「うっ…。面目ない私だ。どうやら、腹が空腹を訴えているようだ」
「どうやら、こっちに来て何も食べてなかったみたいだな。そうだ、これ食うか?
口に合うか知らねぇけど、食べてみろよ!」
そう言って俺は、霄にコンビニで買ったおにぎりを手渡した。
「な、何だこれは?何故三角形をしているのだ?」
「ああ、それおにぎりって言うんだぜ?」
「そんな食べ物が人間界にはあるのか?」
「へぇ、面白そうだね〜♪」
ルリが、身を乗り出して、俺の手に握られているおにぎりを覗き込んだ。
「何だ、お前も腹が減ったのか?食うか?」
「うん!」
いつもは、普段と変わらない味に、普通と感じながら、食べている俺だが、彼女達、
魔界の人間が、初めてみる食べ物を味わう時の笑顔を見ていると、
何故か俺の食べているおにぎりも、いつもよりも美味しく感じた。
彼女達は全く持って、俺達人間と変わらない顔立ちをしていて、全く違和感を感じない。
俺が三、四個のおにぎりを食べ終わり、満腹感を感じながらお腹を擦っていると、
ルリがまるで幼い少女の様に、俺の洋服の裾をひっぱって俺を呼んだ。
「何だ、どうかしたのか?」
「ねぇ、さっき響史と一緒に空を飛んだ時に、運動したから服が汗でビショビショなんだ…。
水浴びしたいんだけど、そんな場所ある?」
「み、水浴び?水浴びする場所はないが、シャワーならあるぞ?」
俺は、何のことか分からずとりあえず人間界でいうシャワーを紹介した。
「よく分からないけど、そこに連れて行って!!」
「ああ…。霄、お前はどうする?」
俺はとりあえず、霄に何となく意見を聞いたが、何の返事もなかった。どうやら、
おにぎりがよっぽど気に入ったらしく、おにぎりをじ〜っと見つめていた。
「…」
俺は、彼女の返事を待っているのがアホらしくなり、ルリだけ連れて、一階へ降りていった。
「ここが、風呂場だ…」
「風呂場?」
「ああ…。ここが、脱衣所でほら…、ここが浴場。で、あれがシャワーでここが浴槽。ここにつかって、
体の神経を休めて、一日の疲れを取るんだ!」
ひとまず説明を終えたが、彼女はよく理解できていないようだった。
「まぁ、実際に使ってみたほうが分かりやすいだろ?じゃ、俺リビングで待ってるから…」
俺が扉を開けて、廊下に行こうとすると、ルリがまたしても俺の服の裾を引っ張った。
「何だ?」
「待って…。私、まだよく使い方分かんない…。だから……髪洗ってくれない?」
その言葉に俺は顔を真っ赤にした。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない…」
俺は彼女から少し視線をそらした。
「…お前は平気なのかよ?」
「えっ?私は平気だけど、響史がダメっていうなら、これをすれば?」
そう言って、彼女に手渡されたのは、スイカ割りなどでは必需品である、目隠しだった。
「…これで、どうするんだ?」
「だから、目隠しをして髪を洗ってくれればいいよ…」
「そうじゃなくて、見えないだろ?」
俺はとりあえず、やってみるだけやってみるということで、目隠しだけした。
「やっぱり、何もみえない…。しかも真っ暗で何処に何があるのかも分からない…」
「大丈夫だよ。私がちゃんと指示するから…」
「わ、分かった…」
俺は心臓が破裂するくらい、鼓動が早くなるのを感じていた……。