示を確認するとすばやく通話ボタンを押した。

「はい、なんでしょうかカイトさん」
No.2nd(セカンド) 、新情報だ。新しい被害者が出た』
「――――」

 電話の相手はカイトだった。その声は重々しく起きてしまった殺人を告げていた。

『数時間前に遺体が発見された。場所は市民図書館裏。ほら川があるだろう。その川原だ。数は三体。川原で遊んでいた子供たちらしい』
「……そう…………ですか」

 レンは頭痛を感じた。

『ただ今回は今までとちょっと違う。三体の被害者のうち二人は今までどおり首がばっさり。ただ一人、女の子だけ脳天に銃弾を喰らって死んでいる。首切りとは違って慣れてない感じだったな。銃を使ってみたものの面倒だったんでやはり首を斬った……てところか』
「ということは銃を所持ですか」

 銃を持っているか持っていないかでは対応がまったく変わってしまう。
 頭痛を我慢し冷静を保つ。

『その可能性は十分にある。注意しろ。情報はこんなもの……あぁそうだ。忘れるとこだった。重要な点がもう一個あった』
「――? まだ何かあるんですか」
『あぁ、そうだ。今回、はじめて目撃証言が得られた』
「! 目撃証言って犯人の……ですか?」
『他に何がある?』
 カイトは窘めるように返す。
『犯人像がなんとなくだが分かった』
「どんな感じなんですか」
『犯人は以外にも女だそうだ。しかも年も若い。見た目は――――』
 
 それを聞いてレンはさっきまでの頭痛とはまた別に眩暈を感じ倒れそうになった。ぐらりと視界が揺れ、しかしなんとかこらえる。
「レンくん……?」
 横でメグが怪訝そうに見つめている。

「分かりました……、情報ありがとうございました。……あ6thはここにいますのでこちらから伝えておきます。はい、では」
 レンは通話を切り、はぁと大きく息を吐いた。
「レンくん大丈夫? 顔、真っ青だよ」
 レンは心配そうに顔を覗き込んでくるメグを手で、大丈夫だ、と制す。
「――――また、殺されたそうだ」
 少し間を置いてレンは口を開いた。それを聞いてメグは今の電話がカイトからのものであったと理解した。
「それで今回は目撃者が出たらしい」
「へぇー、それ本当? ならよかったじゃん、犯人像が分かれば探しやすくなるし」
「いや、おかしいだろ」
「え?」
 メグにはレンの言おうとしていることが理解できない。犯人像が割れれば犯人を捜しやすくなるのは当然……。
「そうじゃない。いいか、バカでも分かるように説明してやる」
「バカ!? バカっていいました!?」
「まず普通に考えろ、前提からおかしい」
「無視!? さすが、レンくん!」
「犯人は目撃者を出さないんだ。目撃者のいると仮定される場所での殺人の場合、必ず目撃者は存在してしまう。だが一回目の殺人のときはその条理に反し、目撃者すら殺してしまった。あれは殺されたのを見たやつらが目撃者だったわけだがもろともだ。しかしそこに第三者は存在しない。全員が関わり合いを持っている。そこにいるだけで関わりだ。だから今回もそこに目撃者がいたわけだからそいつも殺されないとおかしいんだよ」
「??? よく分かりません……。犯人が気づかなかったからその目撃者さんは殺されなかったんじゃないですか?」
「いや犯人は目撃者に気づいているはずだ。なにせ目撃者は顔を見てるからな。だから人物像も割れた」
「なるほど……じゃあただ犯人が殺る気がしなかっただけかも……」
 人間の心理は分かりづらいものだ。犯罪心理学なんてものがある。犯人がどういう心理で犯行に及んだか……や事件から犯人の性格を割り出したりするものだ。事件が分かれば犯人が分かる。事件はそれを起こした本人そのものなのである。
「犯人は無慈悲さ。見たものは全て殺す、そんなやつだよ。だから殺さないはずがない」
 しらず、レンは唇をかんでいた。また人が死んだ、その事実がおもりとなってのしかかる。

 
 太陽が黒い雲に完全に覆われ辺りが暗くなった。生温かい風が頬を舐める。
 その風はあるものを運んできた。


「血のにおい……」
 レンは風の吹いてきたほうを見据える。その方向にあるのは市民公園。嫌な予感が頭を過ぎり――――
「行くぞ」
 それは自然、レンを衝き動かした。

「え、え、え?」
 メグはレンがいきなり走り出した理由が分からなかったがとりあえず、何かあったということだけは理解して走ってついていった。

-6-
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